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最近ちょっとお疲れ気味

トニー・クラーク, モード・バーロウ「「水」戦争の世紀」(集英社新書)

2010-08-03 00:37:40 | 読書
 トニー・クラーク (著), モード・バーロウ (著), 鈴木 主税 (翻訳) 「「水」戦争の世紀」(集英社新書)を読みました。

(以下引用)
水は無尽蔵にあると、我々は思いがちだ。しかし人類が利用できる淡水は、実は地球の総水量の〇・五%にも満たない。しかも、その淡水資源は、環境破壊や都市化などによって急激に減り続けている。それだけではない。いまや石油よりも貴重な天然資源となった水は、グローバル企業や世界銀行、IMFなどにより、巨大なビジネスチャンスの対象とされ、独占されつつあるのだ。今、生きるための絶対条件である水を得られない人びとが、大幅に増えている。地球のすべての生命体の共有財産である淡水資源が枯渇すれば、人類の未来はない。世界の「水」をめぐる衝撃の実態を明らかにし、その保全と再生のための方途をさぐる、必読の書。
(引用終わり)


 最近やたらと「水ビジネス」という言葉を雑誌などで目にします。経済産業省の「産業構造ビジョン2010」においても「水ビジネス」は今後の戦略分野の1つとして挙げられています。私は水ビジネスについては素人ですが、国が今後力を入れようとしている戦略分野となるとこれは勉強しておかなくては、と思い本書を読んでみたのですが、少々違和感を覚える内容でした。
 本書は終始一貫して、水道事業の民営化に対して反対の論陣を張っています。生命の維持に不可欠な水は公共財であるべきで、利潤を追求する民間企業の手に委ねると貧困層は安全な水を得ることができなくなり、水資源は枯渇する、というのが著者の主張であるようです。しかし、民間企業よりもむしろ無責任な政府がもたらした害の方がひどいのではないかという気がします。典型的な例が本書の冒頭でも述べられているアラル海の問題であり、持続的に儲けようという民間企業としては当たり前の発想を旧ソビエト政府が持ってさえいれば、ずさんな灌漑計画により巨大な湖が消滅の危機に瀕するという事態にはならなかったのではないでしょうか。また、アフリカなどの途上国の中には、自国の富を収奪することしか考えていないひどい為政者によって支配されている国もあるようですが、そうした国々では水をはじめとする資源の開発は政府よりも経済原理で動く民間企業に委ねた方がマシであるように思います。
 もっとも、市場を一社が独占すると当然弊害も生じるでしょうから、著者の主張を全面的に否定することはできません。「水ビジネス」は興味深いテーマであるので、今後も暇を見て追い続けていこうと思います。