彼は家の中で放し飼いにされていた。
全身黄色で赤い目玉のセキセイインコ
名前は「チビ」。かわいいやつやった。完全に手乗りインコ。
ある日ふと気がつくとチビの姿がない。
探 しまわしたあげく見つけたのは金魚の水槽の中、水死していた。
大変悲しく辛い気持ちで冷たく固くなったチビを水槽の中から
そっと取り出している子供の僕がそこにいた。
初めてショックを受けたのはドイツに暮らし初めて一月ほどたった頃やった。
ドイツ生活にも随分慣れ、いろんな物を試してみたくなる時期。
その日もスーパーに買い物に行くのを楽しみにしていた。
当時の野菜売り場はシンプルで、ジャガイモ、にんじん、キャベツ、キュウリくらいしか種類はなかった。
本当に大根やレタスは存在しなかった。
だから、こいつが陳列棚に並んでいることに気づいた時の驚き様はなかった。
ドイツ人て残酷なやつらやなぁ。他に食べる物ないんかいなぁ。
野菜のコーナーに「チビ」の死骸が並べられている。
こいつの名前はチコリと言う。ベルギーあたりで盛んに作られているらしい。
もちろん日本でも当たり前のように売られていると思われる。
そうこうしているうちに僕は結婚することになる。
ある日、当時(も)若くて綺麗やったおかみさんが僕のためにグラタンを作ってくれた。
旬のチコリが綺麗に並べられた熱々のグラタン。
いや、食べ物に好き嫌いがあるんとちゃうねん。
僕には「チビ」の丸焼きにしか見えへんねん。
どうしても思いだすんや、あの固く冷たい感触を!
チコリのばか!
―まー