二条河原の楽書

京都サンガF.C.を中心にJリーグを楽な感じで綴るサッカー忘備録(予定)

球技専用スタジアム考(前編)

2014-12-03 | 蹴球


■現在進行中の専スタ計画おさらい
 2015年以降、球技専用スタジアムが相次いで完成する予定になっております(狂喜乱舞)。長野は来シーズンからの供用開始、吹田は再来年の(2016)シーズンから(上手く行けば来シーズン終盤?)、北九州は2017シーズンから供用される予定です。

【2015年春(3月?)完成予定】
南長野運動公園総合球技場
(建設主体:長野市

使用クラブ/AC長野パルセイロ
収容人数/15,575人
建設費/約80億円
進捗状況/工事中(完成間近)
【アクセス】篠ノ井駅からバス10分
【新幹線起点】長野駅から50分程度(乗換1回)
       (シャトルバスで20分?)
【特記事項】(広域的に見れば)あの“川中島古戦場”



【2015年秋(10月?)完成予定】
吹田市立スタジアム(仮称)
(建設主体:スタジアム建設募金団体・吹田市に寄付)

使用クラブ/ガンバ大阪
収容人数/40,000人
建設費/約140億円
進捗状況/工事中(スタンド等構築中)
【アクセス】万博記念公園駅から徒歩20分?
【新幹線起点】新大阪駅から50分程度(乗換1回)
【特記事項】エキスポ'70が開催された場所だよ



【2017年春完成予定】
北九州市立スタジアム(仮称)
(建設主体:北九州市

使用クラブ/ギラヴァンツ北九州
収容人数/15,000人
建設費/約80億円
進捗状況/設計完了(2015年4月~工事着手)
【アクセス】小倉駅から徒歩7分
【新幹線起点】小倉駅から徒歩7分
【特記事項】幕末、海の対岸から奇兵隊が攻めて来た



【2018年春(?)完成予定】
京都スタジアム(仮称)
(建設主体:京都府

使用クラブ/京都サンガF.C.
収容人数/25,000人予定
建設費/約100億円
進捗状況/基本設計(設計者選定)
【アクセス】亀岡駅から徒歩3分
【新幹線起点】京都駅から25分程度(乗換なし)
【特記事項】駅の反対側は明智光秀が本能寺に出撃した城


 京都については計画は具体化しているものの、タイムスケジュールがイマイチはっきりしていません。予定通りなら2018シーズンからの供用開始かと思われます。(→今後の予定は後編で考察)



■専用スタジアムとは何か?
 それでは球技専用スタジアム(専スタ)とは一体何なのか?なぜ京都に専スタが必要なのか、そこらへんのところを整理してみましょう。

専スタの必要性
 例えば、交響楽団はコンサートホールで演奏すべきということは、多くの方が理解できることかと思います。どんなにいいオーケストラでも、体育館で演奏するのでは本来の“凄さ”は伝わりません。どんなジャンルであれ、観客が最も楽しめるための「場」が必要であり、[演者]―[観客]―[場]によって1つの世界が構成されます。能には能楽堂があり(床の工夫とかすごい!)、落語には常打ち小屋があるのです(発祥は必ずしも小屋を必要としないけど)。
 オーケストラや能が娯楽であり文化あるのと同様に、スポーツも文化としての側面があります。サッカーだってそう。ただし「場」を持っていないと本当の“凄さ”は伝わらぬのです。甲子園球場という「文化を象徴する舞台」を持つ野球とは大きな差があります。地域スポーツであるサッカーが、100年後に立派な文化たるためにも、やはり地域ごとにふさわしい「場」を持つことは重要なのです。

京都府の場合
 京都府および京都市の場合、5,000人以上の観客を収容できる球技専用の競技場は宝ヶ池球技場(2,000+芝生席)ただ1つで、しかも人工芝(Jリーグは開催不可)。陸上競技場を含めても西京極(20,000)以外では太陽ヶ丘(1,800+芝生席)、亀岡運動公園(1,200+芝生席)、丹波自然運動公園(1,100+芝生席)、園部公園(1,000+芝生席)程度という貧弱さ。当然ながら西京極にスポーツイベントや興行が殺到し、プロリーグですら3週間待っての開幕戦…という残念な状況となっております。
 戦前の1930年着工(1942年完成)という西京極陸上競技場兼球技場は、現在Jリーグで使われている競技場では最古。当然ながら設備は古く、観客が心地よく観戦できるという基準では最低ランクです。ちなみにクラブライセンスは「新規競技場計画」を条件に制裁を免れております。要するにとっとと新スタジアムを建てなければ、京都にはJクラブは存在できぬということ。そういう貧弱極まりない状況を何とかせねばならぬ、ということで煮え切らない京都市を尻目に山田啓二京都府知事が立ち上がり、新スタジアム構想となった訳であります。

[参考]西京極総合運動公園陸上競技場兼球技場



■専スタに期待すること
 それでは専用スタジアムって一体何が魅力的なの? そんなことは一度でも専スタ観戦を体験された方ならご存知なではあるとは思いますが、個人的に重要なことだと思う順に記します。

《1位》閉鎖的空間であること
 閉鎖的というとネガティブな印象ですが、空間のことです。外界から閉じた空間に一步足を踏み入れると「ケ(日常)」から一転、「ハレ(非日常)」の舞台になります。そこに劇場空間が生まれ、目の前で行われることに没頭できるのです。これはどんなジャンルでも同じですね。さらに音響効果の面でも閉じていることは重要で、応援や歓声は外に逃げることなくスタジアム全体を渦巻きます。
 西京極が最もダメのはこの点、閉鎖性の乏しさだと個人的には考えています。スタンドとスタンドの間にマラソンゲート等の大きな空間があり、全てを逃してしまいます。メインスタンドからは街が、バックスタンドからは山並みが見えて綺麗ですが、そのことは日常の延長の空間であることを意味します。
 スタンドを360°閉じてしまうと芝の育成などの問題も出てきますが、そのあたりをどうにか工夫して「きちんと閉じた」スタジアムにしてほしいものです。

[参考]閉じたスタジアムの代表例・ノエビアスタジアム。なお、芝は…


《2位》全面覆う屋根
 上記の閉鎖的空間を作る上でも重要なアイテムになるのが、屋根の存在。全面覆う屋根があると外の風景は見えにくくなり、閉鎖性も一段と向上します。もちろん屋根本来の役目は雨露をしのぐこと。西京極のように、観客が2時間(待機時間含めれば3~4時間)雨ざらしになるスタジアムは、エンターテインメント以前の問題です。それから屋根があれば夏に猛烈な日差しを防ぐエリアだって生まれます。ナイトゲームとはいえ、陽が落ちるまでは暑いのです(特にバックスタンドは)。あとは屋根があると虫も降ってこなくなりますね。
 京都スタジアム(仮)の場合、亀岡駅から徒歩3分という絶好のロケーションです。駅からのアプローチルートにも屋根を付ければ、“一切雨に濡れずに済むスタジアム”も夢でありません。それから環境との共生を強く印象づけるためにも、スタッド・ドゥ・スイス(BSCヤングボーイズのホーム)のようにスタジアムの屋根を太陽光発電パネルにするのもよいアイデア。前出スイスの屋根にも使われているソーラーパネルはメインスポンサー様のCMで優希美青ちゃんが叫んでるほどの主力商品でもある訳ですし…。(てゆうかネーミングライツと抱き合わせで設計段階から太陽光屋根を構想すべき話)

[参考]全面屋根だけとちょびっと隙間も開いてるフクダ電子アリーナ


《3位》スタンドの傾斜
 一般的には「プレーを間近で見たい」という意見が多いのですが、個人的には「ピッチ全体を俯瞰で見たい」のです。サッカーは近くでみると遠いサイドが見えにくくなる競技で、実際サンガタウンの金網越しに見ても何のことやらわからない。観戦という観点からいえば、斜度を思い切り付けて、2層式にして俯瞰で見下ろせる形が理想です。実はスタンドに高さや傾斜があるのならば、陸上トラックが付いていてもさほど見にくくはないんですよね。それくらい重要です、傾斜。
 傾斜+高さといえば豊田スタジアムでしょうか。4階席は「登頂」に例えられるほど高く、その眺めはまさに天界(あまりに大きすぎてピッチまでは割と遠い)。聞くところによると、北九州の新スタジアムは日本最高の傾斜角(40°以上)になるとか。斜度を強くすると建築面積がコンパクトで済むというメリットもあります。ぜひ京都スタジアム(仮)も大きな斜度を持つメインスタンド&バックスタンドを期待したいところです。ゴール裏はどっちでもいいです。

[参考]豊田スタジアム4階席“登頂”からの眺め


《4位》フィールドの近さ
 4番目は「球技専用」でしか出せないメリット。陸上トラック+αがなくなりフィールドとの距離が近くなるので、当然プレーは目の前で行われることになり、臨場感は格段にアップします。ゼロタッチといってピッチと同じ高さに最前列を持ってくることにこだわる方もいらっしゃいますが、個人的にはベストアメニティスタジアムのように嵩上げして高さを持たせた方が見やすさを確保できると思います。まぁでも「近くで見たい」「上から見たい」の両方をニーズに対応するため、ゼロタッチの1層目+2層目という形が良いのかな、と。
 ちなみにサッカー専用と球技専用との差は、ゴール裏をラグビーを考慮したをスペースの確保、でしょうか。レベルファイブスタジアムのように少しスタンドとゴールラインが遠くなるものですが、ヤマハスタジアムの場合はかなり近くなっております。京都スタジアム(仮)もラグビーでも使うスタジアム。サッカー、ラグビー双方の意見を出し合って、ほどよい距離感を設定してもらいたいものです。

[参考]見やすさNO.1の鳥栖スタジアム(現ベストアメニティスタジアム)。ゴールの裏はラグビー考慮型


《5位》映像・音響装置
 4位までに挙げた点を満たせばスタジアムは立派な劇場空間たりえるのですが、劇場を演出できる設備があればさらに楽しさはアップします。いわゆるカラービジョンですね。選手紹介からリプレー、前節ハイライト、場内アップ映像、スポンサーの紹介…などなど、ありとあらゆる情報を提供できます。また、コンサート等まで考慮する多目的スタジアムを目指すなら、ズンズンと響く音響も欠かせません。幸いにも京都スタジアム(仮)の立地は、騒音問題等とは無縁ですが、スタジアムの構造を閉鎖的にすることで、外に漏れる騒音は減らすことができます。
 現在J1とJ2のスタジアムでカラー映像装置がないのは西京極と北九州市立本城陸上競技場だけ。カラーではないゆえ苦肉の策として誕生した「西京極のドット絵」も後世に伝えていきたい京の伝統の技ではありますが、キラーンと光ってビュッと文字が飛んで、バーンと顔写真が登場するような、そんな選手紹介の方が……見たいです。


《6位》座席とトイレの充実
 立って応援される方はさておき、座席は観戦者がだいたい2時間~2時間半(新幹線のぞみ東京~京都間くらいの時間!)は座る場所ですから、そこは最も快適性に気を配るべき場所です。現状西京極などの古いスタジアムの場合は、日本人の体格がまだまだ小さい基準で設計されているため1つ1つの座席の幅がやたら狭く、詰めた場合に非常に不快です。ある程度の幅を取った上で、背もたれ&ドリンクホルダーは必需。グレードの高い席は、よりグレードの高いシートにして高付加価値を付けてもよいかと思います。
 トイレは、数をしっかり揃えておくことが必要不可欠であることは言うまでもないことですが、マーケティングの見地からも充実が求められる施設。トイレに不満があれば「(用事がないなら)二度と行きたくない」と思うのです。あとはトイレまでの近さ。コンコースへスムーズに出られて、すぐにトイレがある…というのが理想。ノエビアスタジアムなどは上の方に座ってしまうとトイレまでかなり時間がかかります。トイレを分散配置して、どの席からも一定の距離感でトイレにアクセスできる導線を確保してもらいたいものです。


《7位》託児所
 7位としましたが、もっと優先順位が高くなる方もいるかと思います。スタジアム内外に幼児を預けられる場所を併設することは、どんなイベントを開催する場合でもニーズがあることで、集客施設のホスピタリティそのものです。
 また遊具を備えた託児スペースは、イベント開催時以外にも「子どもが遊べる場所」として使えます。整備等の制約がなければ、子ども達にピッチを開放して、思いっきり芝の上を裸足で走ってもらって芝に親しんで“転んでも痛くない天然芝の魅力”を全身で体感してもらいたいものです。


《8位》スタジアムグルメ
 スタジアムに「来て楽しい」「行きたい」と思わせるためには、スタジアムの外側も大事です。ハード面というより運営面になりますが、周辺に飲食出店がズラリと並び、美味しい温かい料理が提供できるようなスタジアムであってほしいものです。もちろん、コンコース内部にもブースがあって、何ならノエビアスタジアムのようにレストラン等があってもいいですね。
 幸いにも建設地の亀岡および丹波地域は、京都有数の農産物生産地域。カシマスタジアムのように地元の人々が優先的に出店できる仕組みにして、外から来た人々が(特産物や名物に)喜んでお金を使って、地元が少しでも潤い、賑わうようにしてもらいたいものです。もちろんどんなグルメが提供できるか?も重要なのですが、それ以前に地元の人が出店できなければお話になりません。サッカー開催時以外でも、丹波地域の特産物などを取り扱う店舗が常設されていれば、日常的にスタジアムを足を運ぶ機会を作れると思いますが(もちろん集客のためには工夫は必要)、いかがでしょう。



おっと、書きたいことがいろいろありすぎて、ついつい長くなってしまいました。
後編につづく―
(次回は京都スタジアム(仮)の環境面と交通アクセス、タイムスケジュールの考察です)