しかし、息つく暇もなく、初年兵教育の上番が待っている。初年兵を担当すると、生き甲斐を感じる。若いだけあって、打てば響くように反応が早い。熱心だから進度も速い。三ヶ月も経つともう立派な精兵になる。かわいい初年兵を検閲が終わって、満州や千島に送るときは切ない気持ちになる。どうか、何時までも無事でいてくれよと心の中で祈る思いである。
昭和19年10月1日、いわゆる学徒兵が入隊してきた。二年前の自分の姿を見ているような気がした。初年兵のような純真さはないが、頭の回転が速く、目に見えて学科の成績が良くなる。彼らは全員幹部候補生志願である。学校教練の判定で甲士官適、乙下士官適と調書に記載されていると、余程のことがない限り、乙を甲に直すことは難しかった。
在学中どうして訓練をさぼったのか、おそらく本人もここまで影響することは夢にも思わなかったかも知れない。自分の同期で、良くできた人物だったが、甲幹になれず乙幹になった人がいた。本人は相当努力したのであろう。我々より一年遅れて見習士官になり、東京警備旅団で同じ中隊の第三小隊長になった。少尉と見習士官との差はあっても、甲と乙とでは軍隊での扱いに雲泥の違いがある。(このシリーズ最終回です)