<「光悦」(松本清張作)(その1)より、続く>
松本清張さんの、「光悦」、という小説は、
京都の北、鷹ヶ峰の麓の、いわゆる、光悦芸術村に住む、刀剣の鍔、鞘飾りの細工などに携わる鋳金師の、独白というかたちで、
本阿弥光悦その人や、光悦を囲む芸術家たちとの関わりを、描いている。
京都・鷹ヶ峰の麓の一帯が、徳川家康その人から、下賜された、というのは、有名な話だが、
そうした将軍家や、板倉勝重ら幕府要人との関係、烏丸光広や松花堂昭乗など公卿衆との交わり、
角倉素庵や茶屋次郎四郎、尾形宗柏(光琳の祖父)など、京の豪商との交友など、
本阿弥光悦は、彼が生きた、江戸時代初期という時代の、有力なパワーすべてと、強力なパイプを持っていた。
幕府=権力、貴族=権威、豪商=富(金力)、それらすべてとコネクションがあったのだから、鬼に金棒だったろう。
光悦は、そうした力を背景に、俵屋宗達など、周囲の芸術家や芸工たちを、自在に操った、というのだ。
清張は、宗達が描いてきた絵のうち、何枚かを、宗達の前で、平然と破り捨てる、光悦の姿を、描いている。
書など一部を除いて、直接自らの手によらず、
もっぱら、アート・ディレクターとして、世に君臨し、後世に名を残した、本阿弥光悦という人の、日本芸術史上の特異性は、
なるほど、こうした力を背景に、可能であったのか、と、松本清張さんの、「光悦」、という小説は、読む者を納得させる。
なお、この「光悦」、という作品は、松本清張さんが、日本史に名をとどめる芸術家たちを描いた、「小説日本芸譚」という、歴史小説集(新潮文庫)に収録されており、
この小説集には、「光悦」のほか、
「運慶」、「世阿弥」、「千利休」、「雪舟」、「古田織部」、「岩佐又兵衛」、「小堀遠州」、「写楽」、「止利仏師」が収録されている。
小説日本芸譚 (新潮文庫) 価格:¥ 460(税込) 発売日:2008-04 |