ピアノ製作者のマイスター資格試験を受けて25年経った
マイスターシューレで一緒に学んだ仲間は17名、
一度みんなで集まろうということになった。
卒業してそれぞれが持ち場に帰った以降、
数名のクラスメイトとのコンタクトしかなかった。
同じ業界仲間やのに、 25年、四半世紀・・・
Ausbildungsstätte für Meister im Musikinstrumentenbau
(楽器制作のマイスターシューレ)はLudwigsburgにある
国立専門学校(ピアノ、チェンンバロ、パイプオルガン、木金管楽器の製作のための)
の中に所属しています。マイスター試験を受けるために必要な知識を深めるコースです。
今回の参加者は12名
こうして実際に会うとやはりしばらくは誰なのかわからない人もいた。25年ぶりの再会やからねぇ
日本人は僕だけだったので皆には記憶にはあっただろうが、
名前をフルネームで覚えてくれていたのは少なかったんやないかなぁ?
学校内の整備の行き届いたアトリエを見学し、
その後飲み屋で数時間を共に過ごした。
それぞれのキャラクター、身のこなし、ユーモア、褒め方、励まし方、
当時出くわしたいろんな出来事とともに、昔のままが蘇ってくる。
翌日、1年間寄宿でお世話になった音大ピアノ教授の家に立ち寄った 。
そして小さな田舎の村を駆け足で散歩してみた。
街並みの静かな佇まい以外ほとんど何も記憶に残っていなかった。
ふと立ち止まるとこんなにも月日が流れていたのだと気づいた。
浦島太郎の玉手箱やないけれど、
こうして25年ぶりにマイスターのお道具箱の蓋を開けた。
その中からこみ上げて出てきたものは
一つの夢を叶えようとチャレンジし、
その夢が叶い喜び勇んでいたことへの懐かしさよりも、
言葉の壁を越えられない辛さやもどかしさ、経済的な不安、
理不尽な対応への苛立ち、時間的な焦り、そして孤独感、
そんな長い間心の奥底に眠っていた様々なモヤモヤした感情だった。
それでも勇気を出そうと歯を喰いしばっていた当時の気持ちが
ぐっと溢れ出してきた。 —まー
愉しい
久しぶりに行う作業、子供の頃のプラモデルの気分
音楽など聴かず 黙々と励む。
ニカワがほのかに薫り、加湿器が静かに回っているだけ
無心に作業を進める
ん? なんかちゃう(違う)気がする
毎日この作業だけをしている人はさぞかし早く綺麗に仕上げるんやろなぁ
僕もこんな楽しい作業、毎日やりたいなぁ
いやいや
毎日同じ作業ばかりしていると飽きっぽい僕はきっと続かんやろな
目が疲れるとか、腰が痛くなるとかいっては別のことしたくなるやろなぁ
無心? なんかちゃう気がする
今日の夜はシュウマイがつまみやな
週末の飲み物の備蓄はあるんやったっけな
別の楽しみの段取りばかりが頭をよぎる
それでも午前中だけで1日のノルマを達成する
途中 写真休憩なんかもちゃっかり入れて
達成目標を少なめに設定すると後半が楽になるね
長年培ってきた究極の知恵
そんなことを無心に考えながら作業が終わる ーまー.
相変わらず 人混みが苦手
相変わらず ワインはラベルで選んでる
相変わらず 納豆が好きなのに
相変わらず あまり食べる機会はない
相変わらず 金曜日が大好きで
相変わらず 日曜の夜が辛い
変化したことは 腕立て伏せの回数が増え
近眼メガネを外して物を見る回数が増えてきたこと
変化したことは 夜更かしができなくなり
朝早くに目がさめるようになってきたこと
たとえブログが途絶えていても
相変わらず 機嫌よく生きているのですよ。
生存確認まで ーまー
1年くらい前、こんなピアノが工房にやってきました。
修理依頼ですね。
ぎゃー なんじゃこれー が第一印象。
ほんとに修理するのか? 無駄じゃないんか?
あれこれ懐疑的な思いも隠せなかったですよ。
でもね、依頼主の心情もよく理解できたし、何とかなるやろという
いつもの楽観的な軽めの気持ちで修理を始めることにしました。
と言っても外装(黒く塗る部分の木工と塗装)は外注です。
とりあえず解体してみましたが、木材の虫喰いがひどく、
親板(いわば本体そのもの)も新しくすることにりました。
外装修理で本体を塗装業者に預けている間、アクションの修理をちまちまと
行います。
つらつら文章を書くよりも、修理前後を写真でどうぞ。
そして完成です。
前パネルの装飾だけは塗装せずにオリジナルを残し、
依頼主が自ら探されたかわいい燭台をつけて、
おんぼろピアノはふたたび息吹を吹き返しましたよ。 ーまー
修理依頼ですね。
ぎゃー なんじゃこれー が第一印象。
ほんとに修理するのか? 無駄じゃないんか?
あれこれ懐疑的な思いも隠せなかったですよ。
でもね、依頼主の心情もよく理解できたし、何とかなるやろという
いつもの楽観的な軽めの気持ちで修理を始めることにしました。
と言っても外装(黒く塗る部分の木工と塗装)は外注です。
とりあえず解体してみましたが、木材の虫喰いがひどく、
親板(いわば本体そのもの)も新しくすることにりました。
外装修理で本体を塗装業者に預けている間、アクションの修理をちまちまと
行います。
つらつら文章を書くよりも、修理前後を写真でどうぞ。
そして完成です。
前パネルの装飾だけは塗装せずにオリジナルを残し、
依頼主が自ら探されたかわいい燭台をつけて、
おんぼろピアノはふたたび息吹を吹き返しましたよ。 ーまー
28年くらい前にピアノの調律をしたことのあるお城。
僕たち夫婦の仲人さんが還暦のお祝いをされた時に、調律させてもらった。
普段は車で素通りするくらいで、綺麗な庭園があるなんてすっかり忘れている。
かなり老朽化しているこのお城、普段は無人なので館内を見学するような観光目的では
使われていないようだ。たまに会議や演奏会など人が集まる催し物の時だけ貸し出しているようだが
一般的に知られている様子もなさそう。
今回、どういうわけかピアノの調律をうけたまわったのだけれど、
記憶を辿るとかなり状態の悪いグランドピアノだったので、当時と同じ楽器だったらいややなぁと
思っていた。
当日、セキュリティ会社の係員が門を開けてくれる事になっていた。
でも、来なかった。連絡しても通じない、本部に電話してもすでにそちらに向かっているとのこと、
寒い中、青い門の前で1時間待ったけど、来なかった。(係のおじさんは途中で緊急入院したそうな)
調律は次の日に延期となった。 風邪ひいた。
翌日、館内に入ることができた。
案の定、昔から置かれているあのピアノのままだった。
別の技術者が管理をしていたようで調律はさほど狂っていなかったのだけれど、
相変わらず鉄板のように重いタッチ。これで演奏しろっていうのは過酷。
何グラムって? 計測不可能・・・
タッチがなんでそんなに重いのか、28年前の当時はわからなかった。
でも今はピアノの中を覗くだけですぐに原因がわかるようになっている。
これを「成長した」と言うのだろうか、「年の功」と言うのだろうか。
タッチ変更は簡単に直せるものではなく、大改造が必要なようだ。
でもきっとこの先何十年もこの鉄板タッチでいくことになるんやろなぁ。
ピアノを直す前にお城の傷みを直すのが先決やろからな。
嗅覚と味覚が1週間ぶりで戻りつつある。 今年の風邪も治りが遅い。 ーまー
なんでわざわざフランスを選んだんやろ?
どうやらピアノの調律師を目指すためにフランスに行ったんやなくて、
既にフランスにいて、その時点でピアノ調律師になろうと決意したんやろな。
フランスの調律師養成学校がどんなレベルで、
どんなカリキュラムで行われているのかよく解らないまま、
ミカミ君の3週間研修を受け入れることにした。
年に二回、現場での実習を経験させる教育システムのようだ。
しかし彼の場合、年齢枠と外国人であることから
1年間のみの通学が許されるとのこと。
なんだかちっとも様子が分からないシステムのようにも思われる。
この3週間は僕の調律するところを見てもらったり、
もちろん実際に調律してもらったりもした。
弦のコイルや玉作りの練習をしてもらった。
金属磨きもしてもらった。ダメ出し2回、三日間かかって
ようやくピアノの金属部品が理想的に光りだした。
たとえ時間がかかっても一生懸命な姿は素晴らしいことだと感じた。
「職人の技術は盗むもの」なんて昔はよく言ってたみたいやけれど、
もうそんな時代やない。
技術なんてもんはどんどん教えてあげればええと思う。
やる気さえあればすぐに方法なんて覚えてしまえるもんです。
ただ、その根っこの方にある技術者に一番必要なセンスとか
エレガントさなんかは教えられるもんやないし、
手取り足取り教わるもんでもない。
自分が持ってる素質(ええかっこ言うと天性みたいなもん)を
磨いていくのは本人自身しか出来へんことやと思う。
磨き方次第。 それは自分で工夫するしかない。
ちょっとしたことで輝きだすこともある。
ミカミ君へ
ええ線までいってるから、もっと客観的に視野を広げて作業をすれば
テキパキできるようになれると信じています。
ま、たった1年やそこらで調律がきっちりできるようになることはないねんけど、
決して焦らずに、でも、急いでください。それほど時間はないと思うのです。
近い将来、ピカピカのミカミ君に会ってみたいと思う。その時はビール奢れよ!
生意気言ってごめんなさい ーまー
ああでもないこーでもねえとあれこれ落ち着かない春のある日、
9年生の男子女子の二人が工房にやってきてくれました。
一日職業体験ってやつです。
ご両人ともピアノを習っているとのこと、
ピアノの構造など簡単に説明したのち作業を手伝ってもらいました。
テーマは「指先の力」
なんてことはない、掃除と研磨なのですが
指先に力が入らないとなかなか奇麗にならないのですよ。
日頃あまり使わない指先の力の入れ方を会得すると
ピンセットなど細かい道具の使い方もかわり
きっとピアノ演奏にもプラスになるんやないかなと思った次第です。
最後に調律も少しだけ挑戦してもらい、
ピアノに対するモチベーションもアップしてくれたらええなぁと思いましたよ。
ーまー
大丈夫です。生きてます。
ブログを書かなかったのには理由などありません。
怠惰だっただけです。ただそれだけのことです。
年越し、新年は呑み仲間が遥々訪ねてきてくれたり、
同業者の後輩も地球の裏から弾丸新年のご挨拶に来てくれたりしました。
わいわいと騒ぐことはなく、大変落ち着いた集まりだったと記憶しています。
年末年始はコンサートの仕事があったものですから、
心底酩酊できないので少し不本意ではあったのですが、
今、健康飲料の空き瓶の山を眺めていると、兵どもの夢の後のようで
充実したスタートが切れたんやないかなと思っています。
お約束の自動演奏ピアノの動画をここにアップしたいと思います。
Phonola Grotrian - Steinweg
去年の11月に撮影終わってたのに、
フェースブックにアップして任務完了したと思い込んでいましたよ。
かんにんしてな。 ーまー
PS. トップのピアノは2013年の暮れに急遽工房に現れた体全体に入墨をしたやばいピアノです(冗)。
極めてアートな楽器です。きっと報告します。きっと……
↑これが通常の演奏する時の状態。
100年前の自動演奏装置の付いたピアノ
何が面倒って、調律とかアクションを調整する時に
ごっそりと機械を取り外す手間がかかるんです。
ちょっとユニゾン直したいなと思っても二人掛かりの作業になってしまう。
↑これが自動演奏する時の姿。
まずは『変身とロール装着の動画』をお楽しみください。
自動演奏装置付きのグランドピアノ
工房に運び込まれて、早2年半。←その時のブログ
どこに不具合があって自動演奏できないのか大体解っていたのですが
つい後回しになってね。夏休みなど比較的仕事の少ない時期を狙って
じっくり勝負しようと思っていましたが、手付かずで放置状態でした。
依頼者の方には演奏会場でお会いするたびに催促されていましたが、
「ピアノの不具合は完全にコントロールされています。」
「特殊な楽器なので時間がかかるものなのです。」
「今度のクリスマスまでには完成する予定です。」……
その都度ごにょごにょと言い訳しておりました。
仕事人としていかがなものか!
ようやく装置を修理しましたよ。
未だに構造のすべてを把握しているわけではないのですが、
欠損しているバネを自作したり、ふいごを張り替えたりして、
動くようになりました。
(直るかどうかやっぱりちょっと不安やったんですけどね)
後はピアノ本体の修理をするだけです。
とにかく自動演奏装置がばかでかいので、鍵盤も異常に長く、
アクション部品も一般的な楽器よりも少し複雑でとにかく重い。
再び僕の意気は消沈方向に向かっていますが、
「今月中に完成させ、その暁には録画してお見せします。」
と公言すれば やるしかないでしょ。 ―まー
9月に入って、僕たちの地域は新学期を迎え新しいシーズンが始まりました。
月に一度のブログ更新です。どうも最近忘れがち。
特に忙しくしていたのではありません。
この夏休みを振り返ると、まあ、何と真面目な生活をしていたことか、
古い楽器を修理して暮らしていました。
鍵盤の裏側が焦げています。なぜ? 解りません
ピアノ技術者お決まりの画像。
あ、タイトルの画像、森伊蔵は掃除用アルコール、葛根湯はコンパウンドが入っています。
飲んだらあかんで!
「自分へのご褒美」という言葉をよく耳にします。
特に褒美でもなんでもないんやけど、9年ぶりにプラハ観光にも行ってきました。
朝から晩までとにかくよく歩いた三日間でした。
結構時間に流されずゆったりとした夏休みでしたから、
これから迫ってくる仕事の勢いにのまれないよう
しっかりとワインを飲んでパワーを付けたいと思っている次第です。 ーまー
外回りのピアノ調律の仕事がめっきり少なくなる夏。
今年の夏はグランドピアノのアクションの修理依頼が重なってる。
休むな、励め!という事らしい。
物まねが上手かったんやろか?
象印賞をもらったアクション。ヤマハのC7(象牙鍵盤ってことやで)
オーナーは寝ても覚めてもピアノの練習が大好きなピアニスト。
30年以上弾き続けて、象牙鍵盤の角が透けて見えるくらい薄くなって
削れてしまってる。演奏するにも限界らしい。
指先は削れへんのかなぁ。
新しい象牙に張り替えることも不可能ではないのだけれど、
今はもう何処の演奏会場でもアクリル製の鍵盤を使用した楽器しかないので
あえて弾き心地のよい象牙にこだわるのもね、
それに人工象牙(新素材)も試してみたけれど、なんだかねぇ、
一気にアクリルに換えちゃおうという事になった。
今まで30年頑張って練習した記念に、剥がした象牙は保管しておきたいとの事、
割らないように慎重に剥がしたよ。一枚も失敗せえへんかったぞぃ!
ついでに色んな所を磨き倒して夏を過ごしてるんやで。
一日の仕事が終わって、ちべたいワインに会うのも楽しみの一つやけどね。 ーまー
リンゴの花びらが風に散る頃、(ひばりちゃーん)
年に二度の定期調律、春の部に赴く。
かれこれ25年続いている、半年ごとのピアノ調律。
50回以上この邸宅に通っていることになる。
長いお付き合いもここまでくると歴史だ。
ピアノのオーナーの現役時代は大学病院の外科医だった。
今年85歳になられた。
趣味のピアノ演奏は最近弾く気力がなくなりつつあるとか。
それでも定期調律はかかさない。
毎回、調律作業が終わり少し世間話をしながら次回の調律日を決める。
コーヒーとクッキーの傍らに季節の小さな花を必ず添えてくれる。
欠かすことなく毎回受ける優しいおもてなし。
秋の調律日を手帳に書き込みながら、
次に会う日までお互いに幸せで健康でいることを願い合う。
枯れ葉の舞う頃にまたお会いしましょう
ーまー
10歳のお嬢ちゃんがピアノを習っている。
ピアノの先生のところでは上手に弾ける天才少女なのに、
自宅ではどうもうまく弾けない。
だって鍵盤が超重いんだもん!
君はやる気がない、センスがないなどと親はため息まじりの厭味をつぶやく。
そんなネガティブな雑音に耐えながらも練習を続けていた。
だってピアノ好きなんだもん。
鍵盤が重い原因は音を止めるダンパーという部品の不具合。
バネの力でフェルトを弦に押し付けて音を止めています。
鍵盤を押すとフェルトが弦から離れる仕組みです。
そのダンパーレバーを動かす支点となる部分の動きがスムーズじゃない場合
鍵盤を強く押さないと音が鳴ってくれないのです。
今回の場合、工場でピアノが作られた段階でその支点はすでに固かったのだと推測します。
それプラス、部品の材質が悪いので、弾けば弾くほど支点が劣化して重くなって行きます。
音の止まりが悪くなるのでバネをさらに強くするという判断ミスした技術者の手が加わり、
逆効果でもっとタッチが重くなって弾きにくくなった箇所も見つかりました。
最終的にお嬢ちゃんがとばっちりを喰らう、というかわいそうなシナリオですね。
固いところだけを修理しても後から別の箇所が固くなるかもしれませんので
すべて分解して交換します。
このピアノメーカーは決して粗悪品を作っているのではありません。
普及型メーカーのエースの一つです。効率良くたくさん作ってたくさんの人に使ってもらおうと一生懸命です。
ただ、良いタッチ良い音色のピアノ作りを目指す思い入れや信念を持って
作成してきた歴史がないのです。
ま、とりあえずこれで
「自宅でも天才ピアニスト」が誕生するので落着ですかね。 ―まー