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生活保護制度Q&A 第1回

2006年11月29日 | 反貧困・生活保護

生活保護制度Q&A

はじめに

 高齢化や「格差社会」化の進行によって、日本は生活困窮者が増え続けている。そうした中、最後のセーフティネットである生活保護を受給する人が増えており、生活保護制度に対する関心も高まっている。しかし、制度についての正しい知識が普及しているとはいえない。この連載では、生活保護制度の基本的なことについて、なるべく分かりやすく解説していきたい。

第1回 生活保護の申請はどういう状態になればできるんですか?

 第1回の今回は、生活保護を受けるための最初の入り口である保護の申請について取り上げたい。結論を先に言うと、「いつでも誰でも何度でもできます」というのが今回の質問の答えである。え!そうなの?という声が聞こえてきそうである。誤解しないで欲しい。「いつでも誰でも生活保護が受けられる」とは言っていない。生活保護の「申請」はいつでも誰でも何度でもできると言っているのだ。何だ、そんなの当たり前じゃん、と思われるかもしれない。そう、当たり前である。しかし、この当たり前のことが守られていないのが日本の生活保護行政の現状なのである。

 生活保護の申請には役所の許可などは必要なく、誰でも自由にできる。保護の窓口となる自治体の福祉事務所(国立市では福祉部生活福祉課生活福祉係)は申請を受理してからその人の資産や働く能力などを調査し、生活保護を開始するか、あるいは却下(保護しない)するかを決定する。これが生活保護法の根本原則だ。しかし、これが守られていない。なぜ守らないかというと、生活保護の受給要件を満たす人から申請があった場合、当然に保護を開始しなければならない。これが自治体にとっては困るのだ。なぜなら、生活保護受給者に支給する保護費の4分の1は市町村が負担する(4分の3は国)。生活保護を受ける人が増えるということは、それだけ市の財政が悪化することになる。じゃあどうするか? 申請をさせなければ保護せずにすむのである。それで、あの手この手で言いくるめて、相談に来た人を生活保護の申請をさせずに追い返すのである。

 生活保護を受けたいという人に申請させないなんて許されるのか? 当然、許されない。「申請をしたい」という人に申請をさせないのは違法行為である。これをよく覚えておいて欲しい。また、「親兄弟に相談してからでないと申請は受けられない」「預金通帳などの必要書類を持ってこないで申請書だけ出されても受理できない」などというのは全くの嘘である。親兄弟が援助可能なのかどうかは申請を受けてから照会するものである。預金通帳などは後日提出すればいい。申請前にしなければいけないことなど何ひとつ無いのである。さらに言えば、「あなたは生活保護を受ける資格がないから申請できません」というのも間違いである。明らかに保護の受給要件を満たしていない人からの申請であっても、その人が申請したいと言えば必ず申請を受理して却下しなければならず、申請自体を拒否することは許されない。「申請はいつでも誰でも何度でもできる」、というのはそういう意味である。

 しかし、福祉事務所の窓口に行って、「生活保護の申請をしたいんですけど」と言っても、素直に申請書を渡してくれるところは多くない。悪質な自治体では、申請をさせないことが仕事であるかのように位置づけているところもある(全国で最も悪質なのは、福岡県の北九州市で、これまでに何人もの餓死者を出しているほどである)。そうした福祉事務所の違法な申請妨害に対抗するにどうすればいいかというと、簡単な方法がある。職員が申請書を渡してくれないのであれば(そもそも申請をしたいという人に申請書を渡さない時点で違法行為なのだが)、自分で申請書を作って窓口に出してしまえばいい。生活保護の申請は要式行為(必ず定められた方法で行わなければならない行為)ではないので、自分で紙に必要事項を書いて窓口に置いていけば申請したことになる。もちろん出された申請書を受理しないのは違法行為だ。

 そもそも「申請を受理しない」などということは法律上ありえないのである。「申請」とは「法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているもの」(行政手続法第2条第3号)である。申請が行われれば、その時点で福祉事務所は原則2週間以内に保護を開始するか却下するか決定する義務を負うのである。言い換えれば、「生活保護の申請をするという意思表示が福祉事務所に到達した時点で申請行為は成立する」のである。さらに言うと、申請は要式行為ではないので、口頭による申請も有効なのだが、書面で残さないと争いになったときに証拠が残らないのでやはり紙で出した方がよいだろう。

 ただ、特に悪質な自治体は出された申請書を隠滅することもやりかねないから、そういう場合は内容証明郵便で福祉事務所に送りつけるのが一番確実だろう。実際、近年でも関西のある市で、何度も福祉事務所に行っても申請を阻止され、内容証明を郵送してようやく保護申請が受理されたという事件があった。

 申請書には、自分と家族の氏名、性別、生年月日、住所又は居所、職業、家族の申請者(世帯主)に対する続柄(妻、子など)、保護を必要とする理由(病気で働けない、お金がなくて生活できないなど)を書けば十分。

 本来は、そもそも生活に困っている人が生活保護を受けなければならない状態になるのを防止すること、つまり「生活困窮者の要保護者化防止」が行政の役割であるはずだが、安倍政権や石原都政の政策によって要保護者がどんどん増やされており、その結果保護の窓口となる市町村の福祉事務所は財政負担増を恐れて「要保護者の被保護者化防止」(申請させないで追い返す)に躍起になるという本末転倒した現状になっているのである。こうした福祉事務所の違法な申請妨害は、「水際作戦」と呼ばれている。これに対抗するための方法論を身につけるためには、ホームレスや生活困窮者の支援をしているNPO「もやい」や「あうん」で活動している湯浅誠さんが書いた『あなたにもできる!―本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』(同文舘出版)が役に立つので、ぜひおすすめしたい(そもそもこのような本が書かれなければいけないということ自体が、生活保護の現場の異常な実態を物語っている)。また、発売中の『世界』12月号に、同じく湯浅誠さんが「『生活困窮フリーター』たちの生活保護」という論稿で若年層の新たな貧困や福祉事務所の「水際作戦」の実態について分かりやすく書いているので、こちらもおすすめ。

(ミニコミ『並木道』第51号より)


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