マイスターのお道具箱

ドイツに住むピアノ技術者、ーまーのブログ

巨大なピアノ

2010-05-31 | ピアノ技術者の仕事

 背の高さが150センチもある。

「デカッ!」と言いながら ずっしりと重いパネルを外す。

 

 

 オーバーダンパーアクションの古いピアノ。
ドイツ、イギリスで120年前あたりにたくさん作られた問題児。
物理的にみて効力の少ない場所に音を止める装置(ダンパー)が取り付けられているので
エコーがかかったようなエフェクトの音になる。現在のアップライトと比べると
かなり音の止まりが悪い楽器。 

 

 長いワイヤーが鳥かごのように見えることからイギリスでは
Birdcageactionと言われているそうな。 (ドイツでは Oberdämpfermechanik)
その長いワイヤーとダンパーは調律作業の邪魔になる位置にあり、調律師泣かせの楽器なんだ。
最近では「オーバーダンパーのピアノの調律はお断りしています。」と敬遠する技術者も多い。
有名メーカのオーバーダンパーピアノは流石にしっかり音の止まりも良く、
嫌いではないのだが、大抵は手をつけるのが億劫になるような楽器がほとんどだ。
まぁ、そんな古い楽器が未だに一般的な家庭で使われていることに
「驚くべし ドイツ人!」を感じるのだ。
 
 

確かにお客さん宅でこのピアノを見たとき、その大きさにギョッとし、
おまけにオーバーダンパーであることに落胆したのだが、
結構しっかりと設計されているようなので、仕事を引き受けることにした。
当初、音を整える調律作業だけの依頼だったが、
ダメージが多すぎて調律不可能なの状態なので大掛かりな修理になった。
解体し、響板と駒の修理をし、弦を新調し、象牙鍵盤を磨き……
只今 カナッペがアクション調整中。 もうすぐ完成のはず。

ーまー


Bremenに行ってきたんです…

2010-05-22 | 愉快な仲間たち

昔からの知人に会い、懐かしい話が行き交い、
いつものごとくとろけるお料理が並び、
静まり返った夜の観光地を歩き、
念願のヴァイオリン工房を訪れ、
もちろんお仕事もこなし、



毎回、優しく迎えてくれる友人に感謝し
今回出会った人たちとの楽しい語らいに幸せを感じた。
彼らのライフスタイルに敬服し、再び元気と勇気をもらい
もう少し背筋を伸ばしてみようと思った



そう、Bremenに行ってきたんですけれど、
全ての画像が露出オーバー。 カメラの設定がいつのまにか変わっておりました。
不本意なことで残念です。 -まー


新しいお道具箱

2010-05-14 | ピアノ技術者の仕事
 
 今まで使っていたかばんは工具を出し入れするのにあまり便利な構造ではなく、
おまけに素材が悪かったので3年弱で見るも無残な容姿になった。
今回のはポリカーボネートでできているアタッシュケース。
お道具箱が新しくなると気持ちも新鮮になり、
それだけでピアノ調律が上手くなったような錯覚さえ起こる。
(オイ、下手くそやったんかい 自分?)

さて、早速 この新しいお道具箱で外回りをしてみましょう。

1件目 
 ゲーテ博物館のハンマーフリューゲル。 テーマ画像↑
 ここのところ頻繁に調律しているので結構安定した状態。
 でも一度大掛かりな調節がしたいなぁ。いろいろと細かい不具合があるのですよ。

2件目

 
  いつもの担当ホールで訳の分からない演奏会。(拾い調律のみ)
 ピアノの後ろにあるアコーディオン(画像右手)は ホーナー社の高級楽器「ゴラ」
 蹴飛ばしそうなところに大切な楽器をおもむろに置くでない!

3件目



 

 
デュッセルドルフのある教会 合唱の伴奏のための調律
 オーバーホールをした古いブリュートナー。なんとも素朴な音色です。
 弦設計が大変ユニークです。

4件目


 デュイスブルグのある教会 現代音楽の演奏会。 
 照明もパフォーマンスの大切な一部。
 築1000年の厳かな雰囲気ですが、ドイツの文化を大切にする気持ちが
 伝わってくる催し物です。
 残響がかなりあるので調律は本当にやり難いです。


 気が付けば、この「マイスターのお道具箱」5年目を突破してますな。
 ーまー


おぉ、久しぶりやないかぃ

2010-05-09 | ピアノ技術者の仕事

 ステージの上手から場内に入ると 緑のたぬき君がボクを待っていました。
今回も赤いキツネさんが担当すると聞かされていましたので、
緑のたぬき君の突然の登場はボクにとって嬉しい驚きでした。

 「まいど~ ーまーさん」 
なんやテンション低いなぁ 久々の出番でびびってるんちゃうか?
 「近頃運動不足でねぇ あちこちギシギシいってます。」
これから「氣」を入れたげるからしっかりしいや!
 「赤いキツネさんより俺のほうがイメージに合うって
  ピアニストのお兄さんに言ってもらったのですけれどね」
ほらね、ちゃんと音楽する人には違いが判るんよ。 
今日の演目も気合入れていこな。 
シュニトケ(Schnittke)のピアノと弦楽オーケストラのための協奏曲や。
魂の叫びとでも言うか、あるときは重厚でまたあるときは繊細な音の重なる曲は
ぞくっと鳥肌がたつようやね。
さっきピアニストと打ち合わせして、特別注文もらってきたよ。
 「さらに緊張しますねぇ」
特に最高音のFisが一番大事なんやそうな。 曲のエンディングの要(かなめ)の音。
この音は小さく弾いても最上階の客席のさらに上まで透き通った真直ぐな一本の光が
静かにでもはっきりと突き刺さるように響かせなあかんねんて。
 「難しいですかね?」
いやぁ 簡単なことはない。でも緑のたぬき君やったらきっと素質はあると思う。
 「ーまーさんは具体的に俺をどうゆうふうにするんですか?」
結局のところボクにはピアニストの言ってる意味があんまり解れへんかってんけど、
要するに鳥肌がたつような音が出るようにすればええんちゃうかなぁ。
 「えぇ、そんなので大丈夫ですか?」 
まっ 緑のたぬき君、あとは君次第やからとにかく自信持って頑張りや。任したで!

大丈夫 大丈夫、ピアニストの手が緑のたぬき君の鍵盤に触れたと同時に 
鳥肌たちましたもん  ーまー

一口ドイツ語講座(なつかしい)
鳥肌=Gänsehaut(ゲンゼハウト) ガチョウ(Gans)の皮膚 なんか具体的ですな。

長丁場の10年目を迎える

2010-05-03 | ピアノ技術者の仕事
 今の工房に移転して10年が経ちました。
いつもお世話になっている仲間達と乾杯をする予定をたてた同じ日に、
コンサート会場からいつもの土壇場依頼が入りました。
時間的にダブるので演奏本番の立会いはお断りし、リハーサル終了までスタンバイすることでお互いの要望をすり合わせました。



ヨーロッパのヴァイオリン界のトップスター的な存在、彼を観てヴァイオリンを習い始める若者が急増しているそうです。 
マグカップやTシャツ、アイマスクやキーホルダーなどファンへのグッズも取り揃えてのコンサート会場はもちろん満員御礼の1800人。

15秒の動画


ピアニストがすごく奇麗な音を出すので感心してしまいました。
10秒の動画 ピアノ 


ピアノの状態は抜群!なにの不安もなく会場を後にしました。


 遅刻気味に工房に戻ると、すでに皆さんお集まりでした。
バンベルクからわざわざ駆けつけてくれた友人とは3時半まで飲み続け、
そして二日酔い。 
たまには良いかと思ってはみるものの、深酒はしんどい。 

反省の10年目   ーまー