内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

「近代日本の歴史と社会」前期期末試験問題

2020-01-19 23:59:59 | 講義の余白から

 先週金曜日に「近代日本の歴史と社会」の前期期末試験を行った。学生たちにとってはこれが前期に受ける最後の試験であった。今回は「遊び」はなしにして、かなり重厚な問題を四つ出し、そのなかから一題その場で自由に選択させた。以下がその四問である。問題はフランス語で出し、各問に授業で取り上げたテキストからの引用を添え、それを何らかの仕方で答案に取り込むことが要求されている。

1. 以下のテキストの問いに答える形で、荻生徂徠の思想における近代性と反近代性の関係を論ぜよ。

徂徠は、有限な天地で、市場経済による無限の「発展」が可能だ、などとは信じないのである。そして、自由に流動して浅い人間関係しか持たず、それでいて 悪事に走らず秩序を保てるほどに人間は立派だ、とも信じないのである。我々は、それにどう反論できるのだろうか。(渡辺浩『日本政治思想史』東京大学出版会)

2. 以下のテキストの注釈という形で、十九世紀日本の近代化と民主化に会読と漢文訓読体が果たした役割について説明せよ。

江戸時代の漢文教育法である会読と訓読法は、幕末から明治にかけて、身分制社会を超える可能性をもっていた、革新的で、清新なものだった。(前田勉『江戸の読書会』平凡社ライブラリー)

3. 以下のテキストを参照し、近代日本における「国語」と「日本語」の特異で複雑な関係を説明せよ。

あらゆる場合において、「言語」そのものの同一性、また「言語共同体」の同一性がすでに確立されていて、そこに国家意識あるいは国家制度が注入された結果、「国語」が生まれるわけではない。すなわち、日本の「国語」の誕生の背景は、フランスのそれとはかなり異なる。(イ・ヨンスク『「国語」という思想』岩波現代文庫)

4. 以下のテキストの記述について、明治政府によって招聘されたお雇い外国人の中から一例を挙げて、その貢献内容を具体的に説明せよ。

幕末期に日本が開国に踏み切って、近代欧米文化を受け入れようとしたさいにおける外国人の寄与は実に多大であった。この多数にのぼる「お雇い外国人」が多方面に活動して、近代国家としての明治日本の建設を援助したのである。(梅渓昇『お雇い外国人』講談社学術文庫)

 32人の受験者中、第1問を選んだのは3名、第2問が4名、第3問が11名、第4問が14名であった。選択の偏りは予想通りであった。それぞれの問題の傾向と対策は年内に学生たちに伝えてあり、その際、「第1問が最も難しいから、この問題を選ぶ猛者は少ないと予想される。もし勇敢にも第一問を選択した者には、「チャレンジャー・ポイント」として一点挙げる」と言っておいたのだが、やはり少なかった。それだけにとこまでチャレンジに成功しているか、これから答案を読むのが楽しみである。第2問は、授業でかなり時間を割いたテーマだったのだが、仏語での史料が乏しいせいか、選択した学生が少なかったのはちょっと残念に思う。第3問は、フランス語の場合と対比することで論点を明確にしやすいから、選択者が多かったのは当然である。第4問が「一番人気」なのは予想通り。ただ、ネットで簡単に見つかるような情報に頼っただけの安易な答案もあるだろう。それらには辛い点を付ける。