ファゴットとホルンによる変イ長調の主和音が柔らかいシンコペーションのリズムで始まり、チェロのソロが前奏を歌いだす。それと同じ旋律を受ける形で、たっぷりとした弧を描くかのように歌われるアガーテのカヴァティーナ《雲に隠されているが》。
クーベリックの指揮でヒルデガルト・ベーレンスが歌っているウェーバーの歌劇《魔弾の射手》。
このカヴァティーナだけでも聴く価値があるのだ、このアルバムには。
神秘的なといっても決して誇張とはならない美しさをたたえるこの歌が、ほとんど話題にもならないことを不思議に思っていたが、それはこの歌の美しさを表現しきれていないからなのだ。これ以上美しく歌っている録音は聴いたことがない。
手元にあるCDリスト
クライバー
フルトヴェングラー
マタチッチ
ヨッフム
ベーム
カイルベルト
Tosca-Behrens-Vissi d'arte vissi d'amore 歌劇「トスカ」より「歌に生き、恋に生き」
このカヴァティーナに痺れてこれまで何回聴いたことか。グリュンマーもヤノヴィッツもリリックそのもので陶酔しますが、ベーレンスの方が心に沁み渡ります。仰る通り、あまり話題にならないのは他の歌手が表現し切れてないからかも知れません。