ヴィッセル神戸△0-0△京都サンガF.C.
■半年後の弁慶と牛若丸
3月の対戦の戦評で「まるで弁慶と牛若丸の対決」という表現を使った。半年が経ち、その印象はやはり変わらない。神戸はとにかく京都の攻撃をガッチリと受け止め、そこから鋭い太刀筋でブン殴りにかかってくるようなショートカウンター。エステバンを中心とした中盤でボールを奪い取ってから、手数をかけずに小川慶治朗を走らせる。薙刀をぶん回すというよりは、剣道の鋭い突きのような攻撃(薙刀はポポキャノンだ)。そして「勝てば自力昇格」という大一番で、気力の充溢ぶりは凄まじい。フルハウスの歓声に後押しされて、「弁慶」が猛進してくるのだから、京都はたまらない。前半は神戸に圧倒的に支配され、危険なシーンもあったが、それでも無失点だったのはよく守った証。並大抵の精神力では守れない状況の中、神戸を上回る集中力で身を投げ出して相手に喰らい付いた。特に福村貴幸の粘り強さは特筆に値する。
京都の攻撃の方は、神戸に比べるとパンチ力不足。剣道ならば常に小手狙いだろうか。ただし時間が経つごとに、手数を繰り出して相手の体勢を崩せるようになった。特に後半75分からは京都ペース。ひらりひらりと相手をかわして主体的にボールを回すことはできたのだが、そこでもまたエステバンが現れてはかっさらう。エステバンがボールを奪いに出てきたところを上手く躱して、エステバン外しからの速攻が決まればよかったのだろうが、せっかくエステバンを外した後でプレー精度を欠いたのは悔やまれる。牛若丸がいくら身軽でも、扇子を持って飛び回ってるだけでは止めは刺せない。(奪ってから敵陣を一気に覆してしまうようになれば、奇襲名人の義経になれるのだが)。
■粘り腰
このゲームは今年の京都を象徴しているようなゲームだった。まず、前半の出来が良くない。そして、悪いなりにも耐えることができる。後半からパス回しのテンポが上がる。終盤にかかるにつれ相手を運動量で上回れる。そしてゴールを奪う能力が乏しい…。以上の特徴は今年何度も見た京都のゲーム運びだった。それは決して悲観することではない。思えば30節のファジアーノ岡山戦で我を通して玉砕的な大敗を喫したのち、ゲームを壊さない試合運びに切り替わった。7つ連勝を重ねて鹿島を追い詰めることができた原動力は、どんな相手でもきっちり粘り込めるリアリズムに他ならない。無失点で行けば、終盤にかけて走り勝てる運動量がある。今日は残念ながらそこでゴールを奪うことができなかったが、そこは紙一重。負けなきゃいい試合で「やあやあ我こそは」と名乗りながら勝負に出て、コロっと負けてしまうような愚を犯すこともないと、今日で確信できた。事実上自動昇格が絶望となった結果は残念だったが、完全アウェイの雰囲気の中で粘り腰をみせた戦いぶりは、悪くはない。今日負けなかった事は、きっとプレーオフで役に立つだろう。
〈京右衛門的採点〉
オ 7.5 …クロスをことごとく掴み取りシャットアウト。文句なし!エクセレント!
下畠 5.5 …動きは悪くないが、右サイドで優位を作れず。好守に思い切りを欠いた。
染谷 5.5 …相手にブチ抜かれるようなシーンもあったが、ピンチを救うカバーも目立つ。
バヤリッツァ 6.5 …ハイボールにパスカットに局面での強さを発揮。高い集中力だった。
福村 6.5 …粘り強く球際に行き、最後の最後を割らせないプレー。よく集中していた。
秋本 6.0 …前半の中頃から競り勝ちだし、後半はボールをよく拾って、よく奪った。
工藤 5.5 …ボールに触れば可能性が広がったが、登場する場面は少なかった。
倉貫 5.5 …序盤はまるで機能せず。バランスを修正して何とか立て直したが、平凡。
山瀬 5.5 …相手の寄せの速さに苦慮。個人突破狙いが多く、エステバンにも負けがちだった。
駒井 5.0 …運動量はあったが、仕掛けては失いピンチを招く。プレー精度も問題。
横谷 5.5 …1トップで張って孤立無援。よく身を呈したが、パスミスも目立った。
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原 5.5 …ボールを受ける所までは出来ていたが、ラストの精度を欠く場面多し。
三平 5.5 …エリア内に侵入すれど使われず。渾身ボレーは味方にヒット。持ってない。
中村 ――
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大木監督 5.5 …劣勢にも折れることなく、粘り強い試合運びから勝ちに行ったが、及ばす。