碓井広義ブログ

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『ちむどんどん』が最後まで「共感」を得られなかった理由

2022年10月04日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

黒島結菜さんが演じたヒロイン・暢子(番組サイトより)

 

 

『ちむどんどん』が、

最後まで「共感」を得られなかった理由

 
NHK連続テレビ小説(朝ドラ)『ちむどんどん』が終了しました。
 
普通の朝ドラでは、終盤に差し掛かったあたりから、終わってしまうことを惜しんだり、終了後のロス(喪失感)を心配したりする声が高まってくるものです。
 
しかし今回は様子が違っていました。放送開始直後から始まった酷評が、最後まで収まらないままだったのです。
 
なぜ、こんな事態に陥ったのでしょうか。
 
このドラマには、大きな問題点が2つありました。「ストーリー」と「人物設定」です。
 
ご都合主義の「ストーリー」
 
まずストーリーですが、「ご都合主義」と言われても仕方のないエピソードで溢(あふ)れていました。
 
ここで言う「ご都合主義」は、作り手側が自分たちの都合に合わせて、無理筋な物語を繰り広げることです。
 
『ちむどんどん』には、「偶然」や「たまたま」や「いきなり」が頻発し、不自然極まりない展開となっていました。
 
たとえば、ほぼ手ぶらで沖縄から上京した主人公の暢子(黒島結菜)。たまたま知り合ったのが沖縄県人会の会長(片岡鶴太郎)です。
 
自宅に泊めてくれた上に、紹介された沖縄料理店が暢子のバイト先&下宿先となっていきます。
 
それだけではありません。会長は銀座の一流レストランへの就職まで世話してくれたのです。
 
「東京で店を持つ」こともそうですが、本来なら、かなりの紆余曲折(うよきょくせつ)を経てたどり着くはずの所に、暢子はいとも簡単に到達する。
 
これでは、見る側の「応援する気持ち」も薄れてしまいます。
 
それにしても、終盤になってから突然、沖縄に帰るという流れは驚きでしたね。
 
暢子にとっての東京、無理をして開いた沖縄料理店は、一体何だったのか。
 
さらに最終週での歌子の「入院・回復騒動」や、最終回でのいきなりの「202X年」へのワープも、ぞんざいというか、泥縄式というか。
 
もう少し練り上げた、そして丁寧な「物語作り」をして欲しかったです。
 
共感できない「キャラクター」
 
次の問題点は、登場人物の「キャラクター」です。
 
暢子は、少女時代からずっと理由のない自信に満ち、自己主張の塊であり続けました。
 
何かを思ったら、TPOなど無視して大声で口にします。
 
その行動原理は「思いつき」であり、自分勝手に見える行動に終始しました。
 
明るく前向きなヒロイン像は朝ドラの定番ですが、彼女の場合は「真っすぐな性格」の範囲を超えています。
 
単なる非常識で無遠慮な人に見えてしまい、見る側はなかなか共感できなかったのです。
 
ことあるごとに「ちむどんどんする!」とタイトルコールのように叫び続けたのも、押しつけがましいというか、鬱陶しいというか。
 
「内面の成長」があまり見られなかったという意味で、異例のヒロインでした。
 
そしてもう一人、困った人物がいました。暢子の兄、「ニーニー」こと賢秀(竜星涼)です。
 
真面目に働かない。暴力事件を起こす。一獲千金を狙って詐欺に引っかかる。
 
かと思うと、自身も詐欺まがいの行為に手を染める。
 
さらに周囲から借金をしたまま消えるのが常で、その度に尻ぬぐいをするのは家族です。
 
時々、「甘やかし過ぎだろう」と文句を言いたくなりました。
 
過去にも、朝ドラには何人もの「ダメ男」が登場しています。
 
近年では『おちょやん』(2020年度)のヒロイン・千代(杉咲花)の父親、テルヲ(トータス松本)が娘を売り飛ばしました。
 
『カムカムエヴリバディ』(21年度)の安子(上白石萌音)の兄、算太(濱田岳)も妹の大事な貯金を持ち逃げしています。
 
朝ドラのダメ男たちは、ヒロインの人生を揺さぶる大きな要素ですが、賢秀のダメさ加減は度を越しており、見る側にストレスさえ感じさせたのです。
 
終盤になって、賢秀も何だか急に “いい人”になっていましたが、「辻褄合わせ」のようで嘘っぽく見えてしまいました。
 
最後には、ナレーションで「借金は返した」などと、言い訳のように説明していたのも苦笑物です。
 
「沖縄復帰50年」の朝ドラだったが・・・
 
さらに、今回は「沖縄復帰50年」という節目の作品だったわけですが、復帰後の沖縄の変化などはほとんど描かれませんでした。
 
とりあえず、「沖縄がらみ」の朝ドラであればいいと考えていたのでしょうか。
 
最終週で、取って付けたように「沖縄戦」の話を持ち出してきたのも感心できません。
 
全体として、物語にも登場人物たちにも、作り手側の「思い入れ」が感じられない、なんとも「粗雑な作り」だったことが残念でした。
 
間もなく始まる、次回作『舞いあがれ!』。
 
「ちむどん沼」に足を取られることなく、きれいに”離陸”することを祈っています。

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