マイスターのお道具箱

ドイツに住むピアノ技術者、ーまーのブログ

四半世紀のお付き合い

2013-05-17 | ピアノ技術者の仕事

 リンゴの花びらが風に散る頃、(ひばりちゃーん)
年に二度の定期調律、春の部に赴く。
かれこれ25年続いている、半年ごとのピアノ調律。
50回以上この邸宅に通っていることになる。
長いお付き合いもここまでくると歴史だ。

 ピアノのオーナーの現役時代は大学病院の外科医だった。
今年85歳になられた。
趣味のピアノ演奏は最近弾く気力がなくなりつつあるとか。
それでも定期調律はかかさない。

 毎回、調律作業が終わり少し世間話をしながら次回の調律日を決める。
コーヒーとクッキーの傍らに季節の小さな花を必ず添えてくれる。
欠かすことなく毎回受ける優しいおもてなし。

秋の調律日を手帳に書き込みながら、
次に会う日までお互いに幸せで健康でいることを願い合う。

枯れ葉の舞う頃にまたお会いしましょう

                      ーまー




とばっちり

2013-05-09 | ピアノ技術者の仕事

10歳のお嬢ちゃんがピアノを習っている。
ピアノの先生のところでは上手に弾ける天才少女なのに、
自宅ではどうもうまく弾けない。
 だって鍵盤が超重いんだもん!

君はやる気がない、センスがないなどと親はため息まじりの厭味をつぶやく。
そんなネガティブな雑音に耐えながらも練習を続けていた。
 だってピアノ好きなんだもん。



 鍵盤が重い原因は音を止めるダンパーという部品の不具合。
バネの力でフェルトを弦に押し付けて音を止めています。
鍵盤を押すとフェルトが弦から離れる仕組みです。
そのダンパーレバーを動かす支点となる部分の動きがスムーズじゃない場合
鍵盤を強く押さないと音が鳴ってくれないのです。

今回の場合、工場でピアノが作られた段階でその支点はすでに固かったのだと推測します。
それプラス、部品の材質が悪いので、弾けば弾くほど支点が劣化して重くなって行きます。
音の止まりが悪くなるのでバネをさらに強くするという判断ミスした技術者の手が加わり、
逆効果でもっとタッチが重くなって弾きにくくなった箇所も見つかりました。
最終的にお嬢ちゃんがとばっちりを喰らう、というかわいそうなシナリオですね。



固いところだけを修理しても後から別の箇所が固くなるかもしれませんので
すべて分解して交換します。



このピアノメーカーは決して粗悪品を作っているのではありません。
普及型メーカーのエースの一つです。効率良くたくさん作ってたくさんの人に使ってもらおうと一生懸命です。
ただ、良いタッチ良い音色のピアノ作りを目指す思い入れや信念を持って
作成してきた歴史がないのです。


ま、とりあえずこれで 
「自宅でも天才ピアニスト」が誕生するので落着ですかね。  ―まー