Eテレ『ヨーコさんの‘言葉’』より引いた。
□
夫婦喧嘩というものをよくやる。
それも車の中で。
道に迷うのね。
すると私は、性格が悪いから、
相手が無能でウスノロで頑固だと
思うのだと反省する事だってあった。
□
しかし、見たことも無い田んぼの真ん中では、
ただ逆上するのみ。
「さっき、電信柱に‘桜ヶ丘四丁目’って書いてあったよ」
「いや、地図によれば、ここは△△駅前のはずだ」
「あんた馬鹿じゃないの」
「ここが駅ですか?」
「駅がジャガイモ畑なわけ?」
「バカやろう。文句言うなら地図に言え」
「だから、さっきのガソリンスタンドで聞けばよかったのよ」
相手は憮然として一言もものを言わないという事もあった。
二十の息子とその恋人に聞いた。
若い人達は、違うのかと思ったのである。
□
「この人、道に迷ったら人に聞く」
「全然、絶対に聞かない。人に聞いた方が早いと思いません?」
「あんた。何で聞かないの」
「やじゃん」
「何で」
「やじゃん」
「だから何で、やなの」
「自力で這い上がりたいじゃん」
「そんな大袈裟な事じゃないですよね」
「けど、地図と正しく道がピタッと合った時、
すげぇ気持ちいいぜ」
「それに俺、道に迷うの嫌いじゃなくて」
「何それ、男のこけんなわけ」
息子は、しばし沈黙し「それもある」と、
少し恥ずかしそうに笑うのである。
男って、地図という観念と言うか
抽象化された世界に現実を近づけたいのか。
ピタッと合うことを信じているのか。
観念と現実が合わないと、
狂暴になるか、憮然とするか、なのだ。
女は現実あるのみ。
信じるものは、ここはここである、という認識で。
それもテコでも動かない。
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夫婦喧嘩というものをよくやる。
それも車の中で。
道に迷うのね。
すると私は、性格が悪いから、
相手が無能でウスノロで頑固だと
思うのだと反省する事だってあった。
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しかし、見たことも無い田んぼの真ん中では、
ただ逆上するのみ。
「さっき、電信柱に‘桜ヶ丘四丁目’って書いてあったよ」
「いや、地図によれば、ここは△△駅前のはずだ」
「あんた馬鹿じゃないの」
「ここが駅ですか?」
「駅がジャガイモ畑なわけ?」
「バカやろう。文句言うなら地図に言え」
「だから、さっきのガソリンスタンドで聞けばよかったのよ」
相手は憮然として一言もものを言わないという事もあった。
二十の息子とその恋人に聞いた。
若い人達は、違うのかと思ったのである。
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「この人、道に迷ったら人に聞く」
「全然、絶対に聞かない。人に聞いた方が早いと思いません?」
「あんた。何で聞かないの」
「やじゃん」
「何で」
「やじゃん」
「だから何で、やなの」
「自力で這い上がりたいじゃん」
「そんな大袈裟な事じゃないですよね」
「けど、地図と正しく道がピタッと合った時、
すげぇ気持ちいいぜ」
「それに俺、道に迷うの嫌いじゃなくて」
「何それ、男のこけんなわけ」
息子は、しばし沈黙し「それもある」と、
少し恥ずかしそうに笑うのである。
男って、地図という観念と言うか
抽象化された世界に現実を近づけたいのか。
ピタッと合うことを信じているのか。
観念と現実が合わないと、
狂暴になるか、憮然とするか、なのだ。
女は現実あるのみ。
信じるものは、ここはここである、という認識で。
それもテコでも動かない。