雲をつかむ
樫田にいると雲をつかめるというまるで雲をつかむような話。
田んぼ道を歩いていると、自分が雲の中にいると分かる。
バスの中から手を伸ばせば雲に届く、わずか標高400メートルの地なのに。
空谷橋の四つ子ちゃんたちの家近辺の光景は、樫田でも最も美しい。
新緑の見事なこと、紅葉の見事なこと、雲の見事なこと。
バスの中から見た空谷橋周辺の山。四つ子ちゃんたちは毎日これを見ながら生活している。
四つ子ちゃんたちの家の敷地は広大。芥川が敷地側を流れているので、小さい時から川で遊び、鹿と暮らしてきた。川水と井戸水の生活、静かな谷あいに大家族で暮らしている。高校生になった四つ子ちゃんたちとは、毎朝同じバスに乗り合わせるが、いつも犬を連れた家族がバス停まで送り迎えしている。バス停から家までの山道には灯かりはなく、正真正銘漆黒の闇。帰りも同じバスに乗り合わせるが、闇の中に四つ子ちゃんたちと家族と犬が消えていくのを毎日バスの中から見ている。
何て豊かな暮らしなんだろう。
樫田では犬は何匹も飼っている家庭が多いが、四つ子ちゃんの家も例に漏れず、たくさんの犬を飼っている。そのうち、一匹は、犬用車椅子をつけている。原採石場の前の道で車に引かれて倒れているのをここのおばあさんに助けられて以来、ずっとそうやって暮らしてきた。愛情を注がれている。
空谷橋。
いつかこの家族とじっくり話し込んでみたい。