行雲流水の如く 日本語教師の独り言

30数年前、北京で中国語を学んだのが縁なのか、今度は自分が中国の若者に日本語を教える立場に。

『胡耀邦文選』に掲載された日中関係に関する「四つの意見」

2015-11-22 18:48:20 | 日記
北京は雪である。足元が悪かったが、出版されたばかりの『胡耀邦文選』を求め王府井に出かけた。北京最大の繁華街だが、今日はさすがに人通りが少ない。王府井書店には『胡耀邦文選』の特設カウンターが設けられていたが、手に取る人は少なく、店員によると「買い求める人も多くない」とのこと。宿泊先のホテルで20代の従業員に胡耀邦について聞いたが「知らない」との返事がほとんどだった。

生誕100周年記念日の20日、湖南省瀏陽市の故居も近辺の農村からバスに乗ってやってくる観光客が目立つ程度で、格別なにぎやかさはなかった。江西省から来た40過ぎの女性に胡耀邦の印象を聞くと、「我々の主席だ」としか答えが返ってこなかった。約100キロ離れた湖南省省都の長沙で地元のタクシー運転手(37)に同じ質問をすると、やはり「知らない」と答えが返ってきた。驚きべき風化ぶりである。

『文選』をめくってみた。計693ページ。建国直後、四川省北部で執政を担っていた1952年5月から、総書記から失脚する直前の1986年10月までの講演や会見発言、手紙など計77編が収められている。その中に、1985年10月18日、日中友好21世紀委員会でのスピーチ「日中関係を発展させる四つの意見」があった。同委員会は1983年11月に胡耀邦が訪日した際、当時の中曽根首相との合意によって翌年3月発足したものだ。『文選』に掲載されたスピーチは2ページ分。以下、日本語に訳してみた。

1、日中関係を強固にし発展させることは、日中両国人民の長期的、根本的な利益にかかわる大事であり、同時に、アジアと世界の平和と安定にかかわる大事である。我々両国がともに日中友好を自国の基本的な国策とすることは、完全に正しい。日中の長期的な友好事業を軽視したり、低く評価したりする考え方ややり方はすべて将来への見通しを欠いており、誤りだ。私は、我々両国政府と人民がみな努力を続け、日中友好の自覚をより一層大切にするよう希望する。

2、日中友好を発展させるため、我々両国政府と人民はみな、正しく両国の厳しい対立の歴史に対峙しなければならない。両国の半世紀に及ぶ対立は、日本のごく少数の軍国主義指導者が作り出したもので、日本の人民や現在の幅広い朝野の人々が責任を負うべきものではない。日本のごく少数の軍国主義指導者の手によって中国への侵略戦争やその他の侵略戦争が引き起こされ、中国やアジア、太平洋地区の各国に極めて大きな災難をもたらし、最後には日本の人民にも甚大な災難を及ぼした。この点を我々両国の人民と次代の子孫は厳しい歴史の教訓とし、戒めとしなければならない。これらの戦争を起こした当人たちはすでにこの世におらず、ある者はすでに国際法の正当な制裁を受けたが、彼らの子どもや子孫には累が及んでいない。つまり、我々は日中友好の関係を発展させる努力をする際、歴史上発生した対立の影響を今日の協力に及ぼすべきではないが、一方で、日中の対立を生んだ首謀者に同情寄せるべきでもなく、さらにごく少数の者がたくらむ軍国主義活動の復活を許すべきでもない。さもなければ日中友好に陰りが生じることは避けられず、ひいては深刻な結果を招くことにもなる。

3、日中の長期的な友好を実現する厳粛な任務は、我々両国の政府と人民のたゆまない努力が必要である。我々両国の各層がみな、両国政府が署名した日中共同声明と日中平和友好条約に対し真剣に向き合い、厳格に順守し、相互が認めた平和友好、平等互恵、相互信頼、長期安定の四つの原則を堅持しなければならない。両国の歴史、現状、利益や観点にはみな異なる点もあるが、交流の中で困難にぶつかった時は、双方が大局に立ち、慎重に事を運び、真剣に相手の友好的な建議や合理的な要求を検討し、相手の人民の感情を損うことが起きないよう全力を傾けるべきである。私は、我々双方が高みに立ち、遠くを見つめ、深く考えさえすれば、日中の長期的な友好の前途は明るいと思う。

4、日中友好の最高の目標は子々孫々の友好を実現することである。この崇高な目標のために、我々はまずこの目標を実現するのに役立つプラスの要素を発展させ、この目標を実現するのに不利なマイナスの要素を適切に処理し、21世紀の日中が引き続き友好であるよう努めなくてはならない。こうすれば、子々孫々の友好は堅固な基礎を築くことができる。日中友好21世紀委員会は非常に重大な任務を負っており、各委員の職責には両国人民が大きな希望を寄せており、ことのほか光栄なものである。委員会の業績が日中友好の歴史に刻まれるよう、みなさまの努力を期待したい。

以上

日中友好21世紀委員会はその後、新日中友好21世紀委員会に受け継がれたが、所期の目標からは大きく隔たっているように思える。訳しながら、決して愉快な気持ちにはならなかった。

また1983年8月15日、訪中した毎日新聞の山内大介社長との会見内容も収録されている。胡耀邦が訪日に先立ち、日中関係など国内外の10の問題を語った後、「日本は偉大な民族で、我々が参考にし、学ぶべき点が多くある。我々は一つの願いがある。それはつまり、世界の大小の国からできるだけ長所を吸収することだ」と述べた。

77編の中、2編が日本に関するものである。さて、今は、将来はどうか。