内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

一学期かけた『陰翳礼讃』精読の素晴らしい成果、あるいは谷崎マジック?

2020-02-06 16:17:09 | 雑感

 今、この記事を、書斎の窓外に広がる冬の澄んだ青空のようなとてもいい気分の中で書き始めている。
 先程、大学宮殿近くのトラムの駅のところで、日仏合同ゼミに参加している日本人学生たちと別れの挨拶をした。別れ際に彼らに告げたのは、「これまでの六年間で最高だった」という一言であった。それはけっしてお世辞ではない。
 まずは夏休み中にそれぞれ『陰翳礼讃』を読むことから始まった準備は、テーマ探し、文献検索、ディスカッションを経てしだいに形になってはいったが、その歩みはけっしていつも順調だったというわけではなく、ご指導を担当されていたA先生はその間歯痒い思いをされたことも一再ならずあったようだ。しかし、結果として、先生ご自身も驚かされるほどに学生たちの作品理解は深まり、その成果が昨日の発表と今日の午前中のグループ・ディスカッションで遺憾なく発揮されていた。
 それどころか、今日のディスカッションの中からこちらが唸らされるような卓見も生まれた。ちょっと大げさかもしれないが、参加者全員、『陰翳礼讃』精読、発表準備、日本出発前日まで繰り返された発表練習、昨日の発表そのもの、そして今日のグループ・ディスカッションという数ヶ月に渡る理解の努力を通じて、世界につねに生まれつつある陰翳への感度が確実に高まり、精読以前とはちょっと世界の見え方が変わったとさえ言っていいのではないかと思う。「産婆役」としてその場に立ち会えたことをとても幸いに思う。
 参加者全員に称賛のスタンディングオベーションを送りたい。