マイスターのお道具箱

ドイツに住むピアノ技術者、ーまーのブログ

裏表のある人

2011-06-29 | 愉快な仲間たち
 
 いつも自分で正しいと思う言動をとり、正義感あふれるまじめそうな人がいます。
でもちらっと裏側を覗いてみますと、やけに臆病で人の陰口しか言えないような 
ちっちゃい人だったりすることがありますかね。
そんなボコボコにしたくなる衝動に駆られるうっとうしい人っていませんか?
僕にはいます。  それはあなたかもしれない……


 ミュンヘン近郊の保養地で有名な湖に接する町ディーセンに、
老舗の錫細工、Wilhelm Schwaizer があります。観光地のみやげ物店でよく見かける
兵隊さんの錫細工がとくに有名ですかね。

先日、知り合いからモーツァルトモチーフの一体を頂きました。
厚さ1ミリほどの薄い錫板なのに立体感があり、細かくてかわいくて素敵です。
裏側はどうなっているのかと見てみますと……




裏もモーツァルトでした。
もし裏がバッハだったりしたら 今頃ボコボにされていたことでしょう。

よかったね モーツァルト  ーまー




写真家のベヒシュタイン その3

2011-06-26 | 写真家のBechstein

 「想定外」なことはどの世界にもあって、その都度試行錯誤してあれこれ
工夫を凝らして解決するものです。 
直ちに人体に影響するかどうか説明するほど深刻な事態には決してならないところが
ピアノ技術が平和な職業だという証です。

今回の「想定外」
1.作業を進めるうち思っていたより修理の箇所が多いことに気付く。
 いわゆる見積もりミスで、当然自己責任の部分も出てくる。

   



2.簡単な作業なのに思いどうりにはかどらない。
  たとえばこのネジをはずすのに1時間以上悪戦苦闘した。
  
      

  ショックドライバー、バーナーで熱する、オイルをしみこませる、
  などしてもびくとも動かなかった。さび付いていたのではなく、
  塗料がネジに付着したまま締めてあったので塗料が接着剤みたいになってたのね。 

  たとえば親板(ケース)が邪魔になって長ーいネジを外せない。
  
   
 
  親板を最小限切り落として難を逃れる。
  これもはじめの製作段階で、将来の修理のことを考えずに作ったちょっとした不具合。


 

あーでもない、こーでもないと言いながらも作業はゆっくりと進んでいく。

その間、興奮気味の写真家は3回目の見学にやって来た。

                        後半戦に続く ーまー

写真家のベヒシュタイン その2

2011-06-19 | 写真家のBechstein

 どうやら一度オーバーホールされたピアノのようですねぇ。
中にはちょっと付け焼刃的で粗末な修理箇所がありますねぇ。
あかんねぇ、こんなことしてたら……

分解すればするほど修理が必要な箇所が見つかり、ため息が出てきます。
虫食いのフェルトや埃を除去して作業員(-まーさま)がやる気を出せる
環境づくりから始めることにしました。
ちょっとキチャナい画像が続きます。 















ーまー



写真家のベヒシュタイン その1

2011-06-13 | 写真家のBechstein
  
 偶然、知り合いの婆さんがホームに入るってんでアパートを引き払ったけれど
このピアノだけが残り、俺が引き取ることになったんだ。
きっと調律だけでは不十分で修理が必要だろうから視てほしい。
できることならきっちりと直したいけれど突然降ってきた話なので 
今、金銭的な余裕があまりない。必要最低限の修理でいいんだ。
実は子供の頃、ベヒシュタインでピアノを習ってたんだ。
だからいつかまたベヒシュタインを弾いてみたいという望みがずっとあったんだけど、
今回こうしてチャンスが来たのも何かの縁。運命のようなものを感じるよ。

 家財道具一切が運び出されたアパートの一室、ひとつだけ取り残された古いピアノの前で
そう説明しながらイケ面カメラマンは涙ぐむ。繊細な心の持ち主なのだろう。
芸術に携る人(表現者)の感性は時にして距離を置きたくなることもあるのだけれど、
その鋭さはやはりリスペクトを抱かざるを得ない。




 とりあえず工房に運んで修理箇所をチェックすることになり、カメラ片手にやってきた。
(ワインの手土産ももらったな。)かなり興奮気味に写真を撮り続けながら、
僕の修理箇所の説明を何度も確認するかのように復唱する。
予算ははじめからオーバーしているし、果たして修理する価値があるのかどうか
どうも心底納得できないらしい。
「僕に任してくださいな! 後悔なんかさせませんよ」 
この一言でようやく彼の心は決まったようだ。 ハイタッチして交渉成立となった。

 僕のほうはいろいろと彼から写真撮影のアドバイスを受け、
このピアノの修理を写真でドキュメントしていくことにした。





テーマ画像はプロが撮影したもの。 
さて、この2枚、どれが僕ので、どれがプロの写真でしょう?
(画像の大きさだけは変えましたが、色やトリミングは変えていません。)

まだまだ ひよっこ

2011-06-11 | ピアノ技術者の仕事

 この僕があなたのピアノを壊したというのですか?
「そうは思いたくないけれど、あなたがピアノ調律に来られた後にペダルが利かなくなったんだもの。
今まで普通に使えてたわよ。」

 めっちゃ不本意な苦情やけど ごちゃごちゃ言い返さず即効で処理しに行くことにした。
『くれーむ処理』の鉄則は心得ているつもり。
クレームを受けることは基本的にはありがたいこと。
うまく解決することで誠意が伝わるチャンスにもなる。
それに、たいていピアノ技術でのクレームは些細なことなんや。

でもクレームを貰うといろいろといらぬ心配が始まる。 
 いつものように作業後ペダル確認したよなぁ。
 でも作動しなくなったって指摘されてんねんから 見落としたんかなぁ。
 いや、ちゃんと動いてたで…… 
 どっちにしても すぐに直ることやろうから気にすることないって。
 でも、悔しいなぁ、何が起こったんやろ……

こう気になりだすともうその日は寝られへん。
結構気にしぃというか神経質と言うか
チキンと言うか、いやぁ まだまだひよっこなんやなぁ ぼく。

 そして 翌日のくれーむ処理現場。
左ペダルを踏むと途中でなにやら途中でコツッてぶつかって踏み込めない。 
部品がはずれて落ちたんかなぁ。
「ね? おかしいでしょ? 調律前はちゃんと動いてたもの!」
そのお言葉にちょっとむかつきながらも懐中電灯とピンセットを駆使して
ペダルの隙間を探り、異物を取り出した。
「これ、僕がわざと入れたとでもおしゃるのですか?」



  


「あははぁー、傑作ね。犯人は私のかわいい娘だわー  
ーまーさん、ピアノとひよこの両方を救助してくれたのねー 感謝感謝ーー!

ひよっこのぼくは突然オヤジ鶏になり、鶏冠(とさか)に来たのは言うまでのことはない。
    ーまー

何とかここまできましたよ

2011-06-04 | ピアノ技術者の仕事

 家具職人になるための職人試験を直前に控え、めっずらしく自宅にいるサトチン。
机の前でのお勉強が苦手、と言うか性に合わんのは血筋、
ちょっとは勉強する気になったのが意外なこと。 
せっかく居るんならちょっと手伝えや。



 ってことでカンナをかけてもらった。でや、日本製のカンナは軽くかかるやろ?
サウスポーはなんか違和感があるな。



 木の汚れ、雑巾でごしごし拭いても取れないゴテゴテ汚れはサンドペーパーで削ったり、
こうして薄くカンナを当ててやりますと、新しい木の表面が出てくるので綺麗になります。作業時間も早くて済むしね。(でも、削りすぎると寸法が変わるので注意しましょう)



 錆びた金属を磨いてペダル部分が完成し、組み立て。




 そして 仰向けに寝かせていたピアノを起こしてあげると、なんかしゃきっとしてきましたな。




 
 ついでに、打鍵機構をチェックして、次のステップをなんとなく頭の中に段取りとして入れておきます。 
特殊なアクションなので、きっと梃子摺ることでしょう。 
どうしても手に入らない部品があったんですが、どうやら目途が立ちました。
探せば見つかる……

 おじいさんピアノはまた少し休憩で、後回しにされてしまいます。
先行させなければならないオーバーホールの新しい物語がまた始まります。

  そんなたいしたことではないのですけれど…    -まー


調弦じゃなくて張弦ですねん

2011-06-02 | ピアノ技術者の仕事

 弦楽器の世界では『調弦』というと音律を調えることを言うそうな。
ピアノの世界では 音律を調えることを『調律』と言う。
『張弦』とは字のごとく弦を張ること。弦楽器で張弦というのかどうかそれは知らん。
ややこしい。

 夏にかけて修理の仕事が複数依頼があったので、今のうちにとりあえず張弦作業だけは
終わっておきたい。アップライトピアノの場合、開腹手術のように仰向けに寝かせて作業するので場所を取る。
小さな工房なので在庫があると作業がでけへんのよね。
弦の在庫確認を怠り、21番の弦が足りなくなった。(この前もやったなぁこの失敗)
一時中断するも仕事仲間から拝借して続行(彼にも19番手を貸したことあるからこれで相こやね)






 錆びたネジや 真鍮の部品を磨くのも僕たち技術者の仕事。 
みさき研修生は金属磨き専務、究極のアシストを担当。
磨きに生きがいを感じているようで仕上がりもさすがに綺麗。



張った弦を一気に引き上げる作業、チッピング。(まだ少し恐々な研修生。)
張弦は1日半で終わり、いよいよ仰向けに寝かせたピアノを起こすためにペダル部分の作業に入ります。 


 
次回、久々さとちん登場かも…               ーまー