遊心逍遙記その2

ブログ「遊心逍遙記」から心機一転して、「遊心逍遙記その2」を開設します。主に読後印象記をまとめていきます。

『千里眼 ブラッドタイプ 完全版』  松岡圭祐   角川文庫

2023-12-31 23:07:18 | 松岡圭祐
 このクラシックシリーズを読み継いでいる。本書が第11弾となる。
 本書は、2006年6月に刊行された『ブラッドタイプ』に修正が加えられて、平成21年(20095月に完全版と銘打って文庫化された。

 今までの作品群とは趣がガラリと変わった作品となっている。闘争・対決シーンが数多く登場するプロセスを介在させてストーリーが展開する次元から、人間心理の絡む社会現象と医療分野の難病に苦しむ人々を扱うという次元にシフトした作品である。岬美由紀は証明することが難しいテーマに取り組まざるを得ない状況に置かれていく。証明することが困難な課題にどのようにチャレンジしていくか。その解決策はあるのか・・・・。読者にとっては、逆に身近な問題につながっているテーマが扱われていることになる。

 ストーリーは、陸上自衛隊と米海兵隊の合同訓練をおこなっている米西海岸の施設を日本の防衛大臣が訪れ、海兵隊員がブーツに血液型を書き込んでいるのを目にして、「B型は撃たれやすいから前か」という迷言を発したという珍場面の報道記事から始まる。日高防衛大臣は、己が信じる血液型性格分類の知識を踏まえて勘違いな発言をしたのだ。この血液型性格分類というのがこのストーリーの核になっていく。特にB型の性格が問題視されるという現象がひろがっていくという社会現象が起こる。
 そういえば、結構血液型性格分類に関連した書籍が市販されていることにも気づく。
 日本でブームにもなった血液型性格分類というものの現象をベースに置きながら、それがどんな社会問題現象を生んでいるかの一面にも光を当てている。
 
 本作の状況設定が興味深いのは、その巧みな構成にある。
 日高防衛大臣の迷言は、事の発端にすぎない。だがそれを契機に、血液型性格分類が脚光を浴び、逆にそこから問題となる社会現象が頻出していることが明らかになる。それを解決するには、血液型性格分類に科学的根拠がないということを誰かが証明しなければ、世間の人々は納得しない。それを誰がやるか。
 岬美由紀は臨床心理士である。臨床心理士は民間資格であるが、文部科学省の後押しを得て、日本臨床心理士会が国家資格を目指すという動きをしていた。一方、厚生労働省が後押しをする医療心理士という民間資格の方もまた、国家資格化の動きをとっていた。国家資格の心理カウンセラー職を目指すこの二つの団体が、国家資格化に鎬を削っている状況だった。そのため、この二団体が、血液型性格分類に科学的根拠がないことを証明するという課題に取り組まざるを得なくなる。岬美由紀はその渦中に巻き込まれて行く。
 今回のストーリー展開での新機軸は、一ノ瀬恵梨香が臨床心理士の資格を再取得した。尊敬する美由紀の協力者として活動を共にするという要素が加わっていく。恵梨香の活躍がたくましさと面白味を加えることになる。また、彼女のキャラクターが楽しさを加える。

 もう一つは、本作に美由紀にとり臨床心理士の先輩である嵯峨が再び登場する。だがその嵯峨は急性骨髄性白血病の再発で入院生活となる。嵯峨は入院した病院で、己自身が病人である一方、白血病で入院している患者さんたちに、心理カウンセラーとしての己の役割を果たして行こうと決意する。そのプロセスが、本作ではパラレルに進行していく。
 丁度その時期に、「夢があるなら」という白血病患者を主人公にした泣ける恋愛ストーリーのドラマが爆発的にヒットしていた。だが、そのドラマが流布する白血病についての医療知識には誤解を生み出す間違いがあった。美由紀はこの点についても、その誤解を解き、世間の認識を変えさせていきたいと行動し始める。
 このストーりーでは、嵯峨自身の容態という点での展開に加えて、2人の白血病患者が登場してくる。一人は、北見駿一で10代半ばから後半という年齢。彼は治療費をガスガンの改造で稼ぐということを密かにしていた。嵯峨はこの少年のカウンセラーとして自主的に関わっていく。北見駿一が関わるサブストーリーが、彼の恋愛問題とともに、危なっかしい側面も含めて、織り込まれて行く。
 もう一人、厄介な女性の白血病患者霧島亜希子が登場する。彼女は骨髄移植を受けて己の血液型がB型に変化することを恐れ、適合する骨髄提供者がいたとしても、その提供を受けて、血液型がB型に変化するなら骨髄移植を拒否するという行動を取り続ける患者である。嵯峨はカウンセラーとしての意識から、骨髄移植を受けて健康を回復できるチャンスを実行するように彼女を導こうと努力し続ける。それが実行されるまでは、嵯峨自身が骨髄移植手術を受けるのを引き延ばそうと決意する。
 ここで、患者である嵯峨が別の患者にカウンセリングしつづけるというサブストーリーが進展していくことになる。

 ブラッドタイプの問題事象については、その実状の一例として、血液型性格判断研究所の所長で、血液型カウンセラーを自称する城ノ内光輝が登場してくる。世間でもてはやされているその道のプロとしてである。結局、美由紀はこの城ノ内との知的対決にも向かっていくことになる。

 このストーリー、ブラッドタイプという身近な問題を扱っている故に、日常の感覚を重ね合わせて読み進められる側面があり、興味深い。いわば、人間は自分の知りたい部分だけを事実として受け止めて、納得していくという側面を暴き出しているとも言えよう。
 白血病について、少しはイメージがわくようにもなった。治療の困難性も少しわかり、一方不治の病気ではないということも理解が深まったと思う。医療情報としては有益な側面を内包していると思う。
 
 このシリーズの中では、異色のストーリー展開であるところが、違った意味で一気読みさせる動因になった。ブラッドタイプそのものについての落とし所がおもしろい。

 ご一読ありがとうございます。


こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『千里眼とニアージュ 完全版』 上・下  角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅷ 太宰治にグッド・バイ』  角川文庫
『探偵の探偵 桐嶋颯太の鍵』    角川文庫
『千里眼 トオランス・オブ・ウォー完全版』上・下   角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅵ 見立て殺人は芥川』   角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅶ レッド・ヘリング』  角川文庫

「遊心逍遙記」に掲載した<松岡圭祐>作品の読後印象記一覧 最終版
                    2022年末現在 53冊

 
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『蓮如物語』  五木寛之  角川文庫

2023-12-22 10:51:15 | 五木寛之
 読み始めて、1998年4月に本書を原作とするアニメーション映画『蓮如物語』が公開されていたことを初めて知った。
 平成7年(1995)11月に単行本が刊行され、平成9年(1997)11月に文庫化されている。
 「文庫版へのあとがき」の冒頭に、「これは少年少女たちのために書かれた空想的な物語りです」と述べ、「蓮如上人という、若い世代にはあまりなじみのない人物に、子供たちが人間的な親しみと興味をもつ糸口にでもなれば、というのが作者の願いでした」と続けて記す(p222)。五木寛之さんが児童小説を書いていることも本書を手に取って初めて知ったことである。

 著者による『蓮如 -聖俗具有の人間像-』(岩波新書、1994年9月第4刷)をかなり前に読んだのだが、その時点でもこの『蓮如物語』は知らなかった。
 『蓮如物語』は児童小説として書かれたが、この小説、子供でなく大人でも十分に読むに耐える内容である。

 『蓮如』は作家の視点から客観的にとらえた蓮如の人間像を分析的に論述しているので、蓮如上人を知る上で知識情報源として有益である。しかし、読んで感動するという次元にリンクしていくものではなかった。
 一方、こちらの物語は、あとがきに記されている通り、「大事なことや、むずかしい問題、くわしい時代背景などは、ほとんど書かれていません」(p222)とある通り、蓮如についての詳しい知識情報は捨象して、蓮如が浄土真宗の中興の祖となるにいたる基軸部分に焦点を絞り込んでいる。そこに著者の想像力・創作力を傾けて蓮如という人を浮き彫りにしようとしている。

 『蓮如』を部分的に読み返してみると、「彼が生まれたとき、蓮如の父はまだ二十歳の若さでした。・・・従って正式の妻も持てませんでした。彼は身近な女性と非公式に親しくなります。そして蓮如が生まれました」(p26)、「実の母が祝福されないいやしき『日陰の』身であったこと」(p27)という記述がある。読書時点では、この箇所をさらりと読み通して『蓮如』を通読していたようだ。今、改めて再読してみようかと思っている。
 『蓮如物語』では、児童期の蓮如の名を布袋、布袋丸として登場させ、6歳の布袋丸を寺に残して、12月28日に実母は本願寺をひっそりと去って行く。
 去る前に母が布袋丸に、親鸞さまの寺・本願寺に生まれた寺の子であること、親鸞さまの教えを学び、それを伝えることが母の願いであること、を語り聞かす。「いいわね。親鸞さまについておゆき、そして、一生かけてお念仏を世間に広めるのですよ」(p96)と己の思いを託すのだ。
 この物語ではこの親子の会話が根底に据えられている。この『物語』では、ここまでで全体の半ば近くを占める。つまり、それだけの重みを潜ませた原点と言える。

 当時は、親鸞の御廟がある本願寺とはいえ、単なる貧しい一つの寺に過ぎない状態だったことが描かれている。布袋は17歳で、青蓮院で得度して正式にお坊さんになる。このこと自体が当時の本願寺の位置づけを象徴しているともいえよう。

 蓮如が26歳の頃に、父存如が第七代法主(ホッス)となる。蓮如が父の死後、叔父にあたる加賀の如乗(ニョジョウ)の力添えもあり、第八代法主となるのは四十を過ぎ、43歳の時である。それまで、妻帯している蓮如には勉学と忍耐の歳月が続く。その状況をこの物語は簡潔に描写していく。
 法主となった以降、蓮如が精力的に親鸞聖人の教えを説き歩く状況が物語られる。それは一方で、比叡山からの軋轢、衝突を生み出すことにもなる。蓮如が近江の各地を転々とし、吉崎で布教活動を行う。だが、吉崎が賑わうにつれ問題が新たに発生する。その後、京都の山科に本願寺が建立される。大坂での布教と蓮如82歳での寺の建立までの経緯も物語られる。
 読者は、この物語で蓮如上人その人と浄土真宗中興の祖となられるまでの大凡の経緯を理解できることになる。
 
 この物語は、「鹿の子の絵像」「八十五歳の旅立ち」と続く章て終わる。これらの章を読み、6歳の時に布袋丸が母と生き別れることになる経緯と共振していき、涙せずにはいられなくなった。布袋丸時代の幼馴染みであるシズとの思わぬ再会という状況を著者が設定している点は実に巧みだと感じた。
 
 この物語で、一つおもしろいと思った場面がある。布袋丸の母は、本願寺からひっそりと去る前に、無理算段をして金子を作り、6歳の布袋丸の絵を竜栄と称する絵師に一生のかたみとして描いてもらう。竜栄が布袋丸の面構えを見て独り言のように言うことがある。「もし道をあやまれば、将来天下に大乱をひきおこす阿修羅になるかもしれん。また時とところをうれば、世の万民にしたわれる救世の大菩薩となるとも感じられる。そなた、大変なお子をもたれたのう」(p53)という箇所である。『源氏物語』桐壺の巻で、桐壺帝が皇子(後の光源氏)を鴻臚館に遣わし、高麗人に観相してもらう場面がある。この場面がアナロジーとして取り入れられているように感じたからだ。

 感動的な場面の一つは、鴨川の河原に捨てられた病気の老人が野良犬に襲われているところに蓮如が行き合わせる場面が織り込まれている。蓮如はこの老人を看取ることになるのだが、その時が、蓮如にとり母の言葉を思い出し、念仏と信心について覚醒する瞬間となる。自然で巧みな描写の進展だと思う。
 著者は続けて、「お念仏とは自分の口でとなえるものだとばかり思っていたのだが、じつは目に見えぬ大きな力によってとなえさせられているということに気づいたのである」(p150)と物語っている。

 最後に、著者が描く蓮如の人物描写の一側面をご紹介しておこう。
「蓮如はもともと幼いときから人見知りをしないところがあって、だれとでもすぐにうちとけて友達になってしまう。
 ざっくばらんな人柄が、相手に安心感をあたえるらしい。
 ほんとうは蓮如はさびしいのだった。生みの母がいなくなってからは、毎晩さびしく、悲しくて夜も眠れぬ日がつづいていたのである。
 そんな蓮如のさびしさが、ほかの人たちに対する人なつっこさとなってあらわれたのかもしれない」(p123)と。

 この「空想的な物語」の中に、逆に『蓮如』を読んだときよりも、蓮如その人を身近に感じてしまった。蓮如の実の母自身の思いと母への蓮如自身の思いを根底に据えている著者の構想が読者を惹きつけていくのではなかろうか。
 児童小説ではあるが、大人こそまず読むとよい物語だと思った。

 ご一読ありがとうございます。

補遺
ご生誕600年記念 蓮如さん -ご生涯と伝説-  :「本願寺文化興隆財団」
やしょめ/倍賞千恵子   YouTube
蓮如上人とはどんな方?『御文章』に書かれてあることとは?  YouTube

インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。

(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)


こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『折れない言葉 Ⅱ』   毎日新聞出版
『折れない言葉』  毎日新聞出版
『百の旅千の旅』  小学館

ブログ「遊心逍遙記」に載せた読後印象記です。
『親鸞』上・下     講談社
『親鸞 激動篇』上・下 講談社
『親鸞 完結篇』上・下 講談社


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『天気のことわざは本当に当たるのか考えてみた』  猪熊隆之  ベレ出版

2023-12-20 15:06:12 | 科学関連
 地元の図書館の本紹介コーナーで本書が目に止まった。観天望気で言われることの一つ「朝焼けは雨、夕焼けは晴れ」ということわざが頭の隅にあったので、手に取ると、載っている。なんと、「はじめに」の次に、「本書の使い方」の説明事例としてまず載っていた。勿論、本文に載っている。これはタイムリー! そこで早速読んでみることに。
 本書は2023年7月に単行本が刊行されている。

 著者紹介をまず読むと、「1970年生まれ。全国330山の天気予報サイトを運営する、国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテンの代表取締役。山岳気象予報士。テレビ番組の撮影協力、講演や講習会の講師としても活躍している。また、全国各地の山で、空を見ることの楽しさ、安全登山のための雲の見方などを伝える活動も精力的に行っている」とある。

 本文は構成が統一されていて、まず読みやすい。まず<ことわざ>が見だしとなっている。著者の実体験と気象学の知識を背景に<解説>が続く。天気予報報道をテレビで観ているくらいで、天気図の正確な読み方も知らない私のような読者にわかりやすくて読みやすい。解説には、ことわざに関係する風景や山岳写真、わかりやすい絵解きのイラストなどが併載されている。そして、著者の経験とデータを踏まえ、このことわざがどのていどの<確率>で当たっているかを★マークで5段階評価している。最後に簡潔な<まとめ>と参考情報源が付記される。一つのことわざは、2~5ページで完結する。3,4ページの解説が主体。楽しみながら気軽にどこからでも読めるというところがよい。

 本書全体の構成は、以下の章立てになっている。
 1章 生きもののことわざ   <カエルが鳴くと雨> から始まり、10項目
 2章 空のことわざ      <朝焼けは雨、夕焼けは晴れ> から始まり、10項目
 3章 昔から伝えられてきたことわざ <暑さ寒さも彼岸まで> から始まり、5項目
 4章 地域特有のことわざ   <渡り鳥早き年は雪多し> から始まり、10項目
 5章 山に関することわざ   <硫黄の匂いがすると雨> から始まり、3項目
 6章 海に関することわざ   <朝の雷、船乗り警戒> から始まり、5項目
 7章 著者オリジナルのことわざ 
     <からっ風が吹くと、山向こうは雪> を筆頭に5つのことわざを生成

 各章の後に、コラムが併載されている。何となく知っているようで、説明せよと言われれば適切な説明に戸惑う基礎的な事項が絵入、写真入りで初心者にわかりやすく解説されていて、楽しめた。コラムの標題を列挙してご紹介しておこう。

 <雲は何で落ちてこないの?> <気圧って何?> <風はどうして吹くの?>
 <海陸風って何?> <山谷風って何?> <前線って何?> 
 <日本でもっとも雪が深いところは?>

 びっくりするとともに楽しかったのを一つあげると、富士山にかかる笠雲が、河口湖測候所の年報資料をもとに、絵入りで20種類に識別されていることを取り上げている点である。
「れんず笠、にかい笠、われ笠、はなれ笠、えんとう笠、はふ笠、ひさし笠、まえかけ笠、なみ笠、ひとつ笠、うず笠、ふきだし笠、よこすじ笠、おひき笠、すえひろ笠、みだれ笠、かいまき笠、とさか笠、うねり笠、つみ笠」
実に、おもしろい! これも、地道な長年の観測データの集積から生まれている、天候を判断するための分類なのだろう。

 本書を読んだ感想の一つは、天気のことわざが想像以上に沢山伝承されていることと、地域限定で伝承されていることわざも多いということである。科学的な気象学、天文学がなかった時代から、人々は、生活のため、サバイバルのために、幾世代にも渡る経験をことわざという経験則にして伝承し、生活行動の指針にしてきたのだな・・・という思いを深めた。
 その一方、地球温暖化などの影響でことわざが当てはまらない気象状況が生み出されてきている側面について解説されている。なるほどと思い実感するところもある。
 もう一つ、子供の頃と比べ、都市化の影響で、今では身近に経験すらできなくなったことわざもあるな・・・という感慨をいだくことにもなった。特に生き物たちにかかわることわざである。

 本書には、ことわざを媒介にして、天気のこと、気象と山のことについて、その基本を楽しみながら学べる点がメリットである。

 地域限定のことわざなどには触れず、1~3章に限定して、著者が取り上げたことわざと、現在時点での著者の5段階評価を列挙してご紹介する。なぜ、そういう評価になるのかは、本書の解説をお読みいただきたい。
 貴方の経験評価と著者の評価を比較してみるのも、本書への誘いになるかもしれない。(評価5が最大の確率。ここでは数字で記載する)

1章 1 カエルが鳴くと雨                   2
   2 ツバメが低く飛ぶと雨                 3
   3 猫が顔を洗うと雨                   1
   4 大根の根が長い年は寒い                1
   5 カマキリが高いところに卵を産みつけるとその冬は大雪  1
   6 クモが巣を張れば雨は降らない             1
   7 アリの行列を見たら雨                 1
   8 ミミズが地上にでてきたら雨              1
   9 モズの高鳴き75日              2(広島より西の地方は3)
   10 桜の花が下向きに咲くときは春大雪あり         1

2章 1 朝焼けは雨、夕焼けは晴れ               3
   2 風の弱い星夜は冷える                 5
   3 太陽や月が暈をかぶると雨               3
   4 飛行機雲が消えないときは天気が下り坂         3
   5 朝虹は雨、夕虹は晴れ                 4
   6 雷が鳴れば梅雨が明ける                3
   7 朝霧は晴れ                      3
   8 星が瞬くと雨                     3
   9 鯖雲は雨                       3
   10 早朝から暖かい日は雨                 4

3章 1 暑さ寒さも彼岸まで     3(関東から西の地方)~4(北日本、北陸地方、長野県)
   2 雷三日                        3
   3 高山に早く雪ある年は大雪(寒冬)なし     1(30年前までは3)
   4 櫛が通りにくいときは雨                3
   5 梅雨明け十日                 3(1980年代までは4)

 ことわざを入口にして、天気のこと・気象について、楽しみながら学ぶというのも、おもしろいアプローチである。

 ご一読ありがとうございます。

補遺
ヤマテン 山の天気予報  ホームページ
天気のことわざ - 天気俚諺・観天望気 :「暮らしの中の気象」
天気のことわざいちらん   :「知識の泉」
富士山の雲と天候の関係   :「国土交通省中部地方整備局」
富士山に笠雲 天気下り坂のサイン  :「テレ朝 news」
朝焼け・夕焼け  :「au天気」
燃えるような朝焼けは天気下り坂のサイン :「ウェザーニュース」
   昼頃には九州から雨降り出す

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『白夜街道』  今野敏   文春文庫

2023-12-17 15:44:23 | 今野敏
 警視庁公安部外事一課倉島警部補シリーズの最新刊の新聞広告を見て、本書を見過ごしていたことに気づいた。最新刊は未読だが、まずはこの見過ごしていた作品を読み継ぐことにした。本作は2006年7月に単行本が刊行され、2008年11月に文庫化されている。手許の本は2016年10月第14刷である。このシリーズもけっこう読まれているということだろう。

 4年前に倉島はロシアから来た暗殺者ヴィクトル・タケオヴィッチ・オキタと敵対した。オキタは暴力団の組長を殺害し、そのまま姿を消した。その事案は暴力団同士の抗争として処理され、暗殺者オキタの存在は秘された。
 そのオキタが実名のパスポートで6月に来日したのだ。倉島は上田係長と共に、下平課長からオキタの名が記されたファックスを見せられる。これが捜査の起点となる。
 日本人の父親とロシア人の母親の間に生まれたヴィクトルは、前回、山田勝という名の偽造パスポートで入国していた。暴力団の組長を暗殺し消えた。今回は本名で入国している。通常のビザで日本に入国するには、日本からの招待状が必要という手続きがある。倉島は、日本側の招待者が誰かからまず捜査を開始する。

 オキタは現在、モスクワにある警護会社『ムサシ』に勤めている。KGBの特殊部隊での先輩マキシム・マレンコフがソ連崩壊後に作った会社である。『ムサシ』のクライアントの一人、アンドレイ・ペデルスキーというビジネスマンの警護を依頼されて、オキタはボディーガードとして日本に入国したのだ。
 
 倉島はまずヴィクトル・タケオヴィッチ・オキタがテロリストの可能性があるとして、外務省に赴き入国ビザの情報を収集しようとする。すったもんだの末で、第四国際情報室河中と面談する。河中から引き出した情報は、オキタがアンドレイ・ペデルスキーというロシア人の連れとして、短期滞在の商用ビザを取り、日本側の招聘人は、ウツミ貿易株式会社だということだった。倉島はウツミ貿易を訪ね、招聘理由と滞在中の彼らの日程等を捜査することに・・・・。

 日本で精力的にビジネス活動に専念するペデルスキーは、モスクワから黒い、なんの変哲もないコウモリ傘を常に持参し持ち歩いていた。オキタがその用意のよさに驚くくらいだった。ペデルスキーのビジネス活動は順調に進み、帰国前日に得体のしれない密会をあるホテルで行った。オキタはその密会の場には立ち会えなかったが、警護の任務をやり遂げる。その夜、オキタは突然、大日本報声社という政治結社の代表、大木天声から電話を受ける。過去の貸しを返せと迫られ、その夜の暴力団の抗争で一仕事せざるをえなくなる。
 警護の任務を終えたオキタはペデルスキーとともに、出国手続きも問題なく済まし、アエロフロートで帰国の途につく。

 この状況の推移が前段となって、外事一課所属の上田係長と倉島の捜査活動が思わぬ方向に進展していく。
 というのは、第四国際情報室の河中廉太郎が急死したという知らせを倉島は上田係長から聞くことになる。河中はペデルスキーと接触した翌日に体調不良を訴え、さらにその翌日に入院し、明らかに異常な症状を呈したあと急死した。ペデルスキーとオキタが帰国した後だった。上田係長から症状を聞いた倉島は、旧ソ連のKGBが使った手口、ヒマから取った毒リシンを使った暗殺事件を思い出した。

 このストーリーの構想の面白さは2つのストーリーがパラレルに独立してそれぞれ進行して行く点にある。
1つは、モスクワに帰ったオキタの行動である。彼は、変わらずにペデルスキーのボディーガードの仕事に従事する。モスクワでオキタと同居しているエレーナが誘拐される事件が発生した。マレンコフ経由でオキタが受け取った誘拐犯からのメッセージは、ペデルスキーと交渉がしたいので、ハーロフスクという街のある住所に彼を移送してくれれば、エレーナを戻すというものだった。ペデルスキーはその住所地に行くことに同意する。オキタは彼の同意をどう解釈すれば良いか、様々な推理をする羽目になる。徐々にペデルスキーの正体が明らかになっていく。
 もう1つは、河中の急死に関わる捜査である。河中はペデルスキーかあるいはオキタに消された可能性が浮上する。公安部主導で刑事部との合同捜査本部が立つ。ウツミ貿易と外務省への聞き込み捜査を土台に、河中殺害事件の捜査が進展していく。
 捜査の結果、容疑者がロシアにいる限り、容疑者の逮捕に出向くことになる。モスクワへは倉島と捜査本部から刑事部の牛場警部が出張することとなった。
 日本の警察官として、ロシアで彼らが直面する状況が、いわば一つの読ませどころになる。

 2つのストーリーはペデルスキーを連結点としてつながっていく。
 モスクワに倉島と牛場が到着した時には、ペデルスキーとオキタは、ハーロフスクに出発した後だった。空港には日本の大使館員今村が出迎えに来ていた。この応対がおもしろい。実に日本的といえる。翌日FSBのオレグ小佐に引き合わされる。倉島・牛島・今村亞は、オレグ少佐の運転と案内で、ハーロフスクへ向かうことに・・・。
 「モスクワからハーロフスクまでは、約600キロ。だが、幸い、一本道だ。ヤロスラーブリ街道と呼ばれる国道をまっすぐ真北に向かうだけだ」(p209)と描写されている。白夜街道という本作のタイトルはここに由来する。その距離に地理的スケールの違いを感じてしまう。やはり、この風土の違いは人々の価値観にも影響するだろうな・・・と思ってしまう。

 本作で私が興味深いと感じる点を列挙してみたい。
1. 倉島の公安部捜査員としての意識と認識が巧みに描き込まれていく点。
  どこで捜査の一線を引くかという判断とその基準が興味深い。
2. 警視庁と外務省、警視庁公安部と警視庁刑事部、それぞれに組織の壁がある。
  その状況が捜査の進展を非効率にしている様相が巧みに描き込まれていること。
3. オキタの心理描写と状況認識、推理が楽しめるとともに、ペデルスキーの正体が
  このストーリーの設定で要となっていること。
4. 日本とロシア間のビザ発行の様子がわかること。
5. 倉島の判断により、牛馬とこの事件の本質を共有するという落とし所があること。
6. このストーリーのエンディングのさせかた。ここは特にお楽しみに。

 このストーリーの最終部分から、本作のモチーフと思えるセンテンスを抽出してみた。それが当たっているかどうかは、本作を読んでご判断いただきたい。
 *武力で戦う必要はない。だが、戦わなければならない。     p308
 *納得しなくてもいい。あれが事実だと主張し続けるだけです。
  そのうち、世間はこんな出来事があったことは忘れてしまう。  p311
 *刑事とは仕事のやり方が違うだけです。            p312
 *すべての人々は平和で安全な日常の中で暮らす権利がある。
  だが、その日常は実に危ういバランスの上に成り立っている。  p312

 警察小説ではあるが、アクション・ノヴェルとしての側面がつよい作品である。

 ご一読ありがとうございます。

こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『トランパー 横浜みなとみらい署暴対係』   徳間書店
『審議官 隠蔽捜査9.5』   新潮社
『マル暴 ディーヴァ』   実業之日本社
『秋麗 東京湾臨海署安積班』   角川春樹事務所
『探花 隠蔽捜査9』  新潮社
「遊心逍遙記」に掲載した<今野敏>作品の読後印象記一覧 最終版
                      2022年12月現在 97冊

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『孤高の血脈』  濱嘉之    文藝春秋

2023-12-15 21:59:58 | 濱嘉之
 濱嘉之さんの小説を読み継いでいる。本書が出版されているのを知らずにいたのだが、たまたま目にとまった。今まで警察小説の領域の作品群を読み継いできた。その核になってきたのは「情報」である。本作も警察小説かと思って読み始めたのだが違った。初めて警察ものとは異なる領域での長編小説を楽しむ機会になった。
 本書は、書き下ろし作品で、2022年11月に単行本が刊行されていた。単行本としての出版に接したのも、私は初めてである。ずっと文庫で読み継いできた。

 本作は医療分野を題材にしている。東北の拠点都市で医療法人清光会中東北総合病院を経営する池田家が舞台となる。プロローグはこの総合病院の創立150周年記念の宴席場面から始まって行く。
 この時点での理事長兼院長は池田利雄。次男であり、アメリカに留学して腹腔鏡手術の分野に習熟し、中東北総合病院の医者となって名医と呼ばれる地位を確立するに至る。
 池田家の男子は医者になり、女子は医者にはならずに、医者と結婚することで、池田家一族が一体となり、総合病院の中核を担う。そして病院の発展拡大を図ってきた。
 このストーリーは、総合病院経営者として利雄が能力を発揮し病院を拡大していくプロセスを主体にしつつ、利雄が己の躓きに気づいた時の対処までを描き出して行く。その背景として、池田診療所規模からこの総合病院を確立するに至った先代院長池田利宗の時代を前史部分として織り込みながらストーリーが展開されていく。

 池田利宗はシベリア抑留経験をした。そのとき、大久保弘之という建築家と抑留地で知り合い、終生の友人関係を築く。大久保は帰国後、建築家として建築業界では一流人となって、一方で政財界等との人脈を築いていく。利宗は外科医であり、医家である幸田家から池田家の婿養子に入り、池田診療所を継ぐ。そして、診療所を病院に格上げしさらに総合病院化して行った。この時、利宗の医大時代からの友人で外科医の田邊宏一郎が利宗に協力する形で病院に入る。彼もまた利宗の終生の友人である。
 さらに、利宗の実の兄、幸田宗春は医者で、当初医者として利宗の病院経営に協力していたのだが、途中から医者としてではなく病院経営のサポートに専念して、病院に関わる周辺事業にも着手し、利宗の病院経営の円滑化と事業拡大に関わっていく。

 利雄の兄・利邦は外科医の道を歩み、父の片腕となっている。利邦は医者として優れているが学者肌の性格。利雄には姉が二人いる。長女多恵子の夫・山県篤志は産婦人科医。次女有希子の夫・伊勢哲朗は耳鼻咽喉科医。それぞれ中東北総合病院の医療分野を担っている。多恵子と有希子は専業主婦。一方、利雄には双子の弟と妹がいて、弟の利典は小児科医。利典は病院経営にはあまり関心を示さない。妹の恵理子は弁護士となっている。
 
 利雄は子供の頃から姉二人に疎まれていた。特に兄弟姉妹の中で最も優秀とみなされていた有希子は利雄を毛嫌いしていた。学業面で利雄はいわば落ちこぼれ。彼一人だけ中高一貫で全寮制の学校に行かされることになる。医者を目指すが志望校には入れず、長い浪人生活をする。その時、利雄をサポートし、人生経験をさせたのは伯父の宗春だった。志望校には入れないままで医者となった利雄は、勧められてアメリカに留学する。この時の検分と体験が医者としての転機となっていく。
 雄はある時点で生涯の秘密を知らされることになる。それが利雄の生き様に関わって行く。
 利雄は徐々に中東北総合病院で己の立場を築き上げ、戦略的に行動して、理事長兼院長へと上り詰めていく。その過程で血族内での確執が深まっていく。
 病院経営に対する己の才能に目覚めて、能力を発揮していくのだが、そこにもその才能を底上げするある秘密が隠されていた。

 このストーリーの興味深いところは、いくつかの重要な要素が巧みに組み込まれているところにある。
1.地方の名家・池田家が総合病院を経営するという立場の及ぼす影響。
2.池田池の血族内の人間関係。そこに関わる秘められた問題事象。兄弟姉妹間の確執。
3 医療行政における中央と地方の関係
4.総合病院の経営における周辺事業との関係性。周辺事業を取り込んで行く形での拡大
 トータルなマネジメントの視点とそのノウハウ、併せてリスク・マネジメントの問題
5.医療業界の隠された闇の側面。医者と薬剤業界のつながり、医療行政とのつながり、
  医療業界と建築業界とのつながり、・・・・。

これらが複雑に絡み合っていくおもしおろさ。一方で、医療業界の情報小説的側面を併せ持っている。医薬癒着の側面など、著者が得意とする情報領域にリンクしていると言える。

 本書のタイトルは、「孤高の血族」となっていて、表紙には、「Ikeda, the noble
family」と英語が併記されている。この表記を読めば、地方におけるダントツの総合病院を経営する医家・池田家一族が、地方の名士として高潔に、気高さを持って医療分野で貢献するという意味合いが含まれていることになるのだろう。確かに地方で先進的な医療を導入しようとする先端を行く側面が描き込まれている。一方で、池田利雄という主人公が、池田家の中で、己の存在を認知させ、先代利宗よりも一層大きく質の高い総合病院に拡大して、己を疎んじてきた血族を実績で見返していこうとする。己が次世代に総合病院を引き継がせる行くという姿勢を貫こうとする。孤高の存在という立ち位置を貫き、他の血族に対し己の意思を貫徹するという思いがタイトルに込められているのではないかと受け止めた。そして、それが利雄にとって、血族に対する、いわば復讐になっていく・・・・。
 
 本作の内容から考えると、著者が新しい領域を手がけようとチャレンジした単発的な小説といえるだろう。なかなかおもしろい設定の作品となっているが、シリーズ化する意図はなさそうな登場人物設定になっていると理解した。

 ご一読ありがとうございます。

こちらもお読みいただけるとうれしいです。

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「遊心逍遙記」に掲載した<濱 嘉之>作品の読後印象記一覧 最終版
                     2022年12月現在 35冊
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