「伯爵夫人」という名のワイン。いまは「ダルマイヤック」と改名されてしまいましたが、ムートンの所有者であるフィリップ伯爵が命名したワインです。
フィリップ伯爵のロートシルト家(ロスチャイルド家)は大変な富豪ですが、ユダヤ系だったことから、過去にはつらい物語があります。
「シャトー・クレール・ミロン」というワインがあります。このワインのラベルには一組のダンスをする若い男女が描かれています。これは結婚式を挙げたばかりの二人だといわれていて、結婚式のプレゼントにもよく使われたりしています。が、その楽しそうなラベルの裏には、悲しい愛の物語が秘められている事は、あまり知られていません。
ロートシルト家を若干20歳で継いだフィリップ伯爵は、最愛の妻リリーと娘フィリピーヌに囲まれ、若いシャトー主として幸せに過ごしていました。しかし、第二次世界大戦によって大きな不幸がフィリップにふりかかりました。ユダヤ系の大富豪であったロートシルト家はナチスドイツからの迫害を受けて、幸せだった一家は離散。フィリップは難を逃れてフランス軍に、妻リリーはゲシュタボに捕らえられてしまい、娘フィリピーヌは行方不明、ワイナリーも没収されてしまいました。
戦後、父と娘は劇的な再会を果たしたのですが、妻リリーは収容所で悲惨な死をとげてしまっていました。フィリップ伯爵の悲しみは深く、よほど妻リリーを愛していたのか中々立ち直れなかったそうです。そんな彼を救ったのは二度目の妻ポーリーでした。このポーリー夫人の多方面に渡る活躍で、ついに1973年に格付け第一級に昇格することが出来たのは有名な話です。そして数年後に無くなった夫人を讃えて、ダルマイヤックを「ムートン・バロンヌ・フィリップ」と改名したそうです。
一方、もう一つ所有していた畑では娘のフィリピーヌが大切にワインを造り続けていました。それが、シャトー・クレール・ミロンです。そして、このラベルに描かれている楽しそうに踊っている二人は結婚直後のフィリップと最初の妻リリーであると言われています。
どちらの奥様も愛されていたのですね。