Jun日記(さと さとみの世界)

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うの華3 103

2021-01-22 13:33:55 | 日記
 「お前何しにこの家に来たんだ。」

こう父が言うと、「用は済んだんなら帰ったらどうだ。」とも話し掛けて来た。ここまで来ると、父の言うお前が従兄弟であるのは私にも分かった。従兄弟は横目で座敷の方を眺めていたが、悪戯っぽそうに目を光らせた。

「未だもう一寸だよ。」

従兄弟は私の父に応えた。それから私の方へ視線を向けると、

「智ちゃんが途中で話し掛けて来るから…。」

と不服そうに私に文句を言った。「お願いが途中になった儘なんだよ。」と、これは私と言うより座敷にいる大人達に言った従兄弟の言葉の様だった。

 お願い?。私は今し方従兄弟が言っていた、願い事らしい言葉を思い出した。…になります様に、あれの事かしら?。何だか幾つか従兄弟は言っていた様だと私は思うと、

「お願い事って、ひとつじゃないの?。」

と従兄弟に尋ねた。幾つも言って良いのだろうか?、変だなぁと私は思った。私の家では常にお願いは一つなのだ。「一つだけお願いを聞いてやる」、と、父にしろ、母にしろ言うと、願い事は何にするかと訊かれるのだ。私のお願いはお菓子であったり、両親に一緒に遊んでもらう事であったりした。だから従兄弟の様なお願い事があるとは、私にするとあれ等がそうなのだろうかと、半信半疑でもあった。

 「さっきのあれでしょう、お父さんとお母さんが仲良くとか言うの。」

私は従兄弟に確認してみた。あんなお願い事が世の中にはあるんだねと、私は従兄弟に対して不思議そうに言うと、その後のもお願い事?、幾つも一辺に言うのは変じゃないかと顔を顰めて尋ねた。私にすると疑問に思った事をその儘に従兄弟に尋ねてみただけの話だった。従兄弟は呆気に取られたような顔をした。鳩が豆鉄砲を喰らった様なと言うくらい、私の言葉は従兄弟を驚かせた様子だった。

 「嫌味かい。」

仏さんでもそんな言い方するんだな。そうぽそっとつぶやいた従兄弟は、成程、前の智ちゃんならそんな言い方、逆立ちしても出てこないもんねと言った。そうして、仏様、神様とぶつぶつ繰り返すとまた先程の様に、従兄弟はその両の手を合わせて両目をとじた。

 と、もういいから、と、父の声が座敷から掛かり、今度は、はっきりと従兄弟の名を言って私の父は座敷へと従兄弟を誘った。「話が有るから直ぐにこっちへおいで。」と、でもと言いながら私の前でまごついていた従兄弟を、急かした。

 従兄弟が座敷に消えると、私は居間で1人になり手持ち無沙汰となった。座敷では、お前もうお願いは済んだんだろう、未だだ、何、等、当初父や従兄弟の話し声が聞こえていたが、直ぐに2人の声音は低くなり、ちらと聞こえた私の祖父の声も止んだ様子だ。中ではぽそぽそと、話しているのかいないのか、私が耳を澄ませても彼等の声は座敷内から伝わって来なくなった。

 何なんだろう?、私は思った。居間にポツネンと、私は上を見上げて、吹き抜けの先にある高い屋根裏の天井を見上げたり、横に目を遣って土間の格子戸の格子の隙間から、外の往来を覗いて見るべく視線を投げたりした。そしてふいっと台所へ続く廊下の入り口に目を遣った。あれ⁉︎、祖母の白い顔だけが、その暗い廊下の中空に浮かんで見えた気がした。私は驚いて目を見張りその場を見直したが、もうその暗闇には祖母どころか何も浮かんではいず、廊下の闇しか見えなかった。見間違いだったのだと私は思った。念の為、私は廊下へと続く戸口迄進んでその先を覗いてみたが、やはりそこに祖母の姿は皆無だった。

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