遊心逍遙記その2

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『探偵の探偵 桐嶋颯太の鍵』   松岡圭祐   角川文庫

2023-05-31 17:58:12 | 松岡圭祐
 『探偵の探偵』は紗崎玲奈を主人公にした四部作として完結した。と、思っていたのだが、その『探偵の探偵』が復活した。スマ・リサーチで紗崎玲奈の先輩になる桐嶋颯太が主人公となって! 『探偵の探偵』では桐嶋は脇役として登場していた。今回はその桐嶋颯太が難題に取り組んでいくことになる。ハードボイルド+バイオレンスという要素を盛り込んだ探偵物になっている。本書は2022年11月に文庫書き下ろしとして刊行された。
 『探偵の探偵』シリーズの新たな始まりとなるのだろうか。

 文京区の坂宮女子大に通う19歳の曽篠璃香は、奨学金だけでは厳しいので生活資金を稼ぐために、大学の友達から紹介された「マリー・アンジュ」というガールズバーでアルバイトを始める。璃香のアルバイトは、己の生活資金だけでなく養護施設に居てそこから高校に通う妹への仕送り資金を稼ぐためでもあった。
 ガールズバーで働く璃香は徐々に店一番の売れっ子になっていく。ところがそこに、60歳過ぎと思われ、肥満体で白髪頭、ちぢれ毛、頬肉が垂れ、瞼も腫れぼったくてブルドックを連想させる顔の男が現れる。彼は漆久保宗治と名乗る。名刺には、スギナミベアリング株式会社代表取締役という肩書が記されていた。漆久保は璃香に目をつけたのだ。それから漆久保によるストーカーまがいの行動に出る。漆久保は執拗に璃香を独占しようと行動をエスカレートさせていく。漆久保にはクロという名で同様の肥満体、スキンヘッドの男が常に護衛としてつき従っていた。
 
 漆久保は璃香が店にも知らせていないことまで知っていた。璃香は不審感と恐怖をつのらせ、弁護士に相談すると、探偵を傭うことを勧められた。ところが依頼した探偵は逆にクロに暴行されて負傷する羽目に。その探偵が「探偵の探偵」を璃香に紹介した。桐嶋颯太である。
 桐嶋は璃香と日比谷公園の一隅で会う約束をする。その場所は、璃香を監視する探偵がどこかにいることを前提として桐嶋が設定した。その探偵が静音ドローンを使っていることを桐嶋は想定していた。この桐嶋と璃香の話し合いの場面描写がまず興味深い。だが、桐嶋は作戦として、璃香のスマ・リサーチ社対探偵課への依頼は不成立の終わるように仕向けた。桐嶋は璃香を監視する探偵が誰かを割り出した。だが、桐嶋が打った一手は徒となる。その後、桐嶋は漆久保に対する攻めの一手をさらに講じる。これがおもしろい。
 だが、事態は最悪となる。曽篠璃香がマンションの自宅で殺害されたのだ。さらに、桐嶋自身が反撃を受ける羽目に・・・・

 スマ・リサーチの事務所に戻った桐嶋は、須磨からいくつかの事実を知らされる。ストレッチャーで璃香が搬出されるのを桐嶋が目撃していた頃、別の場所で、男が陸橋から線路に飛び降り、直後に電車に轢かれるという事故が起こっていた。死んだのは窪蜂東生という璃香を監視していた探偵だった。また、それより少し前に、警視庁の組織犯罪対策部から、調査業者への情報収集・訪問が行われていたという事実。それは、近々5万丁の銃器の大量密輸が予測されることに絡んでいた。この件に関しては、スギナミベアリングは、警察や自衛隊向けに拳銃や機関銃を製造している業者であり、絶対的にシロであり、アドバイザーとして警察に協力する立場とみなされているという。
 このストーリー、実はここから本格的にスタートすると言える。

 依頼人の曽篠璃香は殺された。桐嶋は須磨の許可を得た上で、漆久保が璃香殺害に関わっていると確信し、漆久保が色情魔である側面を徹底的に調査する行動に出る。その手始めが、千葉県市原市にある国本射撃場、クレー射撃場の賭け競技場面である。読者にはクレー射撃のしくみが副産物として理解できるのもおもしろい。漆久保のプロフイールが少しずつ明らかになっていくところがおもしろい。
 この射撃場での行動が桐嶋の調査の手がかりづくりになる。一方で、桐嶋を窮地に追い込でいくきっかけにもなる。

 桐嶋は調査活動の途中で、曽篠璃香の妹・晶穂が単独で姉璃香の死因の究明の行動を撮り始めていることを知る。桐嶋は晶穂にコンタクトし彼女の身の危険を説くが、晶穂は聞き入れない。桐嶋と晶穂の二人は、漆久保側に辛めとられ窮地に陥っていくことに。
 さて、桐嶋どうするか? 囚われの身となった二人は、電気椅子でサディスティックな拷問を受けることに。彼らは桐嶋の狙いを吐かそうとする。この電気椅子の場面はかなり具体的な数値入りで描写されていくが、その具体性はどこまで現実的な裏付けがあるのだとうか、その点は少し気になる。
 桐嶋はこれまでに得た情報と状況分析から、心理作戦で漆久保に対抗していくしか手がない。

 漆久保の色情魔の側面以外に、べつの顔が見え始めてくる。そこからバイオレンスの要素が色濃くなっていく。
 興味深い部分は、漆久保が武田探偵社の藤敦甲磁を傭っていたことがあきらかになるところ。彼は対探偵課の手の内を熟知していて、桐嶋と藤敦は互いを良く知っている関係でもあった。桐嶋がピンチに至る一因にもなる。さて、桐嶋どう切り抜ける・・・というところ。

 いささか荒唐無稽感のあふれる展開となっていくが、ストーリーが面白くなるのは間違いがない。そこがフィクションの世界でのお楽しみといえようか。

 このストーリー、最終コーナーを回る辺りから、紗崎玲奈が独自の判断で桐嶋のピンチを助ける脇役として登場してくることに・・・・。読んでいて、残念ながら、玲奈が登場して来る伏線部分を見破れなかった。この伏線を見破れるかどうか、本書を読んでみてほしい。

 ストーリー展開のおもしろさとエンターテインメント性を楽しめる小説である。

 ご一読ありがとうございます。

 
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「遊心逍遙記」に掲載した<松岡圭祐>作品の読後印象記一覧 最終版
                    2022年末現在 53冊

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