野口和彦(県女)のブログへようこそ

研究や教育等の記事を書いています。掲載内容は個人的見解であり、群馬県立女子大学の立場や意見を代表するものではありません。

国際政治学の名著の邦訳

2013年01月16日 | 教育活動
昨年末から本年初めにかけて、国際政治学の名著の日本語訳が相次いで出版されました。

1つは、ロバート・コヘイン、ジョセフ・S・ナイ(滝田賢治監訳/訳)『パワーと相互依存』ミネルヴァ書房、2012年(原著初版1977年)、です。



もう1つは、アレキサンダー・ジョージ、アンドリュー・ベネット(泉川泰博訳)『社会科学のケース・スタディ―理論形成のための定性的手法―』勁草書房、2013年(原著2005年)、です。



翻訳の労をとられた滝田賢治先生(中央大学)とそのお弟子さん、ならびに泉川泰博先生(中央大学)に、心より敬意を表します。『パワーと相互依存』は、国際政治学界では、言わずと知れた名著であり、わが国では、長い間、同書が訳出されることが待たれていました。『社会科学のケース・スタディ』は、方法論、とりわけ事例研究と理論構築に関する優れた著作であり、この邦訳書が出版されたことは、方法論のトレーニングが弱いと言われる、日本の国際関係論の教育への多大なる貢献にほかなりません。

こうした重要文献は、邦訳があれば、大学の学部レベル(さらには修士課程)の授業で、より使いやすくなります。また、両書とも、国際関係に関心がある一般の方々が、社会科学のアプローチに親しみ、相互依存やグローバル化の意味するところをより深く理解するのを手助けするでしょう。つまり、日本の国際政治学や国際関係論の基底を強化し、その「すそ野」を広げることにつながるのです。

学術書の訳出は、論文執筆と同じく、地味で骨の折れる作業であり、それぞれ学術的に意味のある研究成果です。にもかかわらず、滝田先生はが『パワーと相互依存』の「監訳者あとがき」で指摘されたように、「日本では翻訳は研究業績としてはあまり高く評価されない傾向がある」(459ページ)とすれば、それは改めるべきでしょう。『パワーと相互依存』が、35年間、日本語で紹介されなかったことは、どれだけ日本の国際政治学/国際関係論の教育や発展に負の影響を与えたことでしょう。逆に言えば、本書の日本語版が上梓されたことは、評価してもしすぎることはないと思います。『社会科学のケース・スタディ』にも、同じことが言えると思います。
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« スキーのトップとテールの使い方 | トップ | 国際関係の辞典を出版しました »
最新の画像もっと見る

教育活動」カテゴリの最新記事