碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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デイリー新潮で、「鎌倉殿の13人」初回について解説

2022年01月14日 | メディアでのコメント・論評

長澤まさみさん

 

「鎌倉殿の13人」の初回を

専門家はどう見たか 

ナレーション「長澤まさみ」の配役予想

 

1月9日、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」がスタートした。鎌倉幕府の第2代執権・北条義時を演じる小栗旬が主演で、源頼朝は大泉洋、義経に菅田将暉、平清盛に松平健、他に坂東彌十郎、片岡愛之助、小池栄子、宮澤エマ、新垣結衣、山本耕史、宮沢りえ、田中泯、西田敏行、ナレーションは長澤まさみ……と三谷幸喜の作品らしい豪勢なキャスティングだ。視聴率は昨年の「青天を衝け」の20・0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区:以下同)を下回る17・3%だった。

その初回を専門家はどう見たか。メディア文化評論家の碓井広義氏に聞いた。

三谷脚本の大河は、幕末を描いた04年の「新選組!」(主演・香取慎吾)、戦国時代末期を描いた16年の「真田丸」(主演・堺雅人)以来、6年ぶり3作目である。作品を重ねるごとに時代を遡っていることになる。ちなみに初回視聴率も、「新選組!」26・3%、「真田丸」19・9%と、時代を遡るごとに下っている。

碓井:「青天を衝け」はコロナ禍の影響で、スタートが2月でしたからね。焦らされた視聴者が多く見たということもあるでしょう。今回、描かれるのは平安末期から鎌倉前期ですが、この時代、源頼朝と義経くらいは知っていても、北条義時って何者だっけというのが、多くの人が感じることだと思います。そこが、これまでの三谷作品とは異なるところでしょう。私も敢えて予備知識なしで初回を見ました。

――その結果として、視聴率もこれまでの作品よりも落ちたということか。で、感想は?

碓井:すごく面白く見ました。三谷さんらしいユーモアが、時折ではなく全編に溢れていました。一方で、初回は主人公がどんな人物なのかを伝えることが重要です。その点、義時はまだ頼りなさを見せつつも、頼朝はじめ父・時政(坂東彌十郎)、兄・宗時(片岡愛之助)、姉・政子(小池栄子)、妹・実衣(宮澤エマ)らが、無理難題に振り回されながらも調整能力に優れている人々であることをしっかり描いていました。今後、彼らが様々なトラブルに直面しながらも、その調整ぶりを展開していくのだろうと印象づけました。

――知らない時代、知らない人物を描いた大河は、これまで失敗の連続だった。

ゾッコンよ

碓井:本来ドラマとは、知らない結末に向かって見せていくものなんですけどね。失敗した大河には“おかしみ”がありませんでした。「鎌倉殿」の場合、登場人物も多いのですが、一人ひとりそれぞれが明るく、おかしみがありますし、次回作が楽しみになるんです。ほぼ同時代を描いた「平清盛」(12年、主演・松山ケンイチ)は暗く重く作られた大河でしたから、視聴者も次週も見ようとは思えなかった。

――「鎌倉殿」は確かに明るいが、現代風な言葉遣いが賛否両論を呼んでいる。

碓井:これまでの三谷大河を見ていない人は、そう感じるかもしれません。時政が再婚の理由を問いただされ「寂しかったんだもん」と答えたり、実衣が「姉は(頼朝に)ゾッコンよ」と言うセリフもありました。中世の話し言葉はわからなくても、いくら何でもそれはないと思わせるものです。ですが三谷大河では、すでにお馴染みですからね。

――そもそも「13人」とタイトルに算用数字が用いられたのは大河史上初。「これまでの大河とは違う」と宣言しているようなものだ。

サプライズ出演はあるのか

碓井:言葉遣いは、当時の人にも現代人に近い感覚があることを表現する手段と考えていいのではないでしょうか。現代語訳と言うよりも、三谷流の超訳です。それよりも、現代の感覚では残酷と思われる子殺しも、しっかりと入れ込んでいました。こうした使い分けの巧さが三谷脚本の特徴です。

――「新選組!」では元祖・土方歳三役者である栗塚旭を出演させたり、「真田丸」ではかつてNHK新大型時代劇「真田太平記」で真田幸村を演じた草刈正雄を幸村の父・昌幸に起用するなど、サプライズがあった。今回はどうだろう。

碓井:三谷作品のサプライズ出演は、三谷さんが子供の頃に夢中になった作品からの起用が多いように思います。そうなると、大河「草燃える」(79年、主演・石坂浩二)で北条政子を演じた岩下志麻さんが、何らかの役で出演するかもしれません。

――ナレーションを担当している長澤まさみの出演はないのだろうか。

碓井:囁き型のナレーションもこれまでになく斬新ですが、彼女が何者であるのかはまだ明かされていません。彼女は「真田丸」ではヒロインを演じていましたし、何らかの形で出演すると思います。

静御前は誰が?

――義経の母・常盤御前や側室・静御前、義時の正室・姫の前など、キャストが発表されていない役はまだある。美女が演じることの多い静御前は誰が演じるのか、ネット上では話題になっている。

碓井:義経役の菅田将暉が現在28歳であることを考えると、34歳の長澤が静御前というのはちょっと……。それよりも、主役の義時の娘役ではどうでしょうか。ナレーションでは、この時代を客観的に見つめられる存在のようですから

――特に番組最後、ドヴォルザークの「新世界より」をBGMに長澤が語った人物紹介は、次週以降を楽しみにさせるものだった。それは以下の通りだ。

●平清盛:時代の変わり目が近づこうとしている。平家の総帥・平清盛。大輪田泊、後の神戸に港を開き、宋との貿易で莫大な富を得ている。今が絶頂の時。

●木曽義仲:やがて平家討伐の先陣を切って京へ乗り込む朝日将軍・木曽義仲。この時はまだ信州の山奥に隠れ住んでいる。

●藤原秀衡:東北の地に大都市・平泉を築いた奥州藤原氏は3代目・秀衡の時代。平家も一目置く勢力を誇っている。

●源義経:この時期、秀衡の庇護を受けていたのが、後の天才軍略家・源義経。やがてこの若者が、平家を滅亡に追いやることになる。

●後白河法王:そして謀略をこよなく愛し、日本一の大天狗と言われた後白河法皇。長年、朝廷に君臨してきた後白河と清盛との蜜月は、間もなく終わろうとしている。

そして最後にこう語った。「この国の成り立ちを根こそぎ変えてしまった、未曾有の戦乱が、目の前に迫っている」……。

戸次重幸も出演?

碓井:彼女のナレーションは、どちらかと言うと源氏寄りの立ち位置に感じられます。義時には4人の妻がいることがわかっていますが、名前の判明していない女性もいました。その女性の娘の一人が、大分の戸次(べっき)重秀に嫁いでいます。この戸次氏の末裔といわれているのが、大泉洋と劇団TEAM NACSを組んでいるシゲこと戸次(とつぎ)重幸です。大河「龍馬伝」(10年、主演・福山雅治)に大泉が出演した時には、TEAM NACSの音尾琢真も出演していましたから、今回も他のメンバーが出演することは十分に考えられます。

――戸次は母方の旧姓を芸名にしているのだが、本来の読みは「べっき」だという。TEAM NACSのメンバーで大河に出演していないのは、北海道に残ったリーダーの森崎博之を除けば戸次のみだ。

碓井:その戸次が先祖を演じることになれば話題になりますし、そこに義時の娘が嫁いでいるわけです。長澤が義時の娘であれば、父への思いも語ることのできる人物としてうってつけです。

果たして?

戸次重幸さん

(デイリー新潮 2022.01.13)