内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

陰翳をめぐる随想(五)― 物の可視性の動的原理としての影

2020-01-23 16:40:45 | 哲学

 影は、光に応じて変化するだけでなく、対象物やその周囲の色に応じても変化する。その変化は、影が色に与える一方向的なものではなく、影もまた対象物や周囲の色によって変化させられる。影と物とは切り離し難いだけでなく、相互に作用し、浸透し合う。
 これは単に絵画の技法に関わる問題ではない。ダ・ヴィンチの絵画作品の隅々にまで染み通っている視覚の哲学と美学に関わる問題である。
 ダ・ヴィンチは絵画論にこう記している。「影は、物の形を、その物によって、顕にする。物の形は、影なしにそれ固有の姿を現すことはない。」
 ダ・ヴィンチは影を動的原理と考えている。この原理としての影が物の可視性を保証している。影がなければ、物は光の流れの中に飲み込まれてしまう。絵画論のある箇所では、影は光と同等な実体と見なされている。それどころか、他のある箇所では、影は光より強力なものとさえ考えられている。
 「影は光より強い。なぜなら、影は光を阻み、物からすっかり光を奪うことができるが、光は物からすっかり影を奪い取ることはできない。すくなくとも不透明なものからその影を奪い取ることはできない。」