■戦略的撤退の重要性
物事は時に思い通りには運ばないものです。どんなに準備を重ねようとも、状況が一変してしまい、立てていた戦略の見直しを迫られる時だってあります。
戦国武将の中で、とりわけ退く判断が冴えていたのは織田信長でしょうか。仲間入りを拒む越前朝倉氏を攻めていた最中、完全に身内と思っていた浅井長政に反旗を翻されますが、信長は即座に身ひとつでの撤退の判断を下し、敦賀から京に逃げ帰ります(金ヶ崎の退き口)。すぐさま戦略を立て直し、まずは浅井を潰しにかかって、天下に覇を唱えていきました。信長はその他何度も逃亡劇を演じています。
一方、退く判断を誤った代表例が大友宗麟。島津氏に敗れた日向の伊東氏の要請に「おう!まかせとけ」と大軍を動かしますが、島津方の高城の包囲が長引いたあげく、島津勢の急襲を浴びて大敗(耳川の合戦)。実は大友家はこの時、キリスト教に対する考え方の違いから家中はバラバラで、命令を聞かない家臣がいたほど。その後大友氏は衰退の一途をたどります。
サッカークラブも、勝ち上がるために、生き抜くために、それぞれが戦略を立てて日本全国に割拠しています。特にJ2はまさに戦国乱世の縮図のようで、必ずしも富める者が強者ではなく、貧しき者でも下剋上を遂げられる戦国時代。当然、シーズン前に立てていた戦略がハマるクラブもあれば、あてが外れてしまうクラブもあるのです。
アテが外れてしまった時、大事なのはいかに上手く「戦略的撤退」に踏み切れるか。信長だって金ヶでの撤退戦略を誤れば、THE ENDだったはず。ヤバいな、と気づいた時点で戦略を練り直さないとなりません。
■野口発言にみる戦略ミス
42節中19節を終え、京都サンガは勝点19で17位(入替戦圏の21位と勝点差3/プレーオフ圏の6位まで勝点差12)と、クラブ史上最低順位の低空飛行のまま低迷しています。単純に順位が下というだけでだけでなく、内容も伴っていないのが痛いところです。
低迷の原因ですが、「長いシーズンをどう戦うのか?」という段階での戦略ミスにあるのと思わざるをえません。戦略性の乏しさは、昨年12月のサポーターズミーティングで野口強化部長の話【※参考資料】を聞いた段階で予知できたことでした。もはやツッコミどころの玉手箱のようです。
最初にまずにツッコミを入れたいのは、目指すサッカーの具体性のなさ。「攻守においてバランスの取れたサッカー」「シンプルに、バランスを取ってチャレンジ」。それっぽい言葉を並べるだけで何ら具体性がありません。そこがぼんやり・ふんわりしてる以上、よほど確固たる“哲学”を持ってる監督を連れて来ない限り「個人能力頼み」にしか仕上がらないのは自明でした。
曖昧な設計図しか描けていないまま「戦術家よりモチベーター」としてなぜかタイから和田監督を連れて来たのは、もはや「じぇじぇじぇ!」と言いたくなりそうなコメディドラマのよう。選手を上手く乗せてる場面も、得点者が監督に抱き付きに行くシーンも記憶にございません。オリベイラ…?言うだけはタダですね。モチベーターを舐めてはいけません。
野口氏曰くの「ダニエルロビーニョで大黒のマークを分散させる」という目論見は完全に机上の空論でした。ダニロビがどうこうより、ちょっと大黒の持つ特性への理解不足かと。大黒は自らが生きるスペースが必要な選手なので、ストライカータイプとは干渉し合うし、そもそも相手は大黒みたいなデンジャラスな存在を、(ダニロビがいるからといって)野放しにはしません。ダニロビについては、“ごく平凡なアタッカー”のまま半年が過ぎました。身体のキレも上がらず、大黒との相性も良くないまま…。
「セットプレーのキッカー」とは、黄辰成を指しているかと思いますが、ベルギー2部で6試合しか出てなかった時点で稼働率が低いor実力不足であろうことはかなりの人が予見できたことですね。実力があったとしても、初めて日本でプレーする外国人は、環境順応性でアタリハズレもある訳で。金南一も今のJ2のスピードには対応しきれているとは言えず、(必要なタイプではあるけれども)格の違いを見せ付けるほどでありません。「ベテランだし怪我が心配」という多くの民衆の懸念通り、怪我で離脱してしまいました。
■誰が戦略を立てたのか?
ただ、今年のチーム戦略、チーム編成を新人の野口氏が立てたとは到底思えないのです。補強選手(特に外国人)を、さほどコネも持ってなさげな野口氏が連れてきたとも思えず。何といいますか、まず補強選手の名前がありきで、強化ポイントを後付けしたようにも思えます(セットプレーのキッカーあたりは特に)。
じゃあ誰が今年のチーム戦略を立てたのか?誰が監督や外国人を連れてきたのか?ってことになります。和田監督に関してはイヤーブックにも明記されてる通り、今井社長が熱心に口説いた、ということになっています。オファーをもらったのは和田氏曰く「去年の夏過ぎぐらい」。(ちなみに野口氏への就任の話は「昨秋ごろ」だそうですので、野口氏よりも先だったと思われます)
※KBS京都開幕特番より
でもね…親会社からの出向でサッカー素人のはずの今井社長が、数あるS級ライセンス保持者の中からわざわざタイにいた和田監督をピックアップするでしょうか?それもまだ任期の途中に話を持ちかけてまで…。(スタジアムの件で神戸関係とは少しは接点があるにしても)ある意味素人人事じゃない。おそらく、どこの誰だか知らないけれど、社長やフロントにアドバイスをしている“関係者”がいらっしゃるのでしょう。昨オフ、移籍情報がポロポロとメディアにリークされいていたあたりを含めても、その筋の方が背後にいて…と考えるのはただのネガティブ妄想でしょうか?
かつてチーム名がパープルサンガだった時代、とりあえず元日本代表とか名前が通っているけどピークを過ぎた選手をかき集めていた時代がありました。チームとして進むべきベクトルもなく、漫然と“出たとこ勝負”のサッカーを繰り広げていたあの暗黒時代に、今のチームがどこか似ていると思うのは思い過ごしでしょうか。思い過ごしだと、いいなぁ…。
■誤った戦略を捨てる勇気を
競争相手のいるところで戦っている訳ですから、誤った戦略(または戦略なしの状態)で臨んでしまうと、有り難いことに、結果が「あんたら間違えてるんじゃないの?」教えてくれます。「おかしいなぁ…」「こんなはずでは…」と思っていいのは最初の2ヶ月くらいでしょうか。半年経ってお粗末な内容で結果も出ないのならば、それすなわち戦略ミスで間違った道を進んでいることに気づくべきなのです。
甘い状況判断のまま“理想郷実現”の名の元にズンズンと前に進んで破滅していった宗麟の道を歩むのか、1度退いて状況を整理し、目指すべき標的を定め直して再スタートをきった信長の道を歩めるのか。生死は、立ち戻る戦略…撤退戦略をいかに描くかで決まります。まずはよくわからない戦略(とそれを立案した存在)を捨て去る勇気を。そしてクラブの近未来(1年後とか2年後)の姿を「地に足を着いた目標」として設定し、そこに至るまでの具体的なプラン(=目指すべきサッカー像→選手構成)を描けるプロフェッショナルを連れて来ること。GM職でも、またはGM的に働ける監督でも。ひとつ例を挙げれば、北九州の柱谷幸一監督は、新スタジアムの出来る2017年に大目標を設定し、逆算してチーム作りを積み重ねています。
以下、2015シーズンスローガンより。
〈何事においても、結果を真摯に受け止めることから、成長の第一歩は始まると考えております。〉〈成長の歩みを進めるために、勇気をもって「改め、新しくする。」この真摯な姿勢こそが、今のサンガに最も必要な考え方であり、姿勢〉
結果を真摯に受け止めて勇気をもって改めるという素晴らしいお題目じゃないですか。今こそそれを実行する時ですね。それにしても真摯というワードを使いすぎです。せっかくいい言葉なのに、真摯がインフレーションを起こして言葉の価値も目減りしま
す。もっともらしく当たり触りのいい言葉を並べて具体的なことをぼやかすのは、決して「真摯」ではありませんことよ。
物事は時に思い通りには運ばないものです。どんなに準備を重ねようとも、状況が一変してしまい、立てていた戦略の見直しを迫られる時だってあります。
戦国武将の中で、とりわけ退く判断が冴えていたのは織田信長でしょうか。仲間入りを拒む越前朝倉氏を攻めていた最中、完全に身内と思っていた浅井長政に反旗を翻されますが、信長は即座に身ひとつでの撤退の判断を下し、敦賀から京に逃げ帰ります(金ヶ崎の退き口)。すぐさま戦略を立て直し、まずは浅井を潰しにかかって、天下に覇を唱えていきました。信長はその他何度も逃亡劇を演じています。
一方、退く判断を誤った代表例が大友宗麟。島津氏に敗れた日向の伊東氏の要請に「おう!まかせとけ」と大軍を動かしますが、島津方の高城の包囲が長引いたあげく、島津勢の急襲を浴びて大敗(耳川の合戦)。実は大友家はこの時、キリスト教に対する考え方の違いから家中はバラバラで、命令を聞かない家臣がいたほど。その後大友氏は衰退の一途をたどります。
サッカークラブも、勝ち上がるために、生き抜くために、それぞれが戦略を立てて日本全国に割拠しています。特にJ2はまさに戦国乱世の縮図のようで、必ずしも富める者が強者ではなく、貧しき者でも下剋上を遂げられる戦国時代。当然、シーズン前に立てていた戦略がハマるクラブもあれば、あてが外れてしまうクラブもあるのです。
アテが外れてしまった時、大事なのはいかに上手く「戦略的撤退」に踏み切れるか。信長だって金ヶでの撤退戦略を誤れば、THE ENDだったはず。ヤバいな、と気づいた時点で戦略を練り直さないとなりません。
■野口発言にみる戦略ミス
42節中19節を終え、京都サンガは勝点19で17位(入替戦圏の21位と勝点差3/プレーオフ圏の6位まで勝点差12)と、クラブ史上最低順位の低空飛行のまま低迷しています。単純に順位が下というだけでだけでなく、内容も伴っていないのが痛いところです。
低迷の原因ですが、「長いシーズンをどう戦うのか?」という段階での戦略ミスにあるのと思わざるをえません。戦略性の乏しさは、昨年12月のサポーターズミーティングで野口強化部長の話【※参考資料】を聞いた段階で予知できたことでした。もはやツッコミどころの玉手箱のようです。
最初にまずにツッコミを入れたいのは、目指すサッカーの具体性のなさ。「攻守においてバランスの取れたサッカー」「シンプルに、バランスを取ってチャレンジ」。それっぽい言葉を並べるだけで何ら具体性がありません。そこがぼんやり・ふんわりしてる以上、よほど確固たる“哲学”を持ってる監督を連れて来ない限り「個人能力頼み」にしか仕上がらないのは自明でした。
曖昧な設計図しか描けていないまま「戦術家よりモチベーター」としてなぜかタイから和田監督を連れて来たのは、もはや「じぇじぇじぇ!」と言いたくなりそうなコメディドラマのよう。選手を上手く乗せてる場面も、得点者が監督に抱き付きに行くシーンも記憶にございません。オリベイラ…?言うだけはタダですね。モチベーターを舐めてはいけません。
野口氏曰くの「ダニエルロビーニョで大黒のマークを分散させる」という目論見は完全に机上の空論でした。ダニロビがどうこうより、ちょっと大黒の持つ特性への理解不足かと。大黒は自らが生きるスペースが必要な選手なので、ストライカータイプとは干渉し合うし、そもそも相手は大黒みたいなデンジャラスな存在を、(ダニロビがいるからといって)野放しにはしません。ダニロビについては、“ごく平凡なアタッカー”のまま半年が過ぎました。身体のキレも上がらず、大黒との相性も良くないまま…。
「セットプレーのキッカー」とは、黄辰成を指しているかと思いますが、ベルギー2部で6試合しか出てなかった時点で稼働率が低いor実力不足であろうことはかなりの人が予見できたことですね。実力があったとしても、初めて日本でプレーする外国人は、環境順応性でアタリハズレもある訳で。金南一も今のJ2のスピードには対応しきれているとは言えず、(必要なタイプではあるけれども)格の違いを見せ付けるほどでありません。「ベテランだし怪我が心配」という多くの民衆の懸念通り、怪我で離脱してしまいました。
■誰が戦略を立てたのか?
ただ、今年のチーム戦略、チーム編成を新人の野口氏が立てたとは到底思えないのです。補強選手(特に外国人)を、さほどコネも持ってなさげな野口氏が連れてきたとも思えず。何といいますか、まず補強選手の名前がありきで、強化ポイントを後付けしたようにも思えます(セットプレーのキッカーあたりは特に)。
じゃあ誰が今年のチーム戦略を立てたのか?誰が監督や外国人を連れてきたのか?ってことになります。和田監督に関してはイヤーブックにも明記されてる通り、今井社長が熱心に口説いた、ということになっています。オファーをもらったのは和田氏曰く「去年の夏過ぎぐらい」。(ちなみに野口氏への就任の話は「昨秋ごろ」だそうですので、野口氏よりも先だったと思われます)
※KBS京都開幕特番より
でもね…親会社からの出向でサッカー素人のはずの今井社長が、数あるS級ライセンス保持者の中からわざわざタイにいた和田監督をピックアップするでしょうか?それもまだ任期の途中に話を持ちかけてまで…。(スタジアムの件で神戸関係とは少しは接点があるにしても)ある意味素人人事じゃない。おそらく、どこの誰だか知らないけれど、社長やフロントにアドバイスをしている“関係者”がいらっしゃるのでしょう。昨オフ、移籍情報がポロポロとメディアにリークされいていたあたりを含めても、その筋の方が背後にいて…と考えるのはただのネガティブ妄想でしょうか?
かつてチーム名がパープルサンガだった時代、とりあえず元日本代表とか名前が通っているけどピークを過ぎた選手をかき集めていた時代がありました。チームとして進むべきベクトルもなく、漫然と“出たとこ勝負”のサッカーを繰り広げていたあの暗黒時代に、今のチームがどこか似ていると思うのは思い過ごしでしょうか。思い過ごしだと、いいなぁ…。
■誤った戦略を捨てる勇気を
競争相手のいるところで戦っている訳ですから、誤った戦略(または戦略なしの状態)で臨んでしまうと、有り難いことに、結果が「あんたら間違えてるんじゃないの?」教えてくれます。「おかしいなぁ…」「こんなはずでは…」と思っていいのは最初の2ヶ月くらいでしょうか。半年経ってお粗末な内容で結果も出ないのならば、それすなわち戦略ミスで間違った道を進んでいることに気づくべきなのです。
甘い状況判断のまま“理想郷実現”の名の元にズンズンと前に進んで破滅していった宗麟の道を歩むのか、1度退いて状況を整理し、目指すべき標的を定め直して再スタートをきった信長の道を歩めるのか。生死は、立ち戻る戦略…撤退戦略をいかに描くかで決まります。まずはよくわからない戦略(とそれを立案した存在)を捨て去る勇気を。そしてクラブの近未来(1年後とか2年後)の姿を「地に足を着いた目標」として設定し、そこに至るまでの具体的なプラン(=目指すべきサッカー像→選手構成)を描けるプロフェッショナルを連れて来ること。GM職でも、またはGM的に働ける監督でも。ひとつ例を挙げれば、北九州の柱谷幸一監督は、新スタジアムの出来る2017年に大目標を設定し、逆算してチーム作りを積み重ねています。
以下、2015シーズンスローガンより。
〈何事においても、結果を真摯に受け止めることから、成長の第一歩は始まると考えております。〉〈成長の歩みを進めるために、勇気をもって「改め、新しくする。」この真摯な姿勢こそが、今のサンガに最も必要な考え方であり、姿勢〉
結果を真摯に受け止めて勇気をもって改めるという素晴らしいお題目じゃないですか。今こそそれを実行する時ですね。それにしても真摯というワードを使いすぎです。せっかくいい言葉なのに、真摯がインフレーションを起こして言葉の価値も目減りしま
す。もっともらしく当たり触りのいい言葉を並べて具体的なことをぼやかすのは、決して「真摯」ではありませんことよ。