女装子愛好クラブ

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昭和43年『風俗奇譚』の女装小説『蒼い岩漿』⑩

2024年02月17日 | 女装小説
いよいよ最終回です。
伸子は大場の加虐に愛を感じながら眠りに落ちていました。

“女”の身だしなみ

大場の体の重みで、伸子は深い眠りからさめた。情事の後のけだるさと快感の余韻がま だ全身に残っていた。 責め疲れた大場は、やや衰えてはいるが、それでもまだじゅうぶんに硬度を残している それを、伸子の後ろに密着させたまま、快い 寝息をたてていた。
伸子は、大場の眠りを防げないように静か に体を離すと、ベッドの外に出た。
激しかったプレイを物語るように散乱しているかずかずの責め道具をかたづけてから浴室に入った。浴槽の間はすっかり冷えていた。 あまり大きな音を出さないように気を配りな がら、新しい湯を入れ替えて、静かに体を沈めた。

高い位置につけられた窓から見える夜空が 夜明けの近いことを教えていた。
伸子は肩まで湯の中に改め、現在の充実した生活に満足していた。最初のうちこそ、変形された大場の愛情の表現にとまどいを覚えたが、巧みな大場の飼育に助けられ、どのような加虐的な責めも受け入られるように育てあげられた自分を、持って生まれたマゾ的な性格のものだけだとは思っていなかった。 打ちおろされる一振りの鞭にしても、その中に大場の自分に対する愛情がこもっていなかったら、おそらく肉体に加えられる鞭の痛さに耐えることができなかったであろう。
献身的な伸子の行動は、自分への愛情を信じ、大場への愛の芽をそっと伸ばしたいと願いと心情のあらわれだった。

伸子は体にバス・タオルを巻いて三面鏡の前にすわった。
湯上がりの肌に化粧ののりはよかった。
極限にまで責め抜かれ、乱れた顔を直し、 新しいパンティーとブラジャーを身に着けた伸子に、愛情を疑わない若々しい張りがあっ た。何年間かの百合江との結婚生活が、どのような行為が男性にきらわれ、どうすれば男 性によい感情を得られるか、貴重な体験となっていた。

閨房のベッドの中で迎える朝、化粧のはげた女性の姿を見た時、急にしらじらしさを 覚えるのが男性の常だった。前夜の情事の営みが激しければ激しいほど、哀れた女の寝顔は見苦しいものだった。
それを知っている伸子は、夜を迎えた時とか同じ美しい姿で朝も迎えたいと願っていた。
夜明け前に一度起きて鏡に向かうのも、そ のためだった。創造された偽りの女性像であ るだけに、細心の注意をはらっていた。そういった伸子の気持ちが、なにげないしぐさの一つ一つにあらわれて、大場の心を大きくひきつけていた。

伸子は、完全な女性になりたいと願っていたが、男性の身である自分に悔いてはいなかった。男性であるために、冷静に女性を見つめ、理想の女性像に近づけるのだ、と信じていた。
すべての女性は男のためにあるといっても 過言ではない、と思っていた。
男の愛玩具になりきり、男が満足したとき初めて女のよろこびが生まれるのだという気持ちが、苛酷な大場の加虐に耐え、みずからも官能の世界の中で果てることができる原因だった。

快い香水の香りを漂わせながら、伸子は再びベッドの中に入った。無意識のうちに大場が体を開いて伸子を迎入れた。
伸子は大場の胸の中に顔を埋めながら、静かに目を閉じた。
幸福感の絶頂にあった。完

出所 風俗奇譚 昭和49年3月号~4月号


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男性であるために、冷静に女性を見つめ、理想の女性像に近づけるのだ、と信じていた。
すべての女性は男のためにあるといっても 過言ではない、と思っていた。
男の愛玩具になりきり、男が満足したとき初めて女のよろこびが生まれるのだという気持ちが、苛酷な大場の加虐に耐え、みずからも官能の世界の中で果てることができる原因だった。
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この最後の文、奥が深いですね。
これを言いたいがために作者・鹿島一人氏は伸一を伸子にし、そしてロープ、蝋燭、バイブというフルコースでその官能を花開かせたのかもしれません。
簡単でも結構です。
ご感想などをコメントでいただければ幸いです。
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