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森の空想ブログ

五穀の豊穣を感謝し、新穀を醸して神前に捧げる神楽/高千穂「天岩戸神楽33番大公開祭」にて② [宮崎神楽紀行〈21-9〉]

 高千穂神楽に通い始めて30年以上の年月を重ねたが、私は、天岩戸神社で開催される「天岩戸神楽」を観るのは今回が初めてのことであった。というのは、山深い村々に伝わる神楽を訪ねる悠遠の旅に導いてくれた神楽研究家が、初見の感動と発見に驚き続ける私に、

 「天岩戸神社の神楽は観光の客寄せのようなものだから、見なくてもいいです」

 と、断言し、冷淡な態度を示したものだから、その言に従って、私はこれまで見逃してきていたのだ。ところが、今季、コロナ過の影響で他の地区の神楽が中止または縮小を選択するなかで、この「天岩戸神楽33番大公開祭」は、一部の縮小はあるものの33番に近い番付を実施・公開するというのである。まことにありがたい機会だから、出かけた。そして、2年ぶりの本格的な神楽を、延々11時間にわたり、見続けたのである。その結果、私にとっての先導神の役割であった先達の解釈とは異なり、この神楽が、神前に秋の稔りと収穫を感謝する儀礼であり、神楽の本義を伝える「村の祭り」であることが確認できた得難い機会となったのである。“聞く”と“見る”とは大違い。自分の眼で確かめるまで、神楽に関する安易な解釈は控えることを肝に銘じた一日でもあった。

 神楽は、神迎えの神事舞に続き、「袖花」「本花」という直面の舞がある。演目名が示すとおり、稲の穂を「花」と見立て、その開花から結実へと向かう季節を祝う儀礼である。「袖花」では、舞衣の袖を激しく振り、腕に巻きつけ、また解いては振りながら舞う。「本花」では、白衣の舞人四人が、「盆」を捧げて舞う。稲の花に神を依りつかせ、稲穂の稔りを寿ぐのである。この二番を舞うのは、「天鈿女命」「抓津姫命(ツマツヒメノミコト)」「石凝止姥命(イシコリドメノミコト)」「木花咲邪姫命」の四神である。土地神である女性シャーマンが舞い、稲の生育と実りを祈願する神事儀礼だということがわかる演目である。

 この日は上演が省略されたが神楽本来の番付では「五穀」がこれに続く。米・黍・粟・豆・稗の五穀を捧げ持った神々が出て、その稔りを喜び、祝う。この三番が連続した農耕儀礼であることがわかる。さらに番付は、「御神体」へと続く。御神体とは、「酒濾しの舞」とも呼ばれるように、新穀を醸し、酒を造って神に捧げる収穫感謝の儀礼である。

 この「御神体」が私は苦手というか、はっきり申せば、“嫌い”である。その本義が忘れられて、酒造りの際に酔っぱらった男神と女神が抱き合い、生殖行為に及ぶのである。それが観客受けして、どっと客席が沸く。それゆえ、サービス精神が高じて、露骨な性的描写となる例がある。それを、各種のメディアやアマチュアカメラマン諸氏などが取り上げて、これが高千穂神楽である、と言わんばかりの情報発信となる。大いなる誤解は、増幅しながら、さらなる勘違いを発生させてゆくのである。私に「見世物化した神楽は見なくて良い」と言ってくれた先達や、過剰な演技に眉を顰める神楽研究者などはこの事例に象徴されるであろう。私は、この演目が始まると、神楽の場を離れて散歩に行く。あるいは出店の蕎麦を喰いに行く。それが私なりの対応の仕方である。

 もう一度いう。高千穂神楽の「御神体」は性を笑いものにする余興ではなく、神聖な稲作儀礼であり、模擬的な生殖行為は、五穀の稔りと子孫繁栄を祝う感染呪術と呼ばれる呪法の一種なのである。願わくば、神楽の番付編成をもう一度見直して、本来あるべき姿に戻してもらえるとありがたい。順番が後先になり、一連であるべき儀礼がぶつ切りとなって、神楽そのものをわかりにくくしているという現状は、現代の伝承者と神楽研究者や鑑賞者たちの間で再検証され、見直されてゆくべき課題だと私は思うのである。その資料は、先人たちが残した記録や研究書がある。高千穂神楽の奥行の深さは、ここでもわかるのである。

*続きは明日。写真は緒方俊輔氏のフェィスブックから転載。


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コメント一覧

仮面大好きっ子
初めまして。由布院空想の森美術館に伺いたく、ウェブサイトの最新情報では金土日の営業と記載されておりましたが、現在も金土日のみの営業でしょうか。お教えいただけますと幸いです。
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