神奈川県警少年捜査課を冠したシリーズとしては第2弾。第1弾は『ボーダーライト』であり、2024年8月に文庫化された際に、この神奈川県警少年捜査課を冠する形に改題された。今回の単行本にはこの冠が最初から付いた。しかし、『わが名はオズヌ』(2000年10月)がいわばシリーズ前日譚としてその前に刊行されている。実質第3作といえる。
本書『リミックス』は、奥書を読むと、「WEBきらら」(2023年5月号~2023年9月号)から「STORY BOX」(2024年11月号~2024年5月号)に引き継がれ連載された後、2024年9月に単行本が刊行された。
警察小説にオカルト次元がミックスされた長編ストーリー。気軽にちょっとした異次元世界の融合を楽しめる。
神奈川県立南浜高校の生徒、賀茂昌が中核になる。賀茂には、古代の霊能者・役小角(エンノオヅヌ)がある時から降臨するようになった。そのため、彼は「オズヌ」と称されるようになる。オズヌが賀茂に降臨すると、賀茂は意識があるものの、降臨したオズヌが賀茂という個体を借りて行動していて賀茂自身委はその自覚がない。時折賀茂自身の意識が断片的に記憶されているに過ぎなくなる。
賀茂が行方不明になる状況が発生すると、少年捜査課の高尾勇巡査部長と丸木正太巡査長がコンビを組んで捜査を始動する。そのプロセスがメインストーリーになるので、警察小説であり、オズヌが降臨した状態の賀茂は捜索対象者となる。オズヌの降臨は、何らかの事件・事象と関わっていく。それが高尾と丸木を事件の捜査・解決に邁進させる。
面白いのは、高尾は少年たちを厳しく「お仕置き」するところから、「仕置き人」の異名を持つ。高尾は賀茂が関わりを持った事件を解決してきた経験から、オズヌが賀茂に降臨している状態があるという事象を一応受け入れて、その事実が意味することを重視する。一方、丸木はオズヌが降臨している状態を受け入れる心境には至っていない。そのため、高尾の相棒として行動しつつも、距離を置いてちょっとシニカルに状況を見つめている。勿論、丸木は己の内心で批判的言辞を弄していても、面と向かって高尾には何も告げない。その辺りの描写場面、このコンビの認識のギャップが時にはユーモラスで読者にとりおもしろさとなる。
賀茂の側に、賀茂の担任教師の水野陽子と、賀茂の同級生の赤岩猛雄が居る。赤岩は暴走族「ルイード」の元リーダー。神奈川県下では名を馳せた少年であり、刑事たちには凶暴さでその名が知られている。ある事件が契機でおとなしくなり、賀茂を護る役割を担う立場になる。オズヌは水越を「前鬼」、赤岩を「後鬼」とみなしている。賀茂にオズヌが降臨した状況では、水越と赤岩はオズヌにその役割で従うことになる。
川崎署の管轄内で、赤岩猛雄が強行犯係に逮捕されたことから、高尾と丸木は事件に関わっていく。赤岩は川崎で6人を相手に立ち回りを演じて3人を倒した現場に居たという。川崎署に出向いた高尾に、赤岩は賀茂が追われているのを追っていて3人が倒れている現場に遭遇しただけだと告げた。川崎署の刑事・江守巡査部長に高尾が助言したことで、赤岩の無実は証明された。だが、この時のグループが、後に南浜高校前に現れる事態に至る。
一方、高尾は、赤岩と担任教師水越から、賀茂が行方不明ということを聞く。賀茂とトラブルになった連中は、赤岩によれば、テルが中心で、ナンバーツーをヒトシとする、半グレのグループで、川崎の連中だった。
高尾と丸木は、川崎署の江守を介して、刑事課暴力犯対策係の細田隆次巡査部長の協力を得て、昼間に銀柳街周辺を探索する。高尾はカラオケ店の前で二人の若い男に目を止めた。後で彼らはサムとハルと呼ばれるギャングだと聞く。川崎署の刑事でも接触したくない連中だという。細田は、サムたちと話をするなら彼らの保護司とコンタクトするのを勧めた。
再び賀茂が居なくなったと水越先生から連絡を受けた高尾は、細田と江守両刑事の協力を得て、夜は危険だという銀柳街を探索に行く。そこでサム、ハルと話をしている賀茂を高尾は発見して保護することになる。この時、賀茂ことオズヌは、川崎へはテルやヒトシ、そしてサムやハルと話をするために来たのだが、うまくいかないと語り、一言主(ヒトコトヌシ)の力がいると言う。また、テルとサムのグループが対立していることも知っていると賀茂(オズヌ)は言う。
だが、細田はこの両グループは神奈川県警が必死になってもどうしようもない連中なのだと言う。一方、賀茂(オズヌ)は両グループの対立の解決は一言主の役目だと答えた。
賀茂を保護した高尾は水越の依頼通り、本牧にあるライブハウスのオルタードに賀茂を連れて行く。そこには、ミサキが居た。賀茂がミサキのことをオズヌが心配していると言ったことについて丸木が質問した。ミサキは若者に絶大な人気を得ているカリスマボーカルであり、ミサキはオズヌが憑依する依巫でもあった。
この時、川崎署の細田から高尾に電話が入る。保護司のことがわかったという知らせである。名前は葛城誠。水越陽子は、賀茂がオズヌがカツラという言葉について考えていると言っていたことを思い出す。
丸木は、さらにミサキに、どこかの事務所に所属するつもりかどうかと質問を投げかけた。それはオルタードの経営者田崎がジェイノーツの平尾から聞いた話だった。ミサキは迷っているようだった。が、ミサキは未だ17歳。事務所はマロプラ企画だとわかる。専属契約となると、マロプラ企画が暴力団のフロント企業ではないかという危惧を高尾は抱く。そこで高尾はこの事務所の背景調べと専属契約の内容面にも踏み込んでいく。
高尾の捜査範囲は一見、拡散し広がるように見えるのだが、ミサキの事務所所属問題を中軸に様々の事象が、ジグソウパズルのピースがはまっていくように、一つの方向に収れんしていくことに・・・・・。
この小説、様々な社会的側面・要素が盛り込まれている。
暴力団と半グレの法律的規制の差異。芸能界に繋がる暴力団の影響。音楽業界のビジネスを構成する要素の相互関係(歌手、プロモーションとマネージメント、レーベル、原盤権、芸能プロダクション、音楽事務所、専属契約、暴対法・児童福祉法等の法規制、etc)。不良少年と保護司。中国残留邦人と混血児問題。役小角と葛城氏と一言主。憑依現象・依巫。
これらがストーリーに織りなされていくところが興味深い。
このストーリー、「一言主」がキーワードになっていると思う。
「一言主というのは言葉そのものではないか」
「自分を語る言葉を持たないのは辛いことだ」
「言葉をうまく交わせないことによる誤解や恐れから差別が生まれます。彼らは幼い頃からずっと差別を受けてきたのでしょう」
p207からの抽出引用であるが、ここにこのストーリーのテーマの一つがあると思う。
とぅきぽしぴかりてあめのしたぴとりかなし
うみわたりゆかむなぬむとぅぬ p147
ミサキがカリスマボーカルとして歌う場面描写がある。自作の歌詞に含まれた言葉として、この二行が歌い込まれている。水越陽子は「あれが、飛鳥時代の言葉なのね」と語る。
飛鳥時代の人々はこのような言葉遣いだったのだろうか。ちょっとエキゾチックな感じ・・・・。
ご一読ありがとうございます。
本書『リミックス』は、奥書を読むと、「WEBきらら」(2023年5月号~2023年9月号)から「STORY BOX」(2024年11月号~2024年5月号)に引き継がれ連載された後、2024年9月に単行本が刊行された。
警察小説にオカルト次元がミックスされた長編ストーリー。気軽にちょっとした異次元世界の融合を楽しめる。
神奈川県立南浜高校の生徒、賀茂昌が中核になる。賀茂には、古代の霊能者・役小角(エンノオヅヌ)がある時から降臨するようになった。そのため、彼は「オズヌ」と称されるようになる。オズヌが賀茂に降臨すると、賀茂は意識があるものの、降臨したオズヌが賀茂という個体を借りて行動していて賀茂自身委はその自覚がない。時折賀茂自身の意識が断片的に記憶されているに過ぎなくなる。
賀茂が行方不明になる状況が発生すると、少年捜査課の高尾勇巡査部長と丸木正太巡査長がコンビを組んで捜査を始動する。そのプロセスがメインストーリーになるので、警察小説であり、オズヌが降臨した状態の賀茂は捜索対象者となる。オズヌの降臨は、何らかの事件・事象と関わっていく。それが高尾と丸木を事件の捜査・解決に邁進させる。
面白いのは、高尾は少年たちを厳しく「お仕置き」するところから、「仕置き人」の異名を持つ。高尾は賀茂が関わりを持った事件を解決してきた経験から、オズヌが賀茂に降臨している状態があるという事象を一応受け入れて、その事実が意味することを重視する。一方、丸木はオズヌが降臨している状態を受け入れる心境には至っていない。そのため、高尾の相棒として行動しつつも、距離を置いてちょっとシニカルに状況を見つめている。勿論、丸木は己の内心で批判的言辞を弄していても、面と向かって高尾には何も告げない。その辺りの描写場面、このコンビの認識のギャップが時にはユーモラスで読者にとりおもしろさとなる。
賀茂の側に、賀茂の担任教師の水野陽子と、賀茂の同級生の赤岩猛雄が居る。赤岩は暴走族「ルイード」の元リーダー。神奈川県下では名を馳せた少年であり、刑事たちには凶暴さでその名が知られている。ある事件が契機でおとなしくなり、賀茂を護る役割を担う立場になる。オズヌは水越を「前鬼」、赤岩を「後鬼」とみなしている。賀茂にオズヌが降臨した状況では、水越と赤岩はオズヌにその役割で従うことになる。
川崎署の管轄内で、赤岩猛雄が強行犯係に逮捕されたことから、高尾と丸木は事件に関わっていく。赤岩は川崎で6人を相手に立ち回りを演じて3人を倒した現場に居たという。川崎署に出向いた高尾に、赤岩は賀茂が追われているのを追っていて3人が倒れている現場に遭遇しただけだと告げた。川崎署の刑事・江守巡査部長に高尾が助言したことで、赤岩の無実は証明された。だが、この時のグループが、後に南浜高校前に現れる事態に至る。
一方、高尾は、赤岩と担任教師水越から、賀茂が行方不明ということを聞く。賀茂とトラブルになった連中は、赤岩によれば、テルが中心で、ナンバーツーをヒトシとする、半グレのグループで、川崎の連中だった。
高尾と丸木は、川崎署の江守を介して、刑事課暴力犯対策係の細田隆次巡査部長の協力を得て、昼間に銀柳街周辺を探索する。高尾はカラオケ店の前で二人の若い男に目を止めた。後で彼らはサムとハルと呼ばれるギャングだと聞く。川崎署の刑事でも接触したくない連中だという。細田は、サムたちと話をするなら彼らの保護司とコンタクトするのを勧めた。
再び賀茂が居なくなったと水越先生から連絡を受けた高尾は、細田と江守両刑事の協力を得て、夜は危険だという銀柳街を探索に行く。そこでサム、ハルと話をしている賀茂を高尾は発見して保護することになる。この時、賀茂ことオズヌは、川崎へはテルやヒトシ、そしてサムやハルと話をするために来たのだが、うまくいかないと語り、一言主(ヒトコトヌシ)の力がいると言う。また、テルとサムのグループが対立していることも知っていると賀茂(オズヌ)は言う。
だが、細田はこの両グループは神奈川県警が必死になってもどうしようもない連中なのだと言う。一方、賀茂(オズヌ)は両グループの対立の解決は一言主の役目だと答えた。
賀茂を保護した高尾は水越の依頼通り、本牧にあるライブハウスのオルタードに賀茂を連れて行く。そこには、ミサキが居た。賀茂がミサキのことをオズヌが心配していると言ったことについて丸木が質問した。ミサキは若者に絶大な人気を得ているカリスマボーカルであり、ミサキはオズヌが憑依する依巫でもあった。
この時、川崎署の細田から高尾に電話が入る。保護司のことがわかったという知らせである。名前は葛城誠。水越陽子は、賀茂がオズヌがカツラという言葉について考えていると言っていたことを思い出す。
丸木は、さらにミサキに、どこかの事務所に所属するつもりかどうかと質問を投げかけた。それはオルタードの経営者田崎がジェイノーツの平尾から聞いた話だった。ミサキは迷っているようだった。が、ミサキは未だ17歳。事務所はマロプラ企画だとわかる。専属契約となると、マロプラ企画が暴力団のフロント企業ではないかという危惧を高尾は抱く。そこで高尾はこの事務所の背景調べと専属契約の内容面にも踏み込んでいく。
高尾の捜査範囲は一見、拡散し広がるように見えるのだが、ミサキの事務所所属問題を中軸に様々の事象が、ジグソウパズルのピースがはまっていくように、一つの方向に収れんしていくことに・・・・・。
この小説、様々な社会的側面・要素が盛り込まれている。
暴力団と半グレの法律的規制の差異。芸能界に繋がる暴力団の影響。音楽業界のビジネスを構成する要素の相互関係(歌手、プロモーションとマネージメント、レーベル、原盤権、芸能プロダクション、音楽事務所、専属契約、暴対法・児童福祉法等の法規制、etc)。不良少年と保護司。中国残留邦人と混血児問題。役小角と葛城氏と一言主。憑依現象・依巫。
これらがストーリーに織りなされていくところが興味深い。
このストーリー、「一言主」がキーワードになっていると思う。
「一言主というのは言葉そのものではないか」
「自分を語る言葉を持たないのは辛いことだ」
「言葉をうまく交わせないことによる誤解や恐れから差別が生まれます。彼らは幼い頃からずっと差別を受けてきたのでしょう」
p207からの抽出引用であるが、ここにこのストーリーのテーマの一つがあると思う。
とぅきぽしぴかりてあめのしたぴとりかなし
うみわたりゆかむなぬむとぅぬ p147
ミサキがカリスマボーカルとして歌う場面描写がある。自作の歌詞に含まれた言葉として、この二行が歌い込まれている。水越陽子は「あれが、飛鳥時代の言葉なのね」と語る。
飛鳥時代の人々はこのような言葉遣いだったのだろうか。ちょっとエキゾチックな感じ・・・・。
ご一読ありがとうございます。