お洒落感覚に溢れたマエストロのクリスマス作品。そのアルバムタイトル "NOEL! NOEL!! NOEL!!! "からして洒落ているではないか!
これでもかと「しかけ」を満載したアレンジ-----マエストロらしいといえる。それでこそマエストロ。
もし自分が歌手だとして、マエストロの伴奏で歌いませんかという申し出を受けたら
「喜んでお受けします。」というだろう。歌がうまかったら。
「とても、とても。辞退します」というだろう。歌が下手だったら。
受ける/辞退するのハードルはかなり高い。
なぜなら、自分の歌唱力に自信があり、よほど上手くないと歌が伴奏に負けてしまうから。
マエストロのアレンジは、これでもかと盛りだくさん。つまり情報が多いということ。
別の言い方をすると、変化しすぎ、ややもするとうるさいと思われてしまう。だからこのアルバムを聴いて"まったり"とクリスマス気分に浸るなんてとてもできない。でも、その「しかけ」が耳に馴染んでくるともう....(それでも"まったり"とはできないけどね)。
ビッグバンドにオーケストラを加えたという、いつものマエストロのスタイル。
チューバが加わるのが特徴だ。ビッグバンドでは通常使わないチューバ。記憶にあるのはギル・エヴァンスのオーケストラとラロ・シフリン(ジミー・スミスと組んだアルバム《The Cat》!)ぐらいか。このチューバがブラス・セクションに厚みをもたらしている。ストリングの処理はもうお手の物。曲の最後でブラス群は短いtuttiですぱっと切るが、弦だけをあたかもエコーのように伸ばすといった処理はマエストロならではのもの。なお、このアルバムではマエストロはピアノを弾いていない。
飛びっきりの伴奏をバックに、歌うのはカーラ・ブルーニ(フランス前大統領サルコジの奥さんになってしまった)はCDを持っている。名前だけ知っているイギー・ポップ。他はまったく知らない歌手ばかり----というぐらいしかポップスは聴かない----だが、それぞれ個性な歌唱を聴かせる。
ヴィヴィッドなサウンドから始まる"Let It Snow”から最後の《Silent Night》まで全10曲。小太鼓の刻みにのせて「ラパパン・パン」という繰り返しが印象的な《The Little Drummer Boy》、コケットリーな《Santa Baby》などあるが、やはりマエストロがこの書き下ろした《Noel D'espoir》。ブラスの咆哮、弦の跳躍、曲想の大胆な変化などなどアレンジの素晴らしさによる聴きどころ満載。
HMVで試聴できる。
今年のクリスマスは、このアルバム、オッターがアルトを歌う《メサイア》(ピノック盤)そしてシュナイトさんの《クリスマス・オラトリオ》だ。