『炎情』、読後感はいかがでしたでしょうか。
憲子さんの視点からのルポですから、通さんの心の中はあまり推しはかられていません。
徹さん、大きなストレス、そして劣等感を感じていたのではないでしょうか。
自分は真面目に仕事をして、部下や同僚、取引先からも慕われている。
しかし同期にも遅れをとり、部長代理に留まっている。
徹さんの気持ちは、石川啄木の短歌
『友がみなわれよりえらく見ゆる日よ 花を買い来て 妻としたしむ』
のようなものであったのでしょう。
しかし、妻としたしもうとしても妻は関係会社の役員となっている。
徹さんは自分の胸の内を話せる人が誰もいない。
そこで前から憧れていた女装を始めてみた。
女装すると、鏡の中に自分の思い通りの『女』を作ることができる。
自分も家内も真面目だ。
だったら、思い切りケバい女になって、奔放に振る舞ってみよう。
「ああ、家庭からも会社からも切り離されるっていうのはなんて気持ちがいいの!」
そして女装クラブに集う女装子たちはその場限りの交友関係。
社会的地位や収入や家庭関係は全く詮索されない。
徹さんはクラブの中で解放されたのでしょう。
そして、クラブのクリスマスパーティ。
飲んで踊っておしゃべりして、本当に楽しかった。
お酒もぃっぱい飲んで、前後不覚になって、会社の忘年会かなんかに出たと錯覚して、女装のまま帰ってしまった。
徹さんは弱かった。
憲子さんは強かった。
強いものは弱いものの心を知ることが難しい。
徹さんのご冥福をお祈りいたします。
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