気儘に書きたい

受験勉強よりもイラストを書くのが好きだった高校生の頃---、無心に絵を描く喜びをもう一度味わえたらいいのだが。

平山観音

2009-06-16 09:53:52 | 風景画
 私が小学6年に上がる春休みの事だ。亡き父と、私、姉、弟の四人でハイキングに行った。父が門中5年生(今の高2)の頃、学校の山林作業で植樹をしたところを子供たちに見せたかった。昭和14年8月21日に平山観音の上方の風師山の一角に植樹をして学校林とし、以後山林作業が門中の例年行事となった。この時5年生は平山に宿泊しており、父には思い出の場所だった。
 風師山頂から伊川方向に、枝を掻き分けて下って行くうちに、父が感慨深そうに、「ここだ。」と言った。子供たちには、普通の林でしかなく、さらに探検を続けたかった。
 山から降りて人里に出た所に平山観音があった。そこから2キロほど歩くと、幹線道路に出る。そのT字路の前の食料品店で、一行は飲み物を買って喉を潤した。
 そこから当時住んでいた春日町の我が家まで、あと3キロもなかった。ハイキングも終盤にさしかかっていたが、子供たちははりきっていた。
 すると父が、ここからバスで帰ろうと言った。店の前がバス亭だった。
 
 この何年か前に、一家五人で平尾台に登ったことがあったが、麓のJRの駅から山頂まで気の遠くなるような行程だったが、海軍で鍛えた父は子供たちに弱音を許さなかった。

 予想外の父の提案に、子供たちは歩いて帰りたいと反対したが、父の辛そうな様子に気付いて、素直に従った。

 ハイキングの日からほどなく、父は病の床に伏し、やがて帰らぬ人となった。
 父はそれとなく死を覚悟していたのかもしれない。子供たちが不憫で、体力が残っているうちに、楽しい思い出を残そうと無理をしたのだろう。


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