マイスターのお道具箱

ドイツに住むピアノ技術者、ーまーのブログ

お稲荷さん物語

2007-05-27 | 愉快な仲間たち
 
 よーへー君の意外な発言はピアノ工房の親方の心を弾ませた。

「そしたらボク、おにぎりとか作りますわ。ソーセージとかも焼いて…
ボク、そう言うのんやってみたかってん、家族でピクニックみたいな感じ」

フランクフルトの楽器メッセがあった3月末のこと、
電車を何回も乗り継いで一番安い方法でメッセに行くというよーへー君とカズビー。
我々ピアノ工房は車で行くので、便乗すれば電車賃も時間も節約できるのでいかが?
とお勧めしたときに出たよーへー君のあの言葉が嬉しかった。

なかなかあいつも気が利く奴やなぁ。
当日、朝ご飯も食べずに車に乗り込んだ。 だって、よーへー君のおにぎりあるもん。

ところが、
「親方、おにぎり作れませんでした」やて。
それどころか前日しこたまお稲荷さんを作ったのにもかかわらず(本当はカズビーが作ったらしい)その晩に完食してしまったという大胆な奴。
おにぎりを持って来るつもりがなくなってんやったら、
事前電話するなり、せめてお稲荷さんの2、3個持ってきいな!

道中、車の中でジリジリと責められたのは言うまでもない。
腹が減ると腹が立つ。
当然のことながらその後も、会えば必ず「おにぎり、お稲荷さん」といじめられ、
会わずともメールでチクチクいじられ、食い物の恨みの恐ろしさを痛感していることやろう。

今回、よーへー君にチャンスが到来した。 
工房パーティーでお稲荷さんを作って持ってくれば
金輪際その嫌みな攻撃から解放されることになる。

Akkocahnの「おふくろ石狩鍋」や「高級オリーブオイル和えマグロのカルパッチョ」、
ゆきちゃんの「柔らかイカもやし」、
カズビーの「なるほど豆腐ちぢみ」や「にんにく沢山にんじんとクルミサラダ」、
カナッペの「繊細海老さんサラダ」、
のだめママの「贅沢アスパラ蟹さんサラダ」、 
おかみさんの「醍醐味アスパラつくね」、
親方の「いつもの豚大根」…
大御所一品の行列にひけをとらない話題性ある「よーへー君のお稲荷さん」がテーブルの中央に鎮座した。

よしよし! やれば出来るやん! 味も上品やし、やっと社会人の仲間に入れたなぁ。
今後一切、このネタでからかうことはやめてあげよう。

よーへー君、これから君を「工房パーティー御用達、お稲荷さん係」に任命する。

以上

ーまー


老いたピアノの毒舌は

2007-05-21 | 笑い

おお、そこの若僧!まあこっちに来て一緒に並ぼ!
お前どこ出身よ!

〈若僧〉日本です

えらい声ちっちゃいなぁ、もっと腹の底から出さんかい!
最近の若いもんは鼻につく声しか出さへんなぁ。
ええか、よー聞きや。国籍なんか何処でもええねん。
ちゃんと楽器として底鳴りする基礎があるかないかが一番大切なんよ、わしらピアノは。

〈若僧〉ぃやー

わしがお前くらいの年の頃はな、そらもーほんま、ガンガンブリブリ言わしてたもんや。
今はもう滅多に出番なくなってしもたけどなぁ。
たまにこうしてーまー親方に診てもらうんやけど、
なんや複雑な和音で歌うと、おしりの方でバリバリいうねん。
肋骨外れてるらしいわ。はっきりと発音もでけへんし。
「手術して治したる」言うてくれてはるけど手術代ないねんてぇ、ここの教会。
ほんならしゃぁないから、だましだまし歌ってもらおかぁー いうことになってんてぇ。
わしは親方にだまされながら今日お前と一緒に歌うんや。

〈若僧〉まぁー

ええか、言うとくけど音の高さもごっつい低いで! 若僧、お前が年寄りに合わせなあかんねんで。
他の楽器は低く合わせんのんもっと大変なんやって言うけど、そんなもんわしの知ったこっちゃないわいな。手術してくれへんからこないなんねん。 
「だましだまし」やてぇ、年寄りなめとったらえらいめにあうで!

〈若僧〉はぁー

しかし若僧、さっきから口数少ないなぁー 相槌しか打ってへんやん
なんでやねん?

〈若僧〉ぃやー まぁー はぁー

あぁー なるほど 日本出身やから ヤーマーハーか?
もっと洒落の勉強せんかい!

  ーまー





徒弟制度

2007-05-16 | ピアノ技術者の仕事

 ドイツ、中世の終わり頃の徒弟制度は大変厳しい世界だったと聞きます。
弟子はみな親方の工房に住み込んで技術を習いました。
なぜ住み込みかというと、その職業で生きていくための空気を吸うためです。
同じ時間に起き、同じ物を食べ、同じことを考え、同じことを感じ
ごく自然に技術以外のこと(とっても大切なこと)も伝えていきます。

日本の伝統技術社会もドイツと同じような感じだったと聞きます。

今は違いますね 
学校制度が確立しているので、職人の技術習得も「勉強」という形で習うことが一般的です。 
ドイツの場合、徒弟制度の大まかな流れは未だに存在しているようですが、
住み込みで生活を常に共にすることはまれです。
学校で理論を学び、マイスターの下で技術力をつける。少ないけれど給料制。
一人前の技術者になるとマイスターとゲゼレ(職人)は労使関係。
「天職を伝える」という本来土台であるべきことが何となく欠けだしているように思います。



ピアノ技術者 
音という目に見えない物を相手に、耳と指先を頼りに感覚だけで勝負する職業。
やはり学校だけでは学び切れない物が多いですね。

 そう、カナッペ、女性ピアノ技術者がーまー工房にやってきました。
しっかりとした基礎を身につけた若者です。なかなかいい仕事します。
親方に持ち合わせていない感性をいっぱい持っている 期待の新人です。
経験値が彼女のアイテムにまだ少ないのでぎこちなさはありますが、
それは当たり前のこと、時間が解決してくれます。
あまり多くを書くと嫌われるので、気を遣いながら…



ーまー工房が大事にしている信念を伝えるという、大きな仕事がひとつ増えました。
昔ながらの師弟関係の素晴らしい面を織り交ぜながら、ユニークなピアノ工房が
ゆっくりと動き始めましたよ。

ーまー

ただそれだけのことなのに、その日はとてもいい日です。

2007-05-12 | ピアノ技術者の仕事
 
 どちらのピアノが選ばれても、僕としてはあんまり関係ないことなんやけどね。

明日からKlavierfestival Ruhr (ルール、ピアノフェスティバル)が開催される。
そのオープニングの演奏会はこのほどオープンした1700席もある大ホール。
オーケストラの音響が素晴らしいと好評やそうです。

このホールで使うピアノの調律依頼を受けたんやけど、
交響楽団が持っているピアノ(ここ数年僕が調律担当している)を使うか、
開催者が注文したピアノ(はるばるこの日のためにハンブルグから運んできた)を使うかをピアニストに選んでもらおうということになったらしい。

ピアニストはどちらを選ぶかきっと悩むやろなぁって、昨日両方のピアノを調律しながら思ってました。
少しキャラクターは違うけど、どっちも「ええ感じ」の仕上がりなんよ。

案の定、イケ面ピアニストさんは選定に困ってたみたいやけど、
メリハリがはっきりしているってことで交響楽団のピアノを使うことになってん。

「ーまーさん おめでとう!」って楽団の偉いおっちゃんに肩なんかポンと叩いてもろたけど、なにがめでたいのかわからんかったんですわ。
どうやら僕がいつも管理しているピアノが選ばれたというこの出来事は、僕にとっても楽団にとっても誇らしいことなんやって。
製作工場から直接運ばれてきた楽器よりも気に入ってもらえたってことやねんから、おめでたいんやそうな。

そう言われて初めて「なるほどなぁ」って納得したりした突風吹くいい日です。
朝早く起きて仕事した甲斐がありました。

早起きは三文の得やそうです。
楽団の偉いおっちゃんに一言!  

    調律料金もう三文ほど上げてもええか? 


ーまー 

ルーカスの黒い光

2007-05-10 | そのほか

「こらぁええもん手に入れたなぁ」 ルーカスが大阪弁でつぶやく。

パッと見た感じは単なる懐中電灯だけれど、スイッチを入れると明るい光を放たず、
その正反対に黒い影を作る。まるで物体の光を奪うかのように。

数日前にカーペットの上に赤ワインをこぼしたルーカス。そのシミを照らしてみた。
そこには黒い影ができ、赤黒いシミは消えた。実際には消えてはいないのだが…。
「こらぁ、便利なもんやなぁ。汚れがめだたんようになるやん」

次にしばらく掃除をしていない汚れたトイレの便器を黒い光で照らしてみた。
不思議なことにいやな悪臭が消えた。実際には消えてはいないのだが…。

ルーカスは数ヶ月前に友人から借りたデジカメを落とし、壊してしまった。
取り急ぎ謝りの連絡を入れ弁償なり修理をするつもりではいたが、なんだか正直に告白する勇気も出ず、億劫になってずるずるとそのままになっている。 
彼はその壊れたデジカメにも黒い光を当ててみた。
カメラは直ってはいないが、今までの引きずってきた重い罪悪感がスーッと消えていくように思えた。 
「おお、いやな気持ちが忘れられるようやな」大阪弁で喜ぶルーカス。

とうとう奴は黒い光を放つ懐中電灯を天井にぶら下げ、部屋中に黒い光を放った。
ぽいと脱ぎ捨てて丸まった靴下や下着
何ヶ月も水をやらずからからに干からびた観葉植物
床の上にほり出され忘れられたスピード違反の罰金の振込用紙
奴には何も見えなくなっている。何も感じなくなっている。
心の中にある義務感や正義感を隠してしまう黒い光、
今ルーカスは部屋の中で自らそれを浴びていることに気が付いていない

「オイオイ! はよそのへんな黒い光を消さんかい! 取り返しつかんことになるで!」

どのように取り返しが付かなくなるのか不明ではあるけれど、そう大声で叫んだときに僕は目が覚めた。

デュッセルドルフの憂鬱な雨が降る朝が始まった。

―まー


あけてびっくり、結構手強いぞ今回は!

2007-05-06 | ピアノ技術者の仕事

なんかなぁ、ブログ更新が週一ペースになてきたなぁ。
まあええか

2006年12月に書いた「頼むから、ピアノ専門業者をつかってな!」
を回顧してみてください。

そのピアノをようやく修理する運びとなりました。
お客さんは「急いでませんから」と言っておられました。
すると半年もほったらかしにされてしまいます。




響板には沢山の亀裂が入ってるわ、
棚板は割れてるわ、
バス駒は浮いてるわ…

結構荒っぽい過酷な生活を強いられてたみたいやなぁ。

直るかなぁ…


―まー