歩きながら考える

最近ちょっとお疲れ気味

奥秩父の沢での遭難について

2010-08-04 01:37:18 | ニュース・雑感
 私は学生時代にワンダーフォーゲル部に所属し、卒業後もしばらく山登りを続けていました。最近は公私共に忙しく、なかなか山に向かうことができなくなっていますが、それでも今でも山には想いを抱いています。

 山登りでも特に私が好んだのが沢登りというおそらく日本独特の登山形態です。
 沢登りの魅力は、日本の美しい渓谷美や常にそばに水がある(尾根筋を登る登山では水は貴重品です)こともありますが、その原始性が第一にあげられると思います。沢登りのルートマップとしては先人たちが残した遡行図というものがありますが、増水などによって沢筋の姿は常に姿を変えますから、遡行中は常にルートファインディングが必要です。日本の主な山はほとんど登山道が整備されてしまいましたが、沢についてはほとんど原始性をとどめたままなのです。
 また、濡れた岩での登攀、下降、高巻きや渡渉、草付や雪渓の処理、つめ上がる際の藪こぎには高い判断力と技術、経験が求められますが、そんな登山の総合力が求められる点も沢登りの魅力です。そして忘れてはならないのが、沢の中でのキャンプと流木を集めておこす焚き火です。通常の登山ルートでは焚き火はまず認められませんが、水の豊富な沢筋ではフリーダムです。揺らめく炎を眺めつつ、沢の流れの音をBGMにしながらウイスキーをちびちび飲んでいると、俗世間での嫌なことなど忘れてしまいそうになります。渓流釣りの名手が同行していれば、岩魚の塩焼きが酒肴に上がることもあります。こうなればもう至福そのものです。

 先日、奥秩父の沢で実に9名の方が1週間以内に立て続けに亡くなってしまうという、前代未聞の連続遭難が起こってしまいました。奥秩父は私も好きな山域であり、沢登りを愛好していただけに本当に残念です。亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。しかし、ヘリの墜落事故の後に亡くなられた方々については、正直言って行動が軽率ではなかったのではないかと感じます。


遭難救助の埼玉県防災ヘリが墜落、5人死亡 秩父 (Asahi.com 2010年7月25日21時31分)
http://www.asahi.com/national/update/0725/TKY201007250234.html

山梨・甲州の男性不明:あきる野市の男性、秩父山中で遭難死 /東京 (毎日新聞 2010年7月28日 地方版)
http://mainichi.jp/area/tokyo/news/20100728ddlk13040249000c.html

日テレ記者ら2人、秩父ヘリ墜落事故現場で遭難 心肺停止 (産経ニュース 2010.8.1 10:18)
http://sankei.jp.msn.com/region/kanto/saitama/100801/stm1008011349003-n1.htm

 現在、最も精神的につらい思いをしているのは、最初に遭難した女性の残された遺族の方々、そして彼女と共に行動していたパーティーの方々ではないかと想像します。おそらく「自分たちが遭難さえ起こさなければ」と自らを責めているのではないでしょうか。
 登山というスポーツにはマナーはあっても殆んどルールは存在しません。また競争というものとは無縁であって勝者も敗者もありません。山で遭難事故を起こすことは唯一のルール違反であり、危ないと判断したら撤退したとしてもそれは恥でも何でもありません。これから本格的な夏山登山のシーズンを迎えますが、山での遭難事故、特に死亡事故だけは起こしてもらいたくないと思います。