15分ほどしたら、枯葉をザッ、ザッと無雑作に音を立てながら兎が帰ってきた。パピ
ーの声は未だ裏側の方から聞こえてくる。姿が見え、通過したと思ったら同じ道をバ
ックし大きく直角に飛び上の方に逃げて行った。それに見とれ銃を撃つ余裕はなか
ったが面白い場面を見せてくれた。
兎のトリックと言われる仕業だ。兎は臭いを紛らわす為に、往復しそこに濃い臭いを
残し釘づけにする。ジャンプしたので臭いの空間ができ往復した場所はミステリーゾ
ーンにしようと言う訳だ。犬がここで迷っている間に遠くに行き息を整えて次の作戦
でも練っていることだろう。パピーが大分、遅れてやってきた。兎の思惑通りここで臭
いが取れないから迷い、追跡の時に吠える声も途絶えてしまった。辺りを大分バタバ
タしてからパピーは円を描くように捜索範囲を変えだした。円は段々と広げられやが
て兎が直角に跳んだ方向で再び元気な追い鳴きが始まった。
こうした時、私は兎が逃げた方向を知っているので、犬を捕まえてその場所に連れて
行くと、再び臭いを取ることができるから追跡の再開を早くできるが、犬の追跡能力ア
ップのためには自力で探させる方がいい。
今回は上だったから今度は下を通るかも知れないと思ったが、それまで上に行ったり、
下に行ったりして苦い思いをしているのでここで待つことにした。
先ほどよりは少し下の所から音がして兎が出て来た、木の陰にいることも知らずこちら
に向かって来る。安全装置を外し引金に指を入れる。バーン、兎は弱く一 粒でも玉
が当たると捕れる。コロコロと転がって落ちてきた。パピーは前回よりも更に遅れて到
着した。息を弾ませ必死に声を絞り出している。『パピー』と獲物を高々と持ち上げる。
喜んで兎に嚙りつく。
兎は根采を入れて鍋ものにすると美味しいが直ぐに肉が堅くなるので煮詰めない方が
いい。塩、コショウで焼き肉にしてもいける。あっさりとしており野生動物特有の臭いは
少ない方だ。
パピー夕食は、兎の頭と肉の御馳走だ。バリバリと喜んで食べる。あの鋭い歯も何の
カケラも残さないで食べてしまう。
夜は御馳走に満足したのか、昼間の夢でも見ているのか丸くなりぐっすりと眠っていた。