碓井広義ブログ

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「ノーサイド・ゲーム」 主役・大泉洋に拍手

2019年10月07日 | 「北海道新聞」連載の放送時評

 

 

「ノーサイド・ゲーム」

主役・大泉洋に拍手

 

9月28日のラグビーW杯。日本代表(世界ランク9位)がアイルランド(同2位)に、19-12で逆転勝利した。優勝候補を相手に見せた互角以上の戦いは、熱心なラグビーファンではない人間にも何か熱いものを感じさせてくれた。詳しいルールなど知らないままに試合を見ていたが、あまり困らないのが不思議だった。心当たりがあるのは9月まで放送されていた日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」(TBS-HBC)だ。猛暑が続いた今年の夏、一服の清涼剤となってくれたこのドラマを振り返ってみたい。

原作は、「半沢直樹」や「下町ロケット」などでお馴染み、池井戸潤の最新同名小説。左遷によって弱小ラグビー部のGM(統括責任者)となったサラリーマンが、チームと自分自身を再生していく物語だ。制作陣も演出の福澤克雄(慶大ラグビー部出身)をはじめとする「チーム半沢」の面々で、始まる前からヒットを期待されていた。そのプレッシャーは大変なものだったと推測するが、委縮するより、むしろ積極的に攻めていた。

その象徴が主役に大泉洋を抜擢したことだ。もちろん大泉は十分に人気者だが、「看板ドラマ枠」としては明らかに冒険であり挑戦だった。役者としての力量だけでなく、大泉が醸し出す「ユーモアとペーソス」、そして計測不能の「突破力」に賭けたのだ。

主人公である君嶋隼人は、元々自動車メーカーの経営戦略室次長だった。ところが派閥抗争の影響もあり、郊外にある工場へと送り込まれ、そこでラグビーと出会う。制作陣が巧みだったのは、君嶋を徹底的にラグビーの素人にしたことだ。それどころか、「ラグビーなんか大嫌いだ!」とまで叫ばせている。知らないし、好きでもない。そんなマイナス状態からスタートしたことが大きい。おかげで視聴者も、君嶋と一緒に少しずつラグビーの魅力を理解していくことができたのだ。

また、ここで大泉の持ち味が存分に発揮される。敵だと思っていた人物の本当の姿を知るかと思えば、信頼していた上司に裏切られて絶望したりする。ラグビー部への思い入れが深まるほど、出世コースから外れていくことへの不安は増していく。そして、いつも悩む。君嶋は聖人君子でもなければ、万能のヒーローでもない。いや、だからこそ見る側が共感できる「普通の男」を、大泉は嫌みのない喜怒哀楽の表現と見事な緩急のバランスで演じきった。

何より大舞台でもマイペースを通し、果敢なトライで勝利したことに拍手だ。

(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2019年10月05日)


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