架空庭園の書

音楽への"homage"を主題として、思いつくまま気侭に書き連ねています。ブログ名はアルノルト・シェーンベルクの歌曲から

MICHEL LEGRAND RECORDED LIVE AT JIMMY'S

2013-11-27 | ミシェル・ルグラン



16小節---いってしまえば「たかが....」という小曲---のテーマを盛りだくさんのアイディアに基づいて、そして1コーラスごとに半音上げて全部で15回繰り返す、つまり12の調を(いわば)一巡し、なお3コーラス足される。さらに、そこに音楽する楽しさをあふれんばかりに振りまく、そんなプレイができるミュージシャンが他にいるであろうか?

哀切極まりない旋律映画を見たことのないヒトでもその切なさを感じることができる名曲(中の名曲)。《シェルブールの雨傘》のメインテーマ《I Will Wait For You》。マエストロはどんなプレイをしたか

コーラス、調性を付けて並べてみる。

1. c:    遅め、自由なテンポでテーマを提示。ただただ美しい。
2. cis:  少し動き---楽譜にしたら con mote とでも書きたいところ---が生まれる
3. d:   バックが加わり2ビートでスウィングし始める。シングルトーンのフレーズが粋。
4. es:  プレイは華麗さを増してゆく
5. e:   4ビートとなりフレーズには強靭さが感じられる
6. f:    ここにいたって縦横無尽とばかりに鍵盤上を駆け回る
7. fis:  ブロックコードを主体としたプレイ(黒鍵主体となる調だものね)。
8. g:   シングルトーンによるめまぐるしいまでの動き
9. gis: ジャズワルツとなり雰囲気が変わる
10. a: 勢いは止まらない。ひたすら突っ走る
11. b: ぐいぐいとピアノがリードするなか、ロンのベースが強力なプレイをする
12. h: ボサノバに変わり、ここでいったんクールダウンしメロディー主体のプレイ
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13. c:  ピアノが再び暴れだす
14. cis:ラテンつながりでタンゴに変わる
15. d:  ロシア民謡風とでもいえばいいか、テーマの音ひとつづを全員で刻みつつ、テンポをどんどんあげ、最後は唐突に終わる。

ところどころでマエストロの笑い声。マエストロはご機嫌なのだ。
[そうだよな、ご機嫌にならないわけがない]と思う。アイディアは無尽蔵に溢れ、それをひたすら音にするために鍵盤に向かうのだから。

このフォーマットはマエストロ自身お気に入りなのだろう。その後、多少変形しつつも様々なところでやっている。(二番煎じともいえる)日本の企画もあったが、やはりこの盤が最高だ。この音源がなぜもっと早い時期に復刻されなかったのかとすら思う。

ロン・カーター(ベース)、グラディ・テイト(ドラムス)、ジョージ・デイビス(ギター)、そこにフィル・ウッズ(サックスとクラリネット)が加わるという豪華編成によるニューヨークのライブハウスJimmy's における録音(1973年11月8日)。

1. Watch What Happens
バラード風に始められる。その音のところどころに遠くドビュッシーの顔すら浮かんでくる。アドリブの開始からかなり熱い。そこにさらにフィルが加わってくるのであるが、フィルも相当熱い。

2. Blue, Green, Gray and Gone
マエストロの弾き歌い。決して美声ではないが味のある声。ところどころに挟まれるフィルのオブリガートもいい。

3. You Must Believe In Spring
「若かった少女達もとても年をとってしまった」という冗句をかましたマエストロのMCの後、エレクトリック・ピアノをバックにフィルが美しいテーマに装飾をほどこしながら歌いだす。アドリブでは豪快なブローが聴ける。

4. Brian's Song
ゴスペル風の前奏から始まり、ヒロイックな旋律のテーマが歌われる。アドリブに移る部分の他のメンバーの加わり方がイカしているし、スケールを高速に上下する部分ではマエストロのピアノが煌くかのようだ。この曲だけではないが、この曲では特にギターのカッティングが利いている。ピアノはリズムの刻みから離れることができるし、アドリブでは右手に集中できる。

5. Orson's Thema
ジャズワルツのリズムに乗ってマエストロのスキャットとフィルのクラリネットが重なる。この音色もユニーク。

6. Organ Eyes
風変わりな作品でありプレイ。フリージャズ風とでもいえばいいか。最後の方になりリズムを刻みだすあたりはマイルス風ともいえる。ただそれは発展することなく唐突に終わってしまう。他の曲ではオーディエンスも盛大に盛り上がっていたが、この曲では戸惑った様子が窺える。

と、どんな演奏であるかを書き連ねてみたけれど、このCDに刻まれた演奏の素晴らしさが伝わるだろうか?

音楽の愉しさを知りたかったらこのアルバムを聴くべし、と言いたい。
これを聴いたらマエストロがどれほど凄いかもわかるはず。

ミシェル・ルグランというと、映画音楽の作曲家というとらえ方をするヒトが多く、このアルバムを聴いてジャズもやるんだと受け止められているようだが、それはまったく違うということを改めて書いておきたい。

次はナタリー・デセーがルグランを歌ったアルバムを取り上げる。
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《I Will Wait For You》で調を変えてプレイしてゆく様を書いたが、これは実際に楽器をやったヒトならどのくらいの能力が必要かが理解できる(やったヒトにしか実感できないかもしれない)。最高度のソルフェージュ能力----音楽大学の入試レベルを遥か下に見る----がマエストロの音楽の一番の基本にあり、その凄みといったら超絶的といえる。

日本語の解説にはプレーヤー名の一覧はなく、最後のページに英文が添えてあるだけなのはいただけない。
そこにはミックスとリミックスを担当したのはフィル・ラモーンと書いてあった。

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