碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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視聴率惨敗のNHK『花燃ゆ』が抱える不安 評価は早計!?

2015年01月16日 | ビジネスジャーナル連載のメディア時評


視聴率惨敗のNHK『花燃ゆ』が抱える不安 
評価は早計、
面白くないはずはない

2014年から15年へ。テレビもまた新たな年を迎えた。年末特番の喧騒の中で見つけたオアシスのようなドラマと、今年の放送界を代表する任を負ったドラマ。年末年始の2本をオトナの目で振り返る。

●年末特別ドラマ『東京センチメンタル』(テレビ東京系)

出演者のタレントとつくり手だけが楽しんでいるような年末特番ラッシュに閉口していた昨年12月30日夜。年末特別ドラマ『東京センチメンタル』(テレビ東京系)にじんわりと癒された。いわゆる大作や問題作ではない。むしろ逆で、中年オヤジの淡い恋物語なのだ。

しかし、主人公の和菓子職人を、昨年放送され人気を集めたNHK朝の連続テレビ小説『花子とアン』の吉田鋼太郎が演じたことで、俄然魅力的なドラマとなっていた。吉田が演じる久留里卓三はバツ3で現在は独身。結構惚れっぽい。10年ぶりで再会した設楽靖子(高岡早紀)と東京・谷中の町を散歩しながら、また仕事上のつき合いがある木崎みゆき(黒川芽以)と深川を食べ歩きしながら、つい「もしかしたら」という勝手な妄想が湧き上がる。

結局、子供と多額の借金を抱えた設楽は北海道の資産家を選び、若い木崎は結婚のお知らせを送ってくる。つまり片想いのままフラれるのだが、久留里は執着しない。「ま、いっか」という余裕の負けっぷりが微笑ましいのだ。オトナの男は、こうでなくてはならない。

このドラマには「町歩きの楽しみ」という裏テーマがある。日常からのささやかな逸脱。オトナならではの趣味だ。ドラマの中に登場する谷中の「カヤバ珈琲」も、深川の「イベリコバル門仲」も実在の店だ。この辺りは『孤独のグルメ』(テレビ東京系)を想起させる手法で、どの店も行ってみたくなった。

今年もまた、テレビ東京はオトナの男の味方であってほしい。そんな願いが叶いそうな、オトナなドラマだった。

●NHK大河ドラマ『花燃ゆ』

年が明けて1月4日からNHK大河ドラマ『花燃ゆ』が始まった。しかも初回の平均視聴率16.7%(ビデオリサーチ調べ/関東地区)がいきなり話題となった。1989年の『春日局』(14.3%)、77年の『花神』(16.5%)に次ぐ歴代ワースト3位の数字だったからだ。

大河ドラマはNHKの看板番組の一つであり、注目度も高いので仕方ないが、初期の視聴率だけで否定的な評価を下すのは早計というべきだろう。

吉田松陰(伊勢谷友介)をはじめ、幕末から維新へと時代を動かした人物たちを描いていくドラマであり、基本的に面白くないはずはない。ただし今回は吉田松陰の「妹」という、一般的には知られていない人物を主人公に立てたことへの不安はある。この設定が物語の幅を狭めないかという危惧だ。

だが初回を見る限り、子役の山田萌々香の好演もあって、松陰の妹・文(ふみ)が少女時代から「人をつなぐチカラ」を持つ人物であることは伝わってきた。

最も印象に残ったのは、幕府が禁じた書物をめぐる騒動の中、後に文の夫となる小田村伊之助(大沢たかお)が、長州の藩校で学ぶ若者たちに訴える場面だ。

「人はなぜ学ぶのか。お役に就くためでも、与えられた役割を果たすためでもない。かりそめの安泰に満足し、身の程をわきまえ、この無知で世間知らずで、何の役にも立たぬ己(おのれ)のまま生きるなどご免です。なぜ学ぶのか。この世の中のために、己がすべきことを知るために学ぶのです」

この場面、そしてこの台詞には、ドラマをつくっているスタッフとキャストの“志”のようなものが込められていた。それさえあれば、「大きく堕することはないのではないか」とさえ思った。

2回目からは文を演じる井上真央も本格的に登場して、文のヒロインとしての存在感も増している。今後、松陰はもちろん、門下生の高杉晋作(高良健吾)や久坂玄瑞(東出昌大)など幕末の志士たちと、どう関わっていくかも興味深い。視聴率ばかりを指摘する声に惑わされず、ドラマそのものと向き合っていきたい。

(ビジネスジャーナル 2015.01.16)

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