マイスターのお道具箱

ドイツに住むピアノ技術者、ーまーのブログ

断弦

2006-04-27 | ピアノ技術者の仕事
ピアノの弦は鋼鉄(スチール)でできている。
一般の「ピアノ線」よりも精度がはるかに高い。
各セクションごとに0.025ミリずつ太さが変わっていく。

強い打鍵、調律などによる引っ張りの力の変化、経年変化によって弦が切れてしまうことがある。錆も大きな原因のひとつだ。
切れた弦は新しく張り替えることになるが、
中音と高音部の鋼鉄線は普段、手持ちがあるので断弦してもすぐに張り替えることができる。
-中音部は特に太い弦が張られているのでめったに切れることはない―

低音部にはいわゆる『巻き線』が張られている。鋼鉄線に銅製のワイヤーを巻き付けて作る。
機種によって太さ長さがすべて違うので、既製品は無く1本ずつ作られる。
この低音部の銅巻線が切れると少々厄介だ。
長さをはかり、太さをはかり、巻き線機という特殊な機械で作成しなければならない。
結果、修理に時間がかかり、コストも高い。
新しく張った弦はどうしても他の弦と音色が違ってしまうという欠点もある。




親方の親方あたりの昔のピアノ技術者は、このように切れた弦をどうにか結んで修理していたらしい。その場で修理できる(かなり器用な技術だと思う)。
物理的に弦振動のことを考えると、理想的な修理方法だとは思えないのだけれど、
つなぎ合わせた弦が悪い音だという印象がないのが不思議なところだ。
ただ、調律する時結び目がほどけるのではないかと不安で仕方がない。

このような修理がなされた楽器に出くわすと、技術の奥深さを感じさせてくれる。
   ―これは良い修理方法なのだろうか?―


ーまー        更新時 8位