内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

日本古代史、その傾向と対策、そして予想問題

2017-01-07 23:56:53 | 講義の余白から

 昨日午前中の日本古代史の講義が前期最後の学部の授業でした。その前夜にストラスブールに帰り着いたばかりでしたが、その夜は結局一睡もせずに授業の準備をして、冷たく透き通った氷点下の青空の下、キャンパスへと自転車を走らせました。耳がすっかり隠れるフードを被っていたにもかかわらず、十分も走っていると両耳が痛くなってきました。少し早めに着いたので、学科教員室で一息入れてから教室に向かいました。
 いつものように漢字の小テストを行った後、学生たちに「昨晩日本から帰ってきたばかりでね、まだ完全に時差ボケ状態で、昨晩は一睡もできなかったから、今メチャクチャ眠いんだよね。もしかすると授業中に寝ちゃうかもしれないから、そのときは起こしてちょうだいね。あるいはそのまま私を静かに眠らせたままにしておいて帰ってもいいよ」と半分冗談でいいながら、実際頭が少しぼーっとしていたので、途中で少し呂律が回らなくなりながらも、奈良時代の社会生活を知る上で木簡が資料としてきわめて貴重であることを説明して、なんとか締め括りをつけました。
 その説明を終えた後、どの私の講義でもいつものお約束なのですが、翌週の学期末試験の「傾向と対策」について述べました。当然のことながら、学生たちは真剣そのものでノートを取っていました。
 一昨年と昨年の講義では、採点がしやすいいわゆる客観式テストを採用したのですが、正直、こんなテストつまらんなぁと自分でも思っていたので(他の先生の講義に比べて高得点が得やすいから学生たちには不評ではなっかたのですが)、今回から趣向を変えることにしました。学生たちにはその変更の方針について十二月初めの授業で説明して了解を得ていたのですが、昨日は、より具体的に、こんなタイプの問題が出ますよ、と説明したのです。
 その問題のタイプとは、前任校ではずっと採用していたタイプなのですが、一言で言うと、歴史的想像力を問う形式です。どういう形式かというと、歴史的条件を与えて、その時代状況の中に身を置かせ、当時の人たちの視点からどのようにその状況が見えていたかを想像させるような問題を出すのです。
 五つの「予想問題」を学生たちに提示し、それらすべてについてよく準備してくるように促しました。もちろん、その五つの中の一つをそっくりそのまま出題するわけではありませんが、とにかく試験時間が一時間と短い(私は短すぎると思っていますが)ので、学生たちには、試験のときその場で考えるのではなく、一週間時間を与えるから、じっくりと考えてきてほしいのです。
 その五つの「予想問題」をそれぞれ要約すると以下のようになります。
 聖徳太子の非神話化を問う問題。厩戸王の事績を蘇我氏の臣下の一人の視点から批判的に記述することを問う問題です。
 白村江の戦いでの日本軍の大敗がもつ地政学的意味を問う問題。その戦いに従軍した一人の兵士の視点から、唐と新羅に対して日本がいかに軍事的に遅れているかを捉え、国防が国家自立のために喫緊の課題であることを記述することを求める問題です。
 奈良時代最初の遣唐使の政治的使命を問う問題。717年の遣唐使のための派遣留学生選考で最終選考に残った候補者の視点から、当時の日本国家にとって何を唐から学ぶことがもっとも重要かを志望動機書の形で論述することを求める問題です。
 奈良時代の民衆の負担を民衆の視点から捉えることを求める社会史的問題。過重な税・労役・兵役に耐えかねて生まれ故郷を捨てて各地を流浪する農民の視点から民衆の惨状を記述することを求める問題です。
 一家の大黒柱が防人として徴兵されたことで、取り残された家族が直面する困難を、その防人の妻、あるいはその両親の立場から叙述することを求める民衆史的問題です。授業の中で言及した万葉集の防人歌を援用することが期待されています。
 さて、実際に出題されるのは、どの問題でしょうか。