架空庭園の書

音楽への"homage"を主題として、思いつくまま気侭に書き連ねています。ブログ名はアルノルト・シェーンベルクの歌曲から

Natalie DESSAY - Michel LEGRAND "Entre elle et lui"

2013-12-01 | ミシェル・ルグラン


今年聴いたCDから Best 5を選んだら、というような企画がよくあるが、まさにそのなかの1枚となるアルバム。

"MOZART HEROINES"というアルバムでナタリー・デセイを知った。
CDショップのオペラや歌曲のセクションに多数並ぶなかで一際目をひく、ブルーとブラウンが混じった瞳でこちらを見つめているCDカバーに魅かれて買った---まさにジャケット買い。

夜の女王のアリアなどが収録されていて、5曲目《Zaide》の《Ruhe sanft, mein holdes Leben》では歌がたおやかにのびてゆく感じに陶然となってしまった。この当時、その後定例となる信州への旅が始まったばかりのころで----iPodはまだ世に出ていない----ポータブルCDプレーヤでこのアルバムを繰り返し聴くくらいのファンとなってしまった。

そんなナタリー・デセイがマエストロと組んで、しかもマエストロの作品を歌うというアルバムなのだから素晴らしくないわけがない。デセイの表情豊かな歌が、マエストロの(年齢を感じさせない)まさに「音楽」としかいいようがないピアノプレイが愉しめる。

クラシックの歌手とマエストロという組み合わせは、キリ・テ・カナワ、ジェシー・ノーマンとの組み合わせがあるが、この2枚と比べるとデセイの歌い方は自然----クラシックの、あるいはオペラ歌手が、いかにも歌いましたというのとは正反対---であり、マエストロの作品としての違和感はまったく感じさせられない。そのことだけでも稀有な出来栄えといってもいいだろう。

《Chanson de Delphine》(You Must Believe In Spring)からアルバム後半に収録されている歌曲(シャンソン?)---歌詞がロシア語の作品もある----を一人で歌い、マエストロとは《リラのワルツ》、《風のささやき》を、実生活のご主人となるLaurent Naouriと映画《シェルブールの雨傘》のシーンを鮮やかに思い出させる息の合ったデュオ、パトリシア・プティボンとは《ロシュフォールの姉妹》のソルフェージュのような歌を楽しそうに歌っているというように変化に富んだアプローチもいい。

《リラのワルツ》でデセイがコロラトゥーラ風の装飾的な変奏をし、マエストロは対旋律のような長い音価で歌う部分はこのアルバムのなかでも飛び切りの瞬間。

《シェルブールの雨傘》ではデセイがフレーズの最初の2音を絶妙な長さとタイミングで歌うあたり、そして後半でマエストロのピアノの雄弁さ、ここも飛び切りの瞬間。

と、飛び切りの瞬間を書いていったら切がないだろう。

このアルバムではマエストロはベースとドラムスを引き連れてピアノを弾く。そのプレイは多彩でありダイナミクスの幅を広く、あたかもピアノ・グランドオーケストラといってもいいぐらいだ(注意深く聴くと、時折多重録音しているのがわかるが....)。

最後の曲ではマエストロの奥さんカトリーヌ・ミシェルのハープが加わっている。
デセイがドビュッシーの歌曲を歌ったアルバム歌曲集《月の光》の1曲《波・椰子・砂》でもハープを弾いている。

Natalie DESSAY - Michel LEGRAND "Entre elle et lui"


この動画を見ればその素晴らしさが音としてわかるだろう。

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ルグランという万能な音楽家の、ソングライターとしての1面を考えてみると:

最近来日したポール、バカラックあるいはジョビン。いずれも「不滅の」という言葉を付けられる名曲を多数生み出しているが、今回のデセイ盤のような取り上げられ方(つまりクラシックの歌手が、その作品集として歌うということ)がされたことはない(と思う)。

このあたりにマエストロの音楽のユニークさが潜んでいるといえないだろうか。

それゆえに、このアルバムの評価として、例えば大手の新聞各紙で今月のCD評というようなコラムを想像されたし---ポピュラーそれともクラシックのどちらで取り上げられるのだろうか?と思う。そしてそれを評する「専門家」はその専門的な、それゆえに片方が見えない知見からのみで判断されてしまわないだろうかと。

 

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