内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

〈雲雀〉の波動理論 ― 雲雀についての哲学的考察断片(五)

2018-03-07 01:36:54 | 哲学

 〈雲雀〉はなぜ私たちの心を動かすのか。逆に問えば、私たちの心のどこが〈雲雀〉に感応して震えるのか。この問いに答えるために、バシュラールは、「雲雀の波動理論」というユニークなアイデアを提案する。この理論によれば、私たちの存在の顫動する部分こそが雲雀をそれとして感知することができる。この部分は、どのように記述されうるのか。視覚的表象の知覚の統制下で形式的に記述することはできない。それは力学的想像力の努力によって動態的にこそ記述されうる。そして、雲雀の力学的記述は、己の内部のある点から歌を響かせる覚醒した世界の力学的記述にほかならない。

Et le philosophe, tout à sa fonction d’imprudence, proposerait une théorie ondulatoire de l’alouette. Il ferait comprendre que c’est la partie vibrante de notre être qui peut connaître l’alouette ; on peut la décrire dynamiquement par un effort de l’imagination dynamique ; on ne peut pas la décrire formellement dans le règne de la perception des images visuelles. Et la description dynamique de l’alouette est celle d’un monde en éveil qui chante par un de ses points (G. Bachelard, L’Air et les Songes, op. cit.,p. 110).

 一羽の雲雀という外的対象が発する音波の刺激によって知覚主体である私たちの心の内にある感情が引き起こされる。このような心身二元論的記述方式とはまったく異なった世界記述方式を雲雀の波動理論は提案している。世界内のある一点から響いて来る雲雀の歌の目に見えぬ波動が世界内の粒子の集合体の一つである私たちの心身を動かす。雲雀の歌声によって引き起こされた私たちの心身の震えは世界内に引き起こされた世界の身体の震えにほかならない。
 このような心身の顫動が起る詩的空間の記述は、既得の空間認識を一定の術語によって単に再認することではありえない。その記述の実践自体が一つの詩的空間の創成なのであり、その空間の探索から詩的世界の冒険が始まる。