碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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無知や無関心を揺さぶる 調査報道への期待

2022年01月08日 | 「北海道新聞」連載の放送時評

 

 

碓井広義の放送時評>

無知や無関心を揺さぶる

調査報道への期待

謹賀新年の「新年」という言葉の響きが心地いい。日付が変わっただけなのに、世の中も自分も新しくなったような気にさせてくれるからだ。とはいえ、実際には前年の出来事がすべて消えてしまったわけではない。中には忘れてはならないこともある。

その意味で、昨年12月29日に放送された、NHKスペシャル「検証 コロナ予算77兆円」は刺激的な1本だった。

この番組、初めから終わりまで驚きの連続だったのだ。その最たるものが、2020年度に新型コロナウイルス感染拡大を受けて組まれた国の予算、いわゆる「コロナ予算」が77兆円だったこと。

恥ずかしながら、そこまで巨額とは知らなかった。国民1人あたり約60万円だが、そんな実感もなかった。果たして、この予算はコロナ禍に苦しむ人たちに届いていたのか。番組は検証していく。

77兆円の内訳は中小企業支援に約26兆円、特別定額給付金などの生活・雇用支援に約15兆円、医療機関支援やワクチンなど感染防止に約5兆円など。そして、その内実を分析する手がかりが、各省庁が事業目的・効果・資金の経路などを公開した「行政事業レビューシート」だ。このデータをAIが解析した。

注目は、全国の自治体に配られた「地方創生臨時交付金」の4兆5千億円だ。たとえば三重県御浜町では、投じられた約5億円でグラウンド整備専用のトラクター購入や農産物直売所のシャッター設置などが行われていた。

コロナ予算はコロナ対策だけでなく、ポストコロナ対策に使うことも可能だったからだ。国の見解、自治体の意見、住民の感想を聞く限り、互いのズレや違和感は否めない。

他にも実質的な効果が疑問視される事業が並んでいたが、最も驚いたのは、全省庁に公開が義務づけられているレビューシートが、「特別定額給付金事業」に関しては存在しないという事実だ。

これでは国民1人あたり10万円、予算13兆円という巨大事業について、正当な検証や評価は不可能になる。国がそれを嫌っているとしか思えないのだ。番組のおかげで、そんな実態を知ることができた。

また、米国で行われている「EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)」、すなわち「合理的根拠に基づく政策立案」の取り組みも興味深かった。

年末年始のテレビにあふれた、大量のお笑い番組とドラマの一挙放映。一方で、自分たちが生きる社会に対する無知や無関心を揺さぶってくれる番組もありがたい。そんな調査報道に期待したくなる年の始めだ。

(北海道新聞 2022.01.08)


「15秒のドラマ」でも輝いている、あの女優たち

2022年01月08日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

「15秒のドラマ」でも輝いている、

あの女優たち

 
 
さまざまな「ストーリー」と「キャラクター」が設定される、テレビCM。
 
中には、「15秒のドラマ」と呼びたくなる作品も少なくありません。
 
2021年に、この極小ドラマでも輝いていた女優さんたちを挙げてみました。
 
江口のりこさん
 
かつて「全国こども電話相談室」というラジオ番組がありました。前の東京オリンピックが開かれた1964年に始まり、44年も続いた長寿番組です。
 
小学生の女の子が電話で江口のりこさんに質問する、「日清もちっと生パスタ」のCMを見た時、この電話相談室を懐かしく思い出しました。
 
お餅なのか、パスタなのか。そう問われた江口さんは、「冷凍の生パスタです」と穏やかに答えます。ところが、「よく見るやつですね」と言われた途端、スイッチが入ってしまう。
 
「いいえ、全く違います! 日清食品だからたどり着いた、もちっとの中のもちっと!」などと怒涛の解説が止まらない。その生真面目かつ真剣な表情に、つい吹き出しそうになりました。
 
日曜劇場「半沢直樹」(TBS系、2020年)の国土交通省大臣も、「俺の家の話」(同、21年)の主人公の妹も、予測不能で目が離せない存在でした。
 
特に昨年は、「ソロ活女子のススメ」(テレビ東京系)や「SUPER RICH」(フジテレビ系)で、堂々の主演も務めた江口さん。
 
生パスタの魅力を説いていたのは、まさに”旬の女優”だったのです。
 
江口のりこさん(CMより)
 
 
 小池栄子さん
 
俳優の永山瑛太さんは三人兄弟の真ん中です。兄の竜弥さんは俳優で写真家。弟の絢斗さんも俳優をしています。
 
そんな瑛太さんに、姉や妹はいないのですが、小池栄子さんが実の姉だと言われても信じてしまいそうです。それくらい、サントリー「-196 ザ・まるごとレモン」のCMでの姉弟役が似合っていました。
 
瑛太さんに「姉ちゃん、最近驚いたことある?」と聞かれ、「ああ?」と気のない返事の小池さん。
 
「これ、飲んでみ」とグラスを渡され、一口飲んだ途端に衝撃を受ける。
 
「なんぞ、これ!」と絶叫する姉。思わずニンマリする弟。普段は強い姉の言いなりであろう弟が、珍しく主導権を握った貴重な瞬間です。
 
このCMに誘発され、実際に飲んでみました。ウオッカとレモンのバランスが絶妙で、小池さんの驚きも当然かも。つい「なんぞ……」と言いかけてしまう。
 
”家飲み”が日常化してずいぶん経ちました。
 
飲み過ぎに注意は必要ですが、終電を気にしなくていいだけでなく、家族とのコミュニケーションという意味でも悪くないかなと思ったりするCMでした。
 
2022年の小池さんは、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で、主人公・北条義時(小栗旬)の姉であり、頼朝の妻である北条政子を演じます。
 
永山瑛太さんと小池栄子さん(CMより)
 
 
 宮崎美子さん
 
CMの第1の舞台は1971年、銀座の歩行者天国です。デート中の女子中学生(宮崎美子さん!)の前に、日本に上陸したばかりのハンバーガー、しかもビッグマックが置かれます。
 
でも彼女は手をつけず、気まずいままデートは終わってしまいました。
 
そして、第2の舞台は半世紀後。かわいい婦人(宮崎さんの2役)が、71年当時の思い出話を孫にしています。
 
ビッグマックを食べなかったのは、「だって恥ずかしいじゃない。好きな人の前で、こんなでっかいの」。
 
しかし、じいじい(村上ショージさん)の前なら、「ぜんっぜん平気! 何でだろ?」と笑います。
 
そこで孫の少年は気づくんですね。ビッグマックがもう少し小さかったら、自分はここにいなかったのだと。
 
このCMにはいくつもの驚きがありました。
 
まず、少女を演じて違和感のない宮崎さん。大学4年生だった80年にカメラのCMでブレークした時と同じ髪型が心憎い。
 
この時のCMソング「いまの君はピカピカに光って」(作詞:糸井重里、作曲・編曲:鈴木慶一、歌:斉藤哲夫)は、今も完全に歌えます(笑)。
 
さらに、時代の再現性の高さです。銀座1号店はもちろん、街並みや行き交う人のファッションも含め、70年代の空気に満ちていました。
 
ずっと変わらず愛される場所。50周年にふさわしいメッセージです。
 
そんな宮崎さん、2021年のドラマでは日曜劇場「日本沈没-希望のひと-」(TBS系)の記者、椎名実梨(杏)の母・和子をはじめ、何人もの温かい”おかあさん”を見せてくれました。
 
宮崎美子さん(CMより)
 
 
 木村多江さん&門脇麦さん
 
女優の木村多江さんと門脇麦さん。どちらも誰もが認める名脇役です。まるで合わせ鏡のように機能して主役を輝かせ、同時に自身も輝いてみせる。
 
共通するのは演技力だけではありません。自身を客観視し、全体を俯瞰(ふかん)する力です。そのうえで、脇役への期待に応えつつ、期待以上の演技を披露してくれる。
 
そんな2人が、リクルートのシフト(勤務予定)管理サービス「Airシフト」の新作CMで共演していました。
 
残業でしょうか。木村さんが、アルバイトで働くスタッフのシフトで苦戦しています。個々の勤務希望日時を基に調整するのは、想像以上に大変な作業なのです。
 
そこに現れた門脇さん。手伝いたいけど、それは出来ない。シフトの決定は店長など限られた人が行うからです。
 
それならとばかりに、黄色いポンポンで応援する門脇さん。嬉しいような困ったような表情の木村さん。そんな2人の対比が、すこぶるおかしい。
 
助演女優は英語で「サポーティング・アクトレス」。シフト作成をサポートするCMにこれほどふさわしく、贅沢(ぜいたく)な配役はありません。
 
2021年の木村さん。テレビドラマで印象深いのが、NHKよるドラ「阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし」です。演じていた姉、江里子さんが素敵でした。
 
そして門脇さんは今年1月、フジテレビ系の月9枠「ミステリと言う勿(なか)れ」でスタートです。
 
木村多江さんと門脇麦さん(CMより)
 
 
2022年には、どんな「15秒のドラマ」が登場するのか、楽しみです。