プライドシリーズの第3弾!
今年(2025)の2月に、文庫書下ろしとして刊行された。
大石和彦・高杉隆一・本城清四郎の幼馴染3人が協力関係を密にしながら事件に取り組むというこのシリーズがここに完結した。三者三様に警官としての人生を過ごすことになる。だが、それぞれが己の本懐を遂げたと思える心境にほぼ至っただろうという余韻が残る。そこには、意外な終末も織り込まれていて、人生ままならない側面を表象している。それもありえるよな・・・・と受け入れざるを得ない。
さて、本作そのものに入ろう。
時代背景は、本文の読み方に間違いがなければ、2006年9月を起点として、2025年4月で終わる。ほぼリアルタイムの警察小説である。和彦・隆一・清四郎の活躍は小説としてフィクションであるが、その背景の時代は、リアルな情報をベースにワンクッションを置いて描きこまれていると想像する。勝手な思い込みかもしれないが、この時代背景の読み解きが私には副産物として魅力になっている。さまざまな情報が盛り込まれていて、考える材料になる。
本作第1章、2008時点における3人の職務のポジションは、
大石和彦 警察庁警備局公安課長
高杉隆一 警視庁刑事部捜査第二課管理官
本城清四郎 警視庁組対部組対三課主任 で始まり、
エンディングの段階で、彼らの最終ポジションは
大石和彦 警視庁副総監にて退職
高杉隆一 警察学校長にて退職
本城清四郎 駒込警察署長に就任 である。
この期間に彼ら3人の所属先は目まぐるしく変化していく。しかし、3人が常に緊密な情報交換をしながら、長年に及び重大な事件を究明し、解決に導いていく姿が描きこまれていく。この3人の情報交換の内容は、直ちに周囲の捜査員たちに伝えられ、捜査活動に反映していく。このプロセスを楽しみながら読み進めることができる。この3人の関わり合い方が本作を読む醍醐味である。
清四郎と和彦との会話の中で、清四郎が語る。「警察官たるものは何をするべきなのか・・・・。(中略)結構、素直な本質論に落ち着くようになったんだ」「ほう、素直な本質論か・・・・」という和彦の応答に、清四郎が言う。「ああ、『世のため人のため』だな」と。(p158)
このやり取り、この本質論を彼らは事件の究明・解決という形で実践する。それが「警官の本懐」というタイトルに結びつく。
1年あるいは数年で、彼ら3人の職位と職域はどんどん変化していく。職位を上がるたびに、職域が広がり、権限が広がる。それに伴い、入手情報の質と広がりも大きくステップアップしていく側面がある。3人の関りと情報交換とは、ますます彼らの能力を発揮させる推進力となり、事件の解決に寄与する。
本作では、著者は事件の謎解き、究明の細部のプロセスに入り込むよりも、それぞれの職位と職域の違いに関わらず、幼馴染という絆のもとに3人が協力しあい、共有する情報が事件を解明する推進力となり、効果を発揮する側面を描くことにウエイトを置いているように感じた。ひょっとしたら、そこには現実の警察組織の実態に対するシニカルな視点が潜んでいるのかも・・・・そんな裏読みすらしたくなる。それほど3人の連携プレイを楽しむことができる。
そこで、本作で扱われる事件そのものなのだが・・・・・。
2006年から2018年という期間において、次の事件が順次俎上に上がってくる。
*2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震発生に伴う関連事象への対応
具体的には、まず、都内における帰宅困難者への対応が事件発生を未然に防止するうえからも必要になる。一方で、災害地泥棒が大集結すると予測される。その対策が必要となると、大石和彦は熊田から助言される。勿論、和彦は清四郎にその情報を速やかに伝える。ここから、対策が始まって行く。
*2012年春、隆一は警視庁組織犯罪対策部、清四郎は新宿警察署課長代理に異動。和彦は静岡県警察本部に赴任。新宿での闇の勢力は複雑化していく。
*2013年春、清四郎が一つの注意報告書に目をとめる。ゼネコンがらみの事件が推測され、そこに過去の事件で垣間見えた詐欺師・遠山茂子が再び俎上に上ってくる。
*師走後半の早朝に、京都市内で拳銃使用の殺人事件が起こる。その翌日、福岡県北九州市で、漁業組合長が射殺された。裏社会が大きく動き出していた。清四郎は京都の事件には同和問題が関わっていると隆一に己の考えを連絡する。清四郎は福岡県警への応援として派遣され、現地では遊軍チームのキャップとして捜査で活躍することに・・・・。裏社会は大きく蠢いていた。捜査は大きく広がって行く。
*一旦合同捜査本部が解散となり、清四郎が新宿署に戻ると、大手芸能プロダクションの執行役員が行方不明という事件が発生していた。清四郎は事件には半グレが絡んでいると判断する。新宿のキャバ嬢たちに、半グレ、山手連合、ブラックドラゴンが入り組んで関わりを持ち、そこにシャブが絡んでいる。清四郎は中核となりこの捜査に取り組んでいく。興味深くてかつおもしろいのは、白石原というジャーナリストが清四郎に協力してこの捜査に関わって行く点である。
*清四郎は組対三課に事件担当係長として戻る。『永田町の妖怪グループ』と呼ばれ始めていた詐欺集団と、この集団に関係する国会議員の周辺の本格捜査に取り組み始める。詐欺集団のトップとみなされるのは遠山茂子である。宿年の捜査対象、遠山茂子が再び俎上に上ってくる。清四郎が渋谷警察署組対課長に異動した後に、遂に彼の執念が実る。
最後に、本書で印象に残る2箇所を引用し、ご紹介しておこう。
*ヤクザをぶっ潰すのは簡単だと思うんだが、その後どうするか・・・・まで考えないと、世の中は動かないからな。チャイニーズマフィアをぶっ潰して、半グレをぶっ潰した後、奴らをどうするのか・・・・・刑事政策だけでなく社会政策も考えておく必要があると思うんだ。 p159
*そういう文章を書くことができる人物だから、取り調べでホシを落とすことができるんだろうな。取り調べというのは人と人の戦いの場ではなく、被疑者の立場を理解しながら心の琴線に如何に柔らかく包み込むように触れるか・・・・が重要なんだよ。 p320
このストーリー、本懐とはコインの両面になる言葉として、幼馴染の絆を上げたいと思う。私はそこに読後印象として重みを感じている。
お読みいただきありがとうございます。
今年(2025)の2月に、文庫書下ろしとして刊行された。
大石和彦・高杉隆一・本城清四郎の幼馴染3人が協力関係を密にしながら事件に取り組むというこのシリーズがここに完結した。三者三様に警官としての人生を過ごすことになる。だが、それぞれが己の本懐を遂げたと思える心境にほぼ至っただろうという余韻が残る。そこには、意外な終末も織り込まれていて、人生ままならない側面を表象している。それもありえるよな・・・・と受け入れざるを得ない。
さて、本作そのものに入ろう。
時代背景は、本文の読み方に間違いがなければ、2006年9月を起点として、2025年4月で終わる。ほぼリアルタイムの警察小説である。和彦・隆一・清四郎の活躍は小説としてフィクションであるが、その背景の時代は、リアルな情報をベースにワンクッションを置いて描きこまれていると想像する。勝手な思い込みかもしれないが、この時代背景の読み解きが私には副産物として魅力になっている。さまざまな情報が盛り込まれていて、考える材料になる。
本作第1章、2008時点における3人の職務のポジションは、
大石和彦 警察庁警備局公安課長
高杉隆一 警視庁刑事部捜査第二課管理官
本城清四郎 警視庁組対部組対三課主任 で始まり、
エンディングの段階で、彼らの最終ポジションは
大石和彦 警視庁副総監にて退職
高杉隆一 警察学校長にて退職
本城清四郎 駒込警察署長に就任 である。
この期間に彼ら3人の所属先は目まぐるしく変化していく。しかし、3人が常に緊密な情報交換をしながら、長年に及び重大な事件を究明し、解決に導いていく姿が描きこまれていく。この3人の情報交換の内容は、直ちに周囲の捜査員たちに伝えられ、捜査活動に反映していく。このプロセスを楽しみながら読み進めることができる。この3人の関わり合い方が本作を読む醍醐味である。
清四郎と和彦との会話の中で、清四郎が語る。「警察官たるものは何をするべきなのか・・・・。(中略)結構、素直な本質論に落ち着くようになったんだ」「ほう、素直な本質論か・・・・」という和彦の応答に、清四郎が言う。「ああ、『世のため人のため』だな」と。(p158)
このやり取り、この本質論を彼らは事件の究明・解決という形で実践する。それが「警官の本懐」というタイトルに結びつく。
1年あるいは数年で、彼ら3人の職位と職域はどんどん変化していく。職位を上がるたびに、職域が広がり、権限が広がる。それに伴い、入手情報の質と広がりも大きくステップアップしていく側面がある。3人の関りと情報交換とは、ますます彼らの能力を発揮させる推進力となり、事件の解決に寄与する。
本作では、著者は事件の謎解き、究明の細部のプロセスに入り込むよりも、それぞれの職位と職域の違いに関わらず、幼馴染という絆のもとに3人が協力しあい、共有する情報が事件を解明する推進力となり、効果を発揮する側面を描くことにウエイトを置いているように感じた。ひょっとしたら、そこには現実の警察組織の実態に対するシニカルな視点が潜んでいるのかも・・・・そんな裏読みすらしたくなる。それほど3人の連携プレイを楽しむことができる。
そこで、本作で扱われる事件そのものなのだが・・・・・。
2006年から2018年という期間において、次の事件が順次俎上に上がってくる。
*2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震発生に伴う関連事象への対応
具体的には、まず、都内における帰宅困難者への対応が事件発生を未然に防止するうえからも必要になる。一方で、災害地泥棒が大集結すると予測される。その対策が必要となると、大石和彦は熊田から助言される。勿論、和彦は清四郎にその情報を速やかに伝える。ここから、対策が始まって行く。
*2012年春、隆一は警視庁組織犯罪対策部、清四郎は新宿警察署課長代理に異動。和彦は静岡県警察本部に赴任。新宿での闇の勢力は複雑化していく。
*2013年春、清四郎が一つの注意報告書に目をとめる。ゼネコンがらみの事件が推測され、そこに過去の事件で垣間見えた詐欺師・遠山茂子が再び俎上に上ってくる。
*師走後半の早朝に、京都市内で拳銃使用の殺人事件が起こる。その翌日、福岡県北九州市で、漁業組合長が射殺された。裏社会が大きく動き出していた。清四郎は京都の事件には同和問題が関わっていると隆一に己の考えを連絡する。清四郎は福岡県警への応援として派遣され、現地では遊軍チームのキャップとして捜査で活躍することに・・・・。裏社会は大きく蠢いていた。捜査は大きく広がって行く。
*一旦合同捜査本部が解散となり、清四郎が新宿署に戻ると、大手芸能プロダクションの執行役員が行方不明という事件が発生していた。清四郎は事件には半グレが絡んでいると判断する。新宿のキャバ嬢たちに、半グレ、山手連合、ブラックドラゴンが入り組んで関わりを持ち、そこにシャブが絡んでいる。清四郎は中核となりこの捜査に取り組んでいく。興味深くてかつおもしろいのは、白石原というジャーナリストが清四郎に協力してこの捜査に関わって行く点である。
*清四郎は組対三課に事件担当係長として戻る。『永田町の妖怪グループ』と呼ばれ始めていた詐欺集団と、この集団に関係する国会議員の周辺の本格捜査に取り組み始める。詐欺集団のトップとみなされるのは遠山茂子である。宿年の捜査対象、遠山茂子が再び俎上に上ってくる。清四郎が渋谷警察署組対課長に異動した後に、遂に彼の執念が実る。
最後に、本書で印象に残る2箇所を引用し、ご紹介しておこう。
*ヤクザをぶっ潰すのは簡単だと思うんだが、その後どうするか・・・・まで考えないと、世の中は動かないからな。チャイニーズマフィアをぶっ潰して、半グレをぶっ潰した後、奴らをどうするのか・・・・・刑事政策だけでなく社会政策も考えておく必要があると思うんだ。 p159
*そういう文章を書くことができる人物だから、取り調べでホシを落とすことができるんだろうな。取り調べというのは人と人の戦いの場ではなく、被疑者の立場を理解しながら心の琴線に如何に柔らかく包み込むように触れるか・・・・が重要なんだよ。 p320
このストーリー、本懐とはコインの両面になる言葉として、幼馴染の絆を上げたいと思う。私はそこに読後印象として重みを感じている。
お読みいただきありがとうございます。