
記紀神話におけるアメノウズメノミコト(天鈿女命)の出番は、二段。いずれも女性シャーマンとしての呪術的な演技で華々しく神話世界の扉を開くのである。
第一幕は、岩戸開きの段。スサノオノミコトの暴虐を怒ったアマテラスオオミカミが岩戸に隠れ、この世が闇になった時、岩戸の前で半裸の舞を舞い、神々の笑いを誘ってアマテラスオオミカミの再臨を促すのである。エロティックな描写が強調されるが、日乞いのシャーマンとしての役割が肝要。天鈿女命が「神楽の祖」とされるのはこれによる。
第二幕は、天孫降臨の段で、高天原から天降った天孫・ニニギノミコト一行の前に立ちふさがった地主神・猿田彦の前に立ち、笑みを浮かべ胸乳を見せ、着衣の裾を押し下げる呪法を行い、恐るべき猿田彦を懐柔する。これにより、猿田彦は筑紫の日向の高千穂の国へと天孫の一行を案内する。この縁で結ばれた猿田彦とウズメは伊勢へと向かう。以後、ウズメは宮廷の芸能職「御巫(みかんなぎ)」となり、伝統を伝える。

高千穂神楽では、アメノウズメノミコトが神楽の一行が村を巡り神楽宿へと向かう行列を先導し、岩戸ひらきの段では岩戸の前で優艶に舞う。いずれも性的な所作はなく、呪術的な舞である。米良山系から宮崎平野、霧島・日南海岸の神楽には「神和(かんなぎ)」という演目が分布する。長い御幣を肩に担ぎ、扇でその柄を叩きながら静かに御神屋を舞廻る呪的に舞である。アメノウズメノミコトの芸態を下地とする神楽の古風であろう。


