表題にした「詠花鳥和歌」は藤原定家の自撰歌集である『拾遺愚草』の中の「後仁和寺宮花
鳥」として収められる24首の月次(つきなみ)の和歌である。
「後仁和寺宮、月なみの花鳥の歌の絵にかかるべき事あるを、古き歌かずのままにありがた
くは、今よみてもたてまつるべきよし、おほせられしかば」とこの和歌の制作の動機を詞書
に記している。
後仁和寺宮とは後鳥羽院の第二皇子であり、仁和寺第8代御室(おむろ)道助(どうじょ)
法親王である。制作年月日は記載されないが家集の配列より建暦2年以後承久元年までの作
であろうとされ、定家の『明月記』の建保2年(1214年)2月30日条
「午後許(ばか)リ、仁和寺御室ニ参ル。先日仰付ケラレシ和歌、形ノ如ク篇ヲ終ヘテ
(月次花鳥歌24首)持参ス。御浴ノ間、見参セズ。人ヲ以テ、数度仰セヲ蒙ル。愚歌
詠進、殊ニ悦ビト為スノ由仰セシム。即チ退出ス」
が詠進した日の日記と思われる。
「詠花鳥和歌 各十二首」
参議 藤原
正月 柳 うちなびき春くる風の色なれや日をへてそむる青柳の糸
二月 櫻 かざし折るみちゆき人のたもとまで櫻ににほふきさらぎのそら
三月 藤 ゆくはるのかたみとやさく藤の花そをだにのちの色のゆかりに
四月 卯花 白妙の衣ほすてふ夏のきてかきねもたわにさける卯花
五月 廬橘 ほととぎすなくや五月のやどがほにかならずにほふのきのたち花
(ろきつ) (さつき)
六月 常夏 大かたの日かげにいとふ水無月のそらさへをしき常夏の花
(とこなつ)
七月 女郎花 秋ならでたれもあひみぬ女郎花契りやおきし星合のそら
八月 鹿鳴草 秋たけぬいかなる色とふく風にやがてうつろふもとあらの萩
(はぎ)
九月 薄 花すすき草のたもとのつゆけさをすてて暮れゆく秋のつれなさ
十月 残菊 十月しもよの菊のにほはずは秋のかたみになにをおかまし
(かみなづき)
十一月 枇杷 冬の日は木草のこさぬ霜の色を葉かへぬ枝の花ぞまがふる
十二月 早梅 色うづむかきねの雪のころながら年のこなたに匂ふ梅が枝
鳥
正月 鶯 春きてはいく世もすぎぬ朝戸いでにうぐひすきゐるまどの群竹
二月 雉 かり人の霞にたどる春の日をつまどふ雉のこゑにたつらん
三月 雲雀 すみれさくひばりのとこにやどかりて野をなつかしみくらす春哉
四月 郭公 郭公しのぶの里にさとなれよまだ卯の花の五月まつころ
(ほととぎす)
五月 水鶏 まきのとをたたくくひなのあけぼのに人やあやめの軒のうつり香
(くひな)
六月 鵜 ながき世にはねをならぶる契りとて秋まちわたる鵲のはし
八月 初鴈 ながめつつ秋の半も杉の戸にまつほどしるき初鴈のこゑ
九月 鶉 人目さへいとど深草かれぬとや冬待しもに鶉なくらん
十月 鶴 夕日かげむれたるたづは射しながらしぐれの雲ぞ山めぐりする
(たづ)
十一月 千鳥 千鳥なく賀茂の河せのよはの月ひとつにみがく山あゐの袖
十二月 水鳥 ながめする池の氷にふる雪のかさなるとしををしの毛衣
(鴛鴦鳥のけごろも)
しかし、謎解き詠花鳥和歌では古今伝授・物名歌の三木三鳥と同様に歌意とは係わりがない
ため和歌の解釈や鑑賞は省く。また、万葉集や古今集の成立からかなりの年月が経過してい
るために、花と鳥の組み合わせが少し変質していると思われる。だが定家の「詠花鳥和歌」
によって
* 古来花と鳥を組み合わせた伝承的・伝統的月なみの和歌があった。
* 月なみの花鳥和歌を絵に描く風習があった。
* 月なみの花鳥の取り合わせの古歌が失われそうになっている。
* 月なみの花鳥の取り合わせは皇室にとっても重大な関心事であった。
ことが推測できる。
和歌の秘密が皇室の重大な関心事であったことは古今伝授の逸話にも残されている。次回に
紹介したい。
鳥」として収められる24首の月次(つきなみ)の和歌である。
「後仁和寺宮、月なみの花鳥の歌の絵にかかるべき事あるを、古き歌かずのままにありがた
くは、今よみてもたてまつるべきよし、おほせられしかば」とこの和歌の制作の動機を詞書
に記している。
後仁和寺宮とは後鳥羽院の第二皇子であり、仁和寺第8代御室(おむろ)道助(どうじょ)
法親王である。制作年月日は記載されないが家集の配列より建暦2年以後承久元年までの作
であろうとされ、定家の『明月記』の建保2年(1214年)2月30日条
「午後許(ばか)リ、仁和寺御室ニ参ル。先日仰付ケラレシ和歌、形ノ如ク篇ヲ終ヘテ
(月次花鳥歌24首)持参ス。御浴ノ間、見参セズ。人ヲ以テ、数度仰セヲ蒙ル。愚歌
詠進、殊ニ悦ビト為スノ由仰セシム。即チ退出ス」
が詠進した日の日記と思われる。
「詠花鳥和歌 各十二首」
参議 藤原
正月 柳 うちなびき春くる風の色なれや日をへてそむる青柳の糸
二月 櫻 かざし折るみちゆき人のたもとまで櫻ににほふきさらぎのそら
三月 藤 ゆくはるのかたみとやさく藤の花そをだにのちの色のゆかりに
四月 卯花 白妙の衣ほすてふ夏のきてかきねもたわにさける卯花
五月 廬橘 ほととぎすなくや五月のやどがほにかならずにほふのきのたち花
(ろきつ) (さつき)
六月 常夏 大かたの日かげにいとふ水無月のそらさへをしき常夏の花
(とこなつ)
七月 女郎花 秋ならでたれもあひみぬ女郎花契りやおきし星合のそら
八月 鹿鳴草 秋たけぬいかなる色とふく風にやがてうつろふもとあらの萩
(はぎ)
九月 薄 花すすき草のたもとのつゆけさをすてて暮れゆく秋のつれなさ
十月 残菊 十月しもよの菊のにほはずは秋のかたみになにをおかまし
(かみなづき)
十一月 枇杷 冬の日は木草のこさぬ霜の色を葉かへぬ枝の花ぞまがふる
十二月 早梅 色うづむかきねの雪のころながら年のこなたに匂ふ梅が枝
鳥
正月 鶯 春きてはいく世もすぎぬ朝戸いでにうぐひすきゐるまどの群竹
二月 雉 かり人の霞にたどる春の日をつまどふ雉のこゑにたつらん
三月 雲雀 すみれさくひばりのとこにやどかりて野をなつかしみくらす春哉
四月 郭公 郭公しのぶの里にさとなれよまだ卯の花の五月まつころ
(ほととぎす)
五月 水鶏 まきのとをたたくくひなのあけぼのに人やあやめの軒のうつり香
(くひな)
六月 鵜 ながき世にはねをならぶる契りとて秋まちわたる鵲のはし
八月 初鴈 ながめつつ秋の半も杉の戸にまつほどしるき初鴈のこゑ
九月 鶉 人目さへいとど深草かれぬとや冬待しもに鶉なくらん
十月 鶴 夕日かげむれたるたづは射しながらしぐれの雲ぞ山めぐりする
(たづ)
十一月 千鳥 千鳥なく賀茂の河せのよはの月ひとつにみがく山あゐの袖
十二月 水鳥 ながめする池の氷にふる雪のかさなるとしををしの毛衣
(鴛鴦鳥のけごろも)
しかし、謎解き詠花鳥和歌では古今伝授・物名歌の三木三鳥と同様に歌意とは係わりがない
ため和歌の解釈や鑑賞は省く。また、万葉集や古今集の成立からかなりの年月が経過してい
るために、花と鳥の組み合わせが少し変質していると思われる。だが定家の「詠花鳥和歌」
によって
* 古来花と鳥を組み合わせた伝承的・伝統的月なみの和歌があった。
* 月なみの花鳥和歌を絵に描く風習があった。
* 月なみの花鳥の取り合わせの古歌が失われそうになっている。
* 月なみの花鳥の取り合わせは皇室にとっても重大な関心事であった。
ことが推測できる。
和歌の秘密が皇室の重大な関心事であったことは古今伝授の逸話にも残されている。次回に
紹介したい。
七月の鳥の歌が抜けているようなので、おせっかいかと思いつつお知らせいたします。
これからも更新を楽しみにしています。