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近くの多摩川に飛来する野鳥の連続写真を中心に、日頃感じた出来事を気ままな随想でご紹介し、読者双方との情報を共有したい。

戦争の実体験 初年兵(3回シリーズその3)

2013年09月16日 00時00分01秒 | 紹介

 初年兵の仕事は、演習ばかりではなく、班に帰ってからも内務といっていろいろなことをやらなければならなかった。靴や銃の手入れや洗濯したり乾かしたり、食事時になると「飯上げ」「釜収め」や食器並べや後片付け等でなかなか休む暇もなかった。しかし、その中に要領を覚えるものだ。「飯上げ」は、三四人で炊事場に行き、食缶(アルミ製で30食分はいる大きさ)を運ぶ役目だ。初めは、雨や雪の日は皆敬遠したものだ。一度行ってみると、班に残って班付き上等兵の目を気にしながらうろうろするよりもずっと気が楽なので、飛び出したものだ。班の中で「飯上げ」に行く者と「釜収め」に行く者は、自ら決まってしまった。ズルイやつは残っていて食缶が到着すると、盛り付け役になり、飯を皆の食器に盛り付けるのだが、自分の分だけはギューギュー詰めにして鱈腹食べようとする。
 周りの連中も負けてはいない。食器を並べながら重いのを自分のものにする奴も出てくる。軍隊では食べることが一番の楽しみだからだ。

 冬になると、手ぬぐいが濡れてしまうから、いくら拭いても湿気が取れず、手には霜焼け、ひび、あかぎれが出来、痛痒くて夜も眠られない日が続いた。それに、夜寝てからは南京虫に悩まされた。痒いと思って手をやるといち早く逃げてしまう。潰すと臭い匂いを残し刺された痕は二つの赤い穴を中心に膨れあがる。一月も経つとなれるのか抗体が出来るのかあまり痒くならない。

 入隊して二月も経つと、幹部候補生試験の準備をしなければいけない。消灯後は本を読めないので厠へ行き、便所の扉に大きな穴のあいているところに入り、穴から洩れる電灯の光に本を当てて勉強した。しかし、それだけの勉強では十分ではなかった。掃除の分担は、班内は勿論、班長室、下士官室、将校室が割り当てられていた。将校室が一番うるさく、皆が敬遠していかなかったので、自分が毎日行って掃除をした。ある日、週番士官の見習士官が声を掛けてくれた。「おまえもそろそろ勉強しないといかんぞ。どこで勉強しているんだ。」と質問されたので、「はい、厠であります。」と答えると「俺も経験があるが、あそこは臭くてたまらんだろう。消灯後はここに来て勉強してもいいぞ。」といわれ、涙がこぼれるほどうれしかった。以後は、お言葉に甘え、毎晩将校室で勉強させて貰った。おかげさまで、二月一日に幹部候補生試験に合格し、晴れて一等兵に昇進することが出来た。
(このシリーズ最終回です)