遊心逍遙記その2

ブログ「遊心逍遙記」から心機一転して、「遊心逍遙記その2」を開設します。主に読後印象記をまとめていきます。

『人新世の「資本論」』    斎藤幸平    集英社新書

2024-09-17 17:39:53 | 科学関連
 先日、ジェレミー・リフキン著『限界費用ゼロ社会 <モノのインターネット>と共有型経済の台頭』(NHK出版)の読後印象をまとめた。その時、新聞の対談記事でジェレミー・リフキンさんを知ったことを冒頭に記した。この対談の相手が、本書の著者、斎藤幸平さんである。『人新世の「資本論」』をその記事の著者紹介で見たが、数年前に新聞の広告で幾度も取り上げられていたので、タイトルは知っていた。タイトルが気になり、いずれ読んでみよう・・・。それ故、対談記事から本書を読む動機づけを得た次第。
 本書が刊行されたのは2020年9月。読後に少し調べてみて、本書が「新書大賞2021」や「アジアベストブックアワード2021」を受賞していることを知った。

 本書の<はじめに>を読み、「人新世」を「ひとしんせい」(Anthropocene の訳語)と読むこと。さらに、ノーベル化学賞受賞者のパウル・クルッツェンが名付けた用語だと初めて知った。この用語は「人類の経済活動が地球に与えた影響があまりに大きいため、・・・地球は新たな時代に突入したと言い、・・・人間たちの活動の痕跡が、地球の表面を覆いつくした年代という意味」(p4)を持つと言う。著者はこの「人新世」の最大の特徴を挙げる。二酸化炭素は温室効果ガスの機能を担っている。だが、資本主義の発展過程で、人類が石炭や石油などの化石燃料を大量に使用し、膨大な二酸化炭素を排出しつづけてきた。地球環境の平均気温を上昇させ、気候変動を引き起こし、人類の存続の危機を引き起こしている。この二酸化炭素の排出量の累積増大による気温の上昇と気候変動の激化による人類存続の危機を、著者は「人新世」という一語でシンボライズしていると理解した。
 <第一章 気候変動と帝国的生活様式>では、資本主義の現状を分析する。
 この「人新世」を生み出したのは、科学技術の発展を手段として取り込んだ「資本主義」にあるとする。資本主義は、時代の進展につれ経済思想の視点を変えてきているが、あくなき利益追求、無限の価値増殖を目指すという根幹は微動ともしていない。一方、地球は有限である。ここに、矛盾が発生し、危機の本質が内在している。資本主義システムこそが、地球環境の危機をここまで深刻化させた原因であり、人新世における危機の到来は、資本主義システムでは解決できないと著者は説く。
 帝国的生活様式と環境負荷の外部化という用語は、資本主義経済社会に住む我々にとっては、耳の痛い言葉である。

 著者は<第二章>において、「グリーン・ニューディール」という政策プランを俎上にのせ、その欠陥を論じていく。章見出しは<気候ケインズ主義の限界>。詳しい説明はないが、20世紀の大恐慌の際のニューディール政策の再来をという願望であることから、ケインズという経済学者の名前がここに冠されているのだろう。「アメリカではトーマス・フリードマンやジェレミー・リフキンといった識者たちが提唱し」(p59)と記す。冒頭で記したリフキンは気候ケインズ主義者の一人として名指しで取り上げられている。

 著者は「緑の経済成長」は現実逃避の域を出ないと断言し、「脱成長」という選択肢を<第三章 資本主義システムでの脱成長を撃つ>で論じていく。
 政治経済学者ケイト・ラワースの議論の出発点となる「ドーナツ経済」の概念図を手掛かりにして、公正な資源配分が、資本主義のもとで恒常的にできるかどうかを追究していく。著者は、「気候ファシズム」「野蛮状態」「気候毛沢東主義」「X」という未来への選択肢をフレームワークとして設定し、論じている。選択肢はわかりやすく類型化されている。これらの選択肢の説明のキーポイントに触れておこう。
 気候ファシズム:現状維持を願望。資本主義と経済成長に固執
 野蛮状態:超富裕層1%と残り99%との対立。大衆の反逆による勝利。世界は混沌に回帰
 気候毛沢東主義:中央集権的な独裁国家の出現。トップダウン型の気候変動対策
 X:強い国家に依存しない。民主主義的な相互扶助と自発的行動。持続可能性の追求
この提示説明から、著者の提言は「経済成長に依存しない経済システム、脱成長が有力な選択肢となるのだ」(p116)当然ながら、様々な反論に対して、著者は個別に己の考え方を説明していく。読者にとっては、一種のディベートを傍聴する様相となり、頭の整理にもなっていく。

 <第四章 「人新世」のマルクス>では、著者の研究成果の本領が発揮される。
 カール・マルクス著『資本論』は有名である。内容を知らなくても、その名称とソ連や中国等の社会主義革命の根幹にマルクスの思想、マルクス主義があることはよく知られている。だけれど・・・である。『資本論』の第1巻はマルクスが著述した。だが第2・3巻は、マルクスの没後に、盟友エンゲルスが遺稿を編集し出版したものに過ぎないという。この点、私自身は知らなかった!お粗末! 『共産党宣言』(1848年)はマルクスとエンゲルスの共著である。
 著者は今まで人々があまり関心を抱かなかったマルクスの膨大な「研究ノート」や草稿、マルクスの書いた新聞記事、手紙などという貴重な一次資料に着目して研究を重ねてきたという。『資本論』第1巻(1868年)を刊行した以降のマルクスの思想の進展と変化をここで論じていく。
 第1巻を刊行するまでの若きマルクスは生産力至上主義者であり、ヨーロッパ中心主義の立場で、進歩史観を抱いていたと分析する。だが、第1巻刊行以後、研究分野を広げ、深めて行く過程で、マルクスの考え方は大きく変化していったと著者はいう。マルクスが、エコロジー研究と共同体研究に力を注いだ点を著者は重視している。
 マルクスは、持続可能な経済発展をめざす「エコ社会主義」の考えを経て、晩年には「無限の成長ではなく、大地=地球を<コモンズ>として持続可能に管理すること」(p190)へと考え方を推し進めたと、新しい解釈を提示している。「ザスーリチ宛の手紙」の読み解き方を軸に論じていく。
 この章、マルクスの考えを知るうえで、実にエキサイティングである。
 かつて、ソ連や中国がめざしたもの、今もそうかもしれないが、その根幹のマルクス主義は、最終的なマルクスの考えとは異なるものを追求したことになる。おもしろく、かつ興味深い。
 著者は、「経済成長しない共同体社会の安定性が、持続可能で、平等な人間と自然の物質代謝を組織していた」(p193)という認識にマルクスが至ったと分析する。「定常型経済に依拠した持続可能性と平等が、資本への抵抗となり、将来社会の基礎になるとマルクスは結論づけたのだ」(p195)
 「西欧資本主義を真に乗り越えるプロジェクトとして、『脱成長コミュニズム』を構想する地点まで、マルクスは到達していたのだ」(p199)と著者は説く。
 マルクスが何を考えていたのか。その考えをとらえ直す上で、重要な資料となる章だと思う。

 「拡張を続ける経済活動が地球環境を破壊しつくそうとしている今、私たち自身の手で資本主義を止めなければ、人類の歴史が終わりを迎える」(p206)という切実な認識のもとで、著者が提示する選択肢「X」が明らかになる。それは「脱成長コミュニズム」である。
 <第五章 加速主義という現実逃避>、<第六章 欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム>、<第七章 脱成長コミュニズムが世界を救う>、<第八章 気候正義という「梃子」>という一連の章は、著者の提唱する選択肢について、理解を促すために論じられている。著者の論理の展開は本書をお読み願いたい。
 ここではいくつかの命題的な記述箇所を引用し、ご紹介するにとどめたい。
*生産者たちが、自然との物質代謝を「合理的に規制」することを、マルクスはあくまでも、求めていたのである。  p226
*「本源的蓄積」とは、資本が<コモン>の潤沢さを解体し、人工的希少性を増大させていく過程のことを指す。つまり、資本主義はその発端から現在に至るまで、人々の生活をより貧しくすることによって成長してきたのである、 p237
   ⇒<コモン>とは、社会的に人々に共有され、管理されるべき富のこと。 p141
<コモン>は、水や電力、住居、医療、教育といったものを公共財として、
    自分たちで民主主義的に管理することを目指す。p141
*潤沢さを回復するための方法が、<コモン>の再建である。
 資本主義を乗り越えて、「ラディカルな潤沢さ」を21世紀に実現するのは<コモン>な
 のだ。・・・<コモン>のポイントは、人々が生産手段を自律的・水平的に共同管理す
 るという点である。

 資本主義の問題点指摘、マルクスの考え方への新解釈、人新世の時代への選択肢に「脱成長コミュニズム」を提唱、と知的刺激に溢れている。

 <コモン>についての説明は部分的に各所で記述されている。だが、<コモン>を中核にした「脱成長コミュニズム」という選択肢の実現が、資本主義システムからの転換としてどのような筋道が描けるのか、どのようにして転換が可能なのか、具体的な管理はどのようになるのか、これらのイメージが私には具体的に湧いてこなかった。この点が残念。私の読解力不足なのかもしれないが・・・。
 もう一点、冒頭で記したジェレミー・リフキンさんは、第三次産業革命という視点で論じていき、本書で言う「人新世」の危機的課題について、「コモンズ」という事象に着目し論じている。彼は、「コモンズ」を共有型経済と述べ、協働主義者がコモンズを推進している各種事例を論じている。現象的には両著者が同じ側面のことに着目していると感じるのだが、両著者の概念の違いについて、頭の整理ができずにいる。課題を残した。

 いずれにしても、本書は問題提起の書として、一読の価値があると思う。

 ご一読ありがとうございます。


補遺
人新世(アントロポセン)とは・意味  :「IDEAS FOR GOOD」
[3分解説] 「人新世」とは?その意味をわかりやすく :「SPORT2 スポーツを社会のために」 
「人新世の科学的根拠とその否認について」の解説文公開について: 「日本第四紀学会」
「人新世」地質時代提案の否決   :「JIRCAS 国際農林水産産業研究センター」
カール・マルクス  :ウィキペディア
資本論       :ウィキペディア
Marx-Engels-Gesamtausgabe  略称MEGA  :ウィキペディア
フリードリヒ・エンゲルス  :ウィキペディア
人新世の「資本論」 :「東京大学教員の著者自らが語る広場 UTtokyo BiblioPlaza」
「人新世の『資本論』」著者に聞く ~経済成長主義がもたらす未来、持続可能な社会へのヒント     :「business leaders aquare wisdom  NEC」

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『限界費用ゼロ社会 <モノのインターネット>と共有型経済の台頭』 ジェレミー・リフキン NHK出版

2024-09-11 15:57:39 | 科学関連
 新聞の対談記事を読み、著者を知り本書を知った。「限界費用ゼロ社会」という言葉が大昔に学んだ限界費用という用語を思い出させ、その連想が本書を読む動機づけになった。本書は2015(平成27)年10月に翻訳書が刊行されている。

 原題は、"THE ZERO MARGINAL COST SOCIETY THE INTERNET OF THINGS AND THE RISE OF THE SHARING ECONOMY" 。翻訳書のタイトルは原題そのものである。
 そして、このタイトルが21世紀以降の社会・経済の姿について、著者の仮設を的確に示す表現になっている。
 第1章「市場資本主義から協働型コモンズへの一大パラダイムシフト」は、著者の仮説の要約であり、著者の主張のまとめである。主張点の提示であるので、表現の抽象度が少し高まり、読みづらさを感じたが、結論を最初に要約し提示していることによる。その後で己の仮説を論証していく形の構成になっている。本文に入ると、具体的事例が次々に緻密に列挙されて論じられていくので、読みやすくなる。事例が多すぎて、若干辟易とする側面もあるが・・・。逆に実例による論証という説得力が高まる。
 本文は五部構成である。
   第Ⅰ部 資本主義の語られざる歴史
   第Ⅱ部 限界費用がほぼゼロの社会
   第Ⅲ部 協働型コモンズの台頭
   第Ⅳ部 社会関係資本と共有型経済
   第Ⅴ部 潤沢さの経済

 著者は、19世紀初期に資本主義と社会主義が出現して以来、新たに登場してきた経済体制が共有型経済だと論ずる。協働型(コラボレーティブ)コモンズという形で展開される共有型経済だという仮説を本書で緻密に論証していく。
 「資本主義はその核心に矛盾を抱えている。資本主義を絶頂へと果てしなく押し上げてきた、ほかならぬその仕組みが、今やこの体制を破滅へと急激に押しやっているのだ」(P11)と観察・分析し、資本主義の凋落の中から共有型経済が今、台頭してきているという。
 
 著者はその論証を産業革命の段階的変遷として捉え、社会・経済体制の変化を歴史の時間軸に沿って論じていく。論じるにあたり、著者は、コミュニケーション/エネルギー/輸送という3つの観点をマトリックスの相互関係にある必須のフレームワークとして論じていく。この視点は、私には新鮮であり、実にわかりやすかった。産業革命の段階的発展を著者は具体的に論じている。その論証で使われるキーワード、キーフレーズを、荒っぽく次のようにまとめてみた。
 原初的産業革命 16世紀後期 水車・風車の利用 小規模製造業者 
         資本に対する生産の従属の始まり。資本家と賃金労働者の発生。

 第1次産業革命 19世紀後半 石炭を燃料とする蒸気機関 鉄道の利用と時間短縮 
         高速で安価な印刷と識字能力向上のための公立学校制度・義務教育
         株式会社というビジネスモデルの発展 投資と経営の分離
         垂直統合型の大企業の出現、
         中央集中化されたトップダウンの指揮・統制メカニズム

 第2次産業革命 19世紀末~20世紀初期 石油の発見と内燃機関の発明 電気が動力
         電話の発明 自動車の登場と道路網の整備・拡大
         垂直統合型の巨大企業中心。企業ピラミッドの形成
           →サプライチェーンと生産過程と流通経路の集中管理

 これらの産業革命段階を経て、社会・経済の在り方が変貌を遂げてきた。そのうえで、著者は現在、第3次産業革命が進行していると、論理を展開していく。
 著者は、インターネット技術の驚異的な発展を踏まえて、第3次産業革命を本書で論証している。ⅠoT(モノのインターネット)を史上初のスマートインフラ革命ととらえ、「あらゆる機械、企業、住宅、乗り物がつながれ、単一の稼働システムに組み込まれたコミュニケーション・インターネット、エネルギー・インターネット、輸送インターネットから成るインテリジェント・ネットワークを形成する」(p112)と予測する。
 著者は、無料のエネルギーである再生可能エネルギーが発展し、需要電力を満たし、デジタル・スマートメーターで個々人が電力使用についてリアルタイムで情報を得られる状況を語る。3Dプリンティングの普及が、モノのインターネットを介して、消費者が自らの製品を製造する生産消費者(プロシューマー)に変わりつつある側面を論じる。3Dプリンターが低コストで生産されるに至れば、効率と生産性の面で断然有利という。自動車については、所有するという価値観から、自動車へのアクセスを重視し、自動車をインターネットを介して、仲間となる人々とシェアする形が拡大している側面を例証していく。
 数多くの実例を挙げながらの近未来予測は、現代の社会・経済の捉え方に一石を投じている。今まで断片的に見聞してきた事象が、壮大な仮説にまとめあげられていくプロセスは、エキサイティングですらある。

 「人間の活動をすべて、インテリジェントなグローバル・ネットワークでつなぐことにより、私たちはまったく新しい経済体制を生み出そうとしている」(p344)と予測する。金融資本よりも社会関係資本が必要とされ、分散型・協働型でネットワークした形態、水平方向に活動が展開され、コモンズ方式の管理、つまり共有されて共同管理されている方式が最もうまく機能する経済体制だと説く。
 この新しい経済体制について、「慎重に見守る必要はあるが、限界費用がほぼゼロの社会は、21世紀なかばまでに、希少性の経済から持続可能な潤沢さの経済へと人類を導くことができるのではないか、と私は期待している」(p461)と述べている。

 経済社会は、狩猟採集社会から始まり、灌漑農業社会、原初・第一次・第二次の産業革命という形で経済のパラダイムが変化してきたが、それに伴い人間の意識も転換してきたと著者は分析する。その意識は、神話的意識、神学的意識、イデオロギー的意識と転換し、今や心理的意識が加わってきたとする。勿論、それぞれの意識はそれぞれの文化ごとに、それぞれの人の心の中に特有の異なる比率で併存するとみる。新しい経済体制の中では、心理的意識が重視される方向に向かっていて、共感の拡大が共有型経済と不可分の関係にあると論じている。
 協働型の利益追求の魅力は、持続可能な生活の質という新たな夢を共有し活動するという共感にある。

 著者はミレニアル世代に着目し、調査データを踏まえて次のように記す。
「若い世代は世界中で、自転車や自動車、住まい、衣服をはじめとする無数の品をシェアし、所有よりもアクセスを選ぶようになっている。デザイナーブランドを避け、ノーブランドや理念を重視するブランドを好み、モノの交換価値やステイタスよりも、使用価値にはるかに大きな関心を向けるミレニアル世代が増えている。協働型のプロシューマーから成る共有型経済は、まさにその本質上、より共感性が高く、物質志向が弱いのだ」と。(p419)

 コモンズの歴史と概念、管理について、本書は詳細に論じている。「第10章 コモンズの喜劇」という一章が設けられている。コモンズには、7つの不可欠と思われる「設計原理」が見い出されたという点も述べられている。本書をお読みいただきたい。

 共有型経済を推進する協働主義者の文化の根底には、「あらゆるものの大衆化」というテーマがあると著者は語る。

 「アメリカでもヨーロッパでも、第1次・第2次産業革命のどちらのときも、インフラは初期の整備に30年、成熟にさらに20年を要している」(p462)という。ワールドワイドウェブが実用化したのは1990年。著者は2014年のは早くも成熟してきているとみている。つまり、今、私たちは第3次産業革命の最中にいるということだ。
 本書には、「特別章 岐路に立つ日本」という章が末尾に設けられている。そこには、第3次産業革命について、ドイツと日本のスタンスの違いが対比的に分析されている。この分析もまた、一読の価値がある。現在の日本の問題点が指摘されているのだから。「岐路に立つ」という意味を実感する。日本、危うしである。

 ご一読ありがとうございます。
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『SEEING SCIENCE 科学の可視化の世界』 ジャック・チャロナー  東京書籍

2024-05-24 14:00:00 | 科学関連
 210mm×257mm という寸法のAB判の大きさの本。一言で言えば、科学に関わり普通では見えないものを見える形にした写真集である。2023年7月に翻訳書が刊行された。
 タイトルに惹かれた。ちょっとお高い本なので、図書館で借りて読んだ。

 「はじめに」はまず「眼で見ることの重要性」について語る。
 レオナルド・ダ・ヴィンチの言葉を引用することから始め、その次に1911年に『ニューヨーク・イヴニング・ジャーナル』紙の編集者アーサー・ブリスベンが広告主の集まりで告げたという言葉を引用する。「写真を使いましょう。写真は千の言葉に値します」。これは「科学でも力を発揮する」と著者は言う。そして、「本書では、160以上の例を挙げながら、科学におけるイメージ(画像)の重要性と利用法について探っていく」(p8)と述べている。その通りの本!ほぼ全ページに画像が掲載され、それも、私たちが今までに見ることがなかった画像ばかりである。本書ではこれらのイメージ(画像)は科学の知識を売り込むため、人々を科学に導くためのトリガーとして使われている。

 本書は、次の4章構成にまとめられている。
  1 「見えない」を「見える」に変える
  2 データ・情報・知識
  3 数理モデルとシュミュレーション
  4 科学にけるアート

< 1 「見えない」を「見える」に変える >
 人間の目には限界があり、視力にも限界がある。最初にこの点を明確にする。目の限界は、波長、感度、分解能の3つの限界。視力に限界があるのは誰もが体験から知る通り。それを乗り越える道具・装置などが次々に発明された。ます顕微鏡と望遠鏡。ここでは、顕微鏡を使ってスケッチを描いた科学者の事例から始める。電子顕微鏡、連続写真、高速写真、ハップル宇宙望遠鏡や太陽望遠鏡その他様々な装置を使って撮られた写真が続いていく。本書では、まさに普段「見えない」ものが「見える」写真として、可視化されて提示され、説明が加えられていく。それは科学の成果と知識への誘いである。
 報道などでの見聞を踏まえて、比較的イメージしやすいかもしれない写真事例を本書から取り上げてみよう。連想されたイメージとの差異を本書でご確認いただくのも一興だろう。「リンゴを貫通する弾丸の高速写真」「新型コロナウィルスSARS-CoV-2の疑似カラーSEM」(2021年)「太陽の高解像度画像」(2017年)「ペルーのミイイラをコンピューター断層撮影(CT)した疑似カラーイメージ」(2011年)が掲載例である。

 宇宙からやってくる塵についての写真が掲載されていて、隕石と流星塵についての解説文が載っている。こんな一節がある。「毎日10トンから数百トンもの宇宙塵が大気に突入しているが、その多くは非常に小さいので、空中に留まり、陸からの風で舞い上げられた砂や土と混ざり合っている。そのため、宇宙塵は航空機で採集することが可能で、高空で採集すれば、地上からの粒子が混ざることが少ない」(p47)そうだ。私はこんなこと初めて知った。今まで考えたことがない領域の一例である。
 本書は、私を異世界に誘ってくれた。

< 2 データ・情報・知識 >
 冒頭はこんな文から始まる。
”英語の「science(科学)」という言葉は、ラテン語の「scientia(知識)」に由来する。つまり、私たちの生きるこの世界についての知識を探求することが科学だ。”(p81)
 科学は「データ・情報・知識・知恵」(DIKW)ピラミッドと称される階層を成していると述べ、データを可視化する意味、その重要性を事例を通して明らかにしていく。この章も私には初見のイメージ(画像)ばかり!
 事例をピックアップする。「太陽、月、惑星の動きを示す図」(10世紀か11世紀の作)「史上初の海盆の断面図」(1854年)「過去1000年間の地球の気温を示すグラフ」(1999年)「ヒトの脳のトラクトグラム」(2006年)「アメリカの麻疹患者数を表したストリームグラフ」(2022年)「地球の海洋地殻の年代を示す地図」(2008年)「ヘルツシュプルング=ラッセル図」(1910年頃)「簡略化した生物進化の系統樹」(2017年)など多領域に及ぶ。
 この章で著者は次の点を指摘している。「」は引用である。
*「科学分野のデータには、例えば、距離、速度、電荷、時間を計測したもの、動物の行動、星の色を観察したものなど、さまざまな種類がある。そうしたデータの重要な用途の1つが、標準指標(モノサシ)の作成だ。」 p82
 「現代の科学的方法のルーツは16世紀にあり、同じく台頭する経験主義哲学とともに発達してきた。経験主義とは、すべての知識はこの世界での経験に由来する、アポステリオリ(「より後なるものから」)だとする考え方である」 p82
*データベースの構築と、よく使われる直交座標系の方法や様々な方法によるデータの可視化が、仮説を生み、体系的な検証を可能にした。コンピュータがビッグデータの蓄積、分析、マイニング(発掘)の上からもますます重要性を増している。 p84,p102
*「情報は一般的に文脈や意味をもつデータと定義される。・・・・・情報の可視化は、データの可視化とは違って、見る人になんらかの影響を与える意図があるか、ほかの科学者が参考資料として利用することを目的としていることが多い」 p116

< 3 数理モデルとシュミレーション >
 代数方程式を使えば、現実世界の現象を「モデル化」することができ、この数理モデルにより、現実世界の系をシミュレーションできる。この章では、コンピュータ・シュミレーションの結果を可視化したイメージを様々な領域から事例として抽出し提示する。
 例えば、次の可視化イメージが印象的である。「H1N1ウィルスの分子動力学モデル」(2015年)「DNAに影響を与えるイオンのシミュレーション画像」(2013年)「腫瘍のシミュレーション画像」(2017年)「小惑星衝突のシミュレーション」(2017年)「南極氷床の流動シュミレーション」(2020年)「銀河の衝突:実際のものとシミュレーション」(2015年)「暗黒物質の密度分布のシミュレーション」(2020年)「超音速飛行による衝撃波のシミュレーション」(2020年)「パーペチュアル・オーシャン(永遠の海)」(2011年)

 仮説を検証する方法として、シミュレーションという新たな方法が重要な役割を担っているのだろうなということを具体的科学的にはわからなくても感じ取れるセクションである。

< 4 科学におけるアート >
 科学の可視化がアートの想像力、創作力に影響を与え、またアートと科学が融合して作品が生まれている。そんなフェーズを取り上げている。
 この章で印象的なイメージを幾つか抽出してみよう。「ヤママユガとナガバディコ」(1705年)「海底を描いた絵画」(1977年頃)「神経断面の水彩画」(2020年)「レンチキュラー印刷『Heartbeat(鼓動)1.1』」(2010年)「偏向フィルターを用いたデジタル写真『Life Tales(生命の物語)』」(2014年)「T4バクテリオファージ」(2011年)「ケツァルコアトルス・ノルトロビの復元図」(2016年)「アウストラロピテクス・セディバの3次元復元模型」(制作年不明)「オウムアムアの想像図」(2017年)「天の川銀河の想像図」(2013年)

 実にさまざまな可視化画像を満載する。「見えないもの」を「見える」に変えた結果の集成がこの一冊。イメージ(画像)に添えられた解説文の字面を通読したが、その文意を十分に理解できたとは思えない。何となく意味を感じ取ってイメージ(画像)を眺め、読み進めたにしかすぎない。しかし、可視化の重要性はなるほどと思う。難しい理論、理屈よりも、イメージ(画像)から科学の世界への関心を深める入口となる一書である。
 何よりもイメージ(画像)に好奇心を喚起された。まず楽しめる。

 ご一読ありがとうございます。

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『天気のことわざは本当に当たるのか考えてみた』  猪熊隆之  ベレ出版

2023-12-20 15:06:12 | 科学関連
 地元の図書館の本紹介コーナーで本書が目に止まった。観天望気で言われることの一つ「朝焼けは雨、夕焼けは晴れ」ということわざが頭の隅にあったので、手に取ると、載っている。なんと、「はじめに」の次に、「本書の使い方」の説明事例としてまず載っていた。勿論、本文に載っている。これはタイムリー! そこで早速読んでみることに。
 本書は2023年7月に単行本が刊行されている。

 著者紹介をまず読むと、「1970年生まれ。全国330山の天気予報サイトを運営する、国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテンの代表取締役。山岳気象予報士。テレビ番組の撮影協力、講演や講習会の講師としても活躍している。また、全国各地の山で、空を見ることの楽しさ、安全登山のための雲の見方などを伝える活動も精力的に行っている」とある。

 本文は構成が統一されていて、まず読みやすい。まず<ことわざ>が見だしとなっている。著者の実体験と気象学の知識を背景に<解説>が続く。天気予報報道をテレビで観ているくらいで、天気図の正確な読み方も知らない私のような読者にわかりやすくて読みやすい。解説には、ことわざに関係する風景や山岳写真、わかりやすい絵解きのイラストなどが併載されている。そして、著者の経験とデータを踏まえ、このことわざがどのていどの<確率>で当たっているかを★マークで5段階評価している。最後に簡潔な<まとめ>と参考情報源が付記される。一つのことわざは、2~5ページで完結する。3,4ページの解説が主体。楽しみながら気軽にどこからでも読めるというところがよい。

 本書全体の構成は、以下の章立てになっている。
 1章 生きもののことわざ   <カエルが鳴くと雨> から始まり、10項目
 2章 空のことわざ      <朝焼けは雨、夕焼けは晴れ> から始まり、10項目
 3章 昔から伝えられてきたことわざ <暑さ寒さも彼岸まで> から始まり、5項目
 4章 地域特有のことわざ   <渡り鳥早き年は雪多し> から始まり、10項目
 5章 山に関することわざ   <硫黄の匂いがすると雨> から始まり、3項目
 6章 海に関することわざ   <朝の雷、船乗り警戒> から始まり、5項目
 7章 著者オリジナルのことわざ 
     <からっ風が吹くと、山向こうは雪> を筆頭に5つのことわざを生成

 各章の後に、コラムが併載されている。何となく知っているようで、説明せよと言われれば適切な説明に戸惑う基礎的な事項が絵入、写真入りで初心者にわかりやすく解説されていて、楽しめた。コラムの標題を列挙してご紹介しておこう。

 <雲は何で落ちてこないの?> <気圧って何?> <風はどうして吹くの?>
 <海陸風って何?> <山谷風って何?> <前線って何?> 
 <日本でもっとも雪が深いところは?>

 びっくりするとともに楽しかったのを一つあげると、富士山にかかる笠雲が、河口湖測候所の年報資料をもとに、絵入りで20種類に識別されていることを取り上げている点である。
「れんず笠、にかい笠、われ笠、はなれ笠、えんとう笠、はふ笠、ひさし笠、まえかけ笠、なみ笠、ひとつ笠、うず笠、ふきだし笠、よこすじ笠、おひき笠、すえひろ笠、みだれ笠、かいまき笠、とさか笠、うねり笠、つみ笠」
実に、おもしろい! これも、地道な長年の観測データの集積から生まれている、天候を判断するための分類なのだろう。

 本書を読んだ感想の一つは、天気のことわざが想像以上に沢山伝承されていることと、地域限定で伝承されていることわざも多いということである。科学的な気象学、天文学がなかった時代から、人々は、生活のため、サバイバルのために、幾世代にも渡る経験をことわざという経験則にして伝承し、生活行動の指針にしてきたのだな・・・という思いを深めた。
 その一方、地球温暖化などの影響でことわざが当てはまらない気象状況が生み出されてきている側面について解説されている。なるほどと思い実感するところもある。
 もう一つ、子供の頃と比べ、都市化の影響で、今では身近に経験すらできなくなったことわざもあるな・・・という感慨をいだくことにもなった。特に生き物たちにかかわることわざである。

 本書には、ことわざを媒介にして、天気のこと、気象と山のことについて、その基本を楽しみながら学べる点がメリットである。

 地域限定のことわざなどには触れず、1~3章に限定して、著者が取り上げたことわざと、現在時点での著者の5段階評価を列挙してご紹介する。なぜ、そういう評価になるのかは、本書の解説をお読みいただきたい。
 貴方の経験評価と著者の評価を比較してみるのも、本書への誘いになるかもしれない。(評価5が最大の確率。ここでは数字で記載する)

1章 1 カエルが鳴くと雨                   2
   2 ツバメが低く飛ぶと雨                 3
   3 猫が顔を洗うと雨                   1
   4 大根の根が長い年は寒い                1
   5 カマキリが高いところに卵を産みつけるとその冬は大雪  1
   6 クモが巣を張れば雨は降らない             1
   7 アリの行列を見たら雨                 1
   8 ミミズが地上にでてきたら雨              1
   9 モズの高鳴き75日              2(広島より西の地方は3)
   10 桜の花が下向きに咲くときは春大雪あり         1

2章 1 朝焼けは雨、夕焼けは晴れ               3
   2 風の弱い星夜は冷える                 5
   3 太陽や月が暈をかぶると雨               3
   4 飛行機雲が消えないときは天気が下り坂         3
   5 朝虹は雨、夕虹は晴れ                 4
   6 雷が鳴れば梅雨が明ける                3
   7 朝霧は晴れ                      3
   8 星が瞬くと雨                     3
   9 鯖雲は雨                       3
   10 早朝から暖かい日は雨                 4

3章 1 暑さ寒さも彼岸まで     3(関東から西の地方)~4(北日本、北陸地方、長野県)
   2 雷三日                        3
   3 高山に早く雪ある年は大雪(寒冬)なし     1(30年前までは3)
   4 櫛が通りにくいときは雨                3
   5 梅雨明け十日                 3(1980年代までは4)

 ことわざを入口にして、天気のこと・気象について、楽しみながら学ぶというのも、おもしろいアプローチである。

 ご一読ありがとうございます。

補遺
ヤマテン 山の天気予報  ホームページ
天気のことわざ - 天気俚諺・観天望気 :「暮らしの中の気象」
天気のことわざいちらん   :「知識の泉」
富士山の雲と天候の関係   :「国土交通省中部地方整備局」
富士山に笠雲 天気下り坂のサイン  :「テレ朝 news」
朝焼け・夕焼け  :「au天気」
燃えるような朝焼けは天気下り坂のサイン :「ウェザーニュース」
   昼頃には九州から雨降り出す

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『カラスは飼えるか』  松原 始   新潮社

2023-09-29 21:28:34 | 科学関連
 今はSNSで交流することが主になった友人がブログでこの本のことを最近記していた。植物図鑑や多少の新書本などを除くと、生物の領域の本とはほぼ無縁だった。タイトルがおもしろいこともあり、本書を読む動機づけになった。
 第5章中の見出し「カラスは飼えるか」の節の冒頭で、カラスの研究者である著者は「基本、飼えない。以上」(p194)と記す。その節の末尾では「だから、うっかりカラスを飼ってはいけないのである」(p201)と結ぶ。この8ページの節中に、きっちり理由が説明されている。ナルホド!である。
 本書は、2020年3月に単行本が刊行された。単行本と同じ表紙で2023年3月に文庫化されている。

 読了してから、少しインターネットで検索してみたら、結構カラス情報もインターネットに溢れていることを知った。カラスの飼育関連情報もかなりあるものだ。インターネットってやはりおもしろい。勿論、情報のフィルタリング、選択は必要だけれど・・・・・。いくつか、補遺として抽出情報を列挙してみた。

 カラスに興味を持つ人には、本書の末尾の10ページにわたる「付録-カラス情報」が有益だろう。◎カラスが見られる場所と◎カラス本が列挙されている。
 前者には、カラスのねぐらの一例、カラスの「聖地」、日本のカラスゆかりの神社、各種のカラスの見られる場所(日本とアジア)に触れている。
 後者には、< 1 実用書(でもないか)篇、2 物語篇、3 専門誌もあるのだった、4 映画にも結構登場するのであった、5 歌詞にカラスが登場する歌はこちら > と、各々について列挙されている。カラスも奥が深い・・・・と思った次第。

 とはいえ、この本、カラスに特化した本ではない。「はじめに」に代えて「脳内がカラスなもので」という見出しでの冒頭文も著者がおことわりとして「本書の内容は鳥類を主とする生き物について」(p3)なのだ記す。カラスを主軸にして幅広く語ったエッセイ集である。軽い語り口調で体験談を広く織り交ぜたエッセイだった、鳥類についての本は初めてだったが、けっこう楽しみながら読み進めることができた。肩の凝らない読み物に仕上がっている。だが、研究者視点での裏付けはきっちり押さえられている。その道の研究者たちのエピソードにも触れられていておもしろい。

 本書の内容は、最初、ウエブ「考える人」に24回の連載として発表されたそうだ。その時のタイトルは『カラスの悪だくみ』だったとか。これもいわば、反語的タイトルづけだ。「私のスタンスは『カラスは悪だくみなんかしねえよ』であった」(p202)と本書に著者は本心を書いている。

 本書の構成をご紹介しておこう。ちょっと付記する。
 1章 フィールド武者修行   著者の武者修行は屋久島でのサル調査だとか
 2章 カラスは食えるか    ニワトリとカラスを対比。カラス:食えるがまずい
 3章 人気の鳥の取扱説明書  カラス、ワシ、ハヤブサ、タカ、インコ、オウム、アオサギ、ハチドリ等々
 4章 そこにいる鳥、いない鳥 カササギ、恐竜、ドードー、ウミツバメ等が登場
 5章 やっぱりカラスでしょ! 

 カラス以外にもいろんな鳥が登場する。著者の体験談(失敗談を含む)や様々な事例が紹介されていて楽しく読み進めることができる。なかば雑学書でもある。そこがおもしろい。

 著者は子供の頃に「カラスって面白い」と思ったという。大学時代にカラスにハマり、「とうとうカラスで学位を取得したが、残念ながらカラスでは食えない。というかカラスでなくても、動物行動学は食えない」(p210)と記す。「普段は(付記:東京大学総合研究)博物館に勤め、その傍でカラスの観察、という生活を送っている」(p210)そうである。だが、子供の頃の興味を、そのまま仕事で実現しているのはある意味で羨ましいと思う。

 本書でカラスの生態の一部は理解できた。
 カラスについて、本書で学んだ事項の一部だが、要点を覚書にしておきたい。
*世界にカラスは約40種。日本には7種が記録されている。
*普通に「カラス」と呼んでいるのは2種:ハシボソガラスとハシブトガラス
*雑食性。自然界の掃除屋(スカベンジャー)。死骸を食べる。人間の食べ残しはごちそ
 うの山。嫌いなのは野菜。特に生野菜。キュウリは食べるとか。
*カラスは好みのものだけ漁り、食いたくないものをポイッと投げ捨てるだけ。
 カラス自身に「散らかす」意図があるわけではない。
*カラスは注視されるのが好きではない。カラスは弱気な鳥。子供を守るのには必死。
*正面攻撃はしない。後から頭を蹴飛ばす程度の反撃をすることはある。
*カラスは繁殖のために、その都度樹上の高い所に巣作りをする。3月~4月。
 直径50cmくらいの巣を作る。巣は卵と雛だけのためのもの。巣は使い捨て。
 卵を抱くのに20日。雛が巣立つまでに30日少々。合計2ヶ月弱。
*カラスは晩成性のタイプ。最初雛に羽はない。雛は目が青い。
*生態系の中で、カラスは種子散布の役割を果たしている。糞と一緒に種子を落とす。
*カラスは「見えたものが全て」という現実的な態度を貫く。
*烏の黒色は羽毛に含まれるメラニン顆粒。その艶は羽毛表面のケラチン層の層構造に
 基づいている。
このような要点が第5章でさらに広がる形で展開され、かなり具体的にわかりやすく説明されていく。その語りを気楽に楽しく読めるところが、実に良い。

 私自身はカラスを好きになれるとは思わないが、カラスについて具体的な事実を知れたことに読み甲斐を感じている。勿論それ以外の鳥類についても一歩踏み込んで知ることができて楽しかった。「ヨーロッパで繁殖するスゲヨシキリはアフリカまでの約4000キロを4,5日で飛ぶ。ニューギニアから日本まで、4500キロ以上を一直線に飛んだシギもいる」(p95)、鳥は現代に生き残った恐竜なんて話も出てくるから驚き、かつおもしろい。
 「『ヘー、鳥ちょっと面白いじゃん』で十分である」(p3)と、著者は「脳内がカラスなもので」の末尾近くに記している。この点は、間違いなくクリアできている。

 最後に印象に残る箇所を引用しておこう。
*人間は動物に対してイメージを投射し、そのイメージに従って行動を類推する。もちろん学者だって行動を類推するし、私もカラスの行動を擬人化して説明もする。だが、動物学者はその類推の不確かさもちゃんとわかっている。実際の生物の行動は、人間のイメージを超えたものであることも少なくない。そこが生物学の奥行であり、面白さである。 p169

 ご一読ありがとうございます。

補遺
カラスの飼育は可能なの?法律と保護・飼育の注意点 :「EPARK くらしのレスキュー」
カラス  :ウィキペディア
日本のカラスの種類、7種全ての特徴をご紹介!   :「ADVAN CORPORATION」
実は、街のカラスは2種類いるんです。ハシブトガラスとハシボソガラス:「BIOME」
カラスのことをもっと知ろう  :「豊中市」
世界のカラスの仲間  :「HPHP (Hosaka Personal Home Page)」
カラスの図鑑 日本に生息する5種のァラスを紹介! :「北海道情報大学」
考える人  ホームページ

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