お盆休みに読んだ本です。
最初は「また、カルーセル麻紀の自伝小説か...」と軽く見ていましたが、全くそうではない。
著者の桜木紫乃さんはカルーセル麻紀さんに綿密なインタビューを行い、カルーセル麻紀の人生をベースに読み応えのある小説を書きあげました。
戦後、漁業と炭鉱で活気を呈する港町・釧路。
そこに生まれた市川秀男は自分の性に違和感を持つ。
身体も小柄な彼は、女に「なりかけ」と蔑まれながらも、自分の考えと自分の道を歩きます。
理不尽な高校教師の暴力をきっかけに札幌に家出した秀男は、ゲイバーで「マメコ」という名で働きはじめます。
堂々と女になれる、お化粧ができる。
秀男のあこがれはゲイボーイでした。その念願が叶ったのです。
しかしゲイバーの躾は厳しい。
苦労をしながら秀男はゲイボーイとして生き抜く知恵とコツを学んだのです。
そしてメンターともいえるゲイボーイのシンガー、マヤとの出会い。
マヤからの誘いで秀男は東京に出ていきます。
東京から大阪に移った秀男はゲイボーイとしてはじめて、ヌードショーの舞台に上がることになるのです。
しかし、その主役を務める女優と諍いがあり、秀男は啖呵を切ります。
「悪いけどあたしはおかまじゃないの、ゲイボーイ」
「なにが違うってのき」
「あたしたちの売り物は体じゃなくて、 お客さんが気持ち良くなるお話をして、踊って 歌ってガンガン高い酒を売りまくるの。踊り、ねだり、 たかり以外では稼がない。財布が空に なるまで気持ち良くお金を出してもらうのが仕事なの。 財布じゃ足りなくて時計をくれるひともいる。時計がなくなったら、夜中でもやってるドレス屋さんに行ってツケで一着作ってもらう。客はあたしたちに金を惜しまないことで自分の価値を確かめるの。だから。 あたしの体は札束で出来てんのよ」
(中略)十五歳の秋を境に生まれ直したような日々を送っていることも、たどる道として間違ってはいなかった。
このセリフ、私がこの小説で一番気に入っているものです。
しかしこれ以外にも秀男やその周りは性的志向・性自認(こう書くとかたくなりますが)はいい言葉を言っています。
amazonでの紹介文は「感動巨編」となっていますが、私は「ゲイボーイ太閤記」だと思います。
そして、性的違和感をもつ男子が昭和20年代・30年代に世間とどう戦ってきたかの歴史を知る「ゲイの大河小説」といえます。
秀男と同じような悩みを持つ10代20代の男性にもぜひ読んでほしい小説です。
見出し画像の出所はamazon