Jun日記(さと さとみの世界)

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うの華3  102

2021-01-21 21:52:11 | 日記
    『私たちは子供だ。子供という点では大差ないのだ。』


私は何だかホッとした。私がこの世に生まれ来てこの従兄弟と出会ってから、今までこの従兄弟に感じてきた焦燥感や劣等感、そういった諸々の感情に囚われて来た日々がすぅーっと自らの後方へ引き込まれて行った。そうしてそれらの記憶が過去の思い出としてのみの存在となり、現在の私から流れ去って行ったのを感じた。すると肩の荷が下りた様に私はふわっと身軽になった。自らの柵から解放されたとでもいうのだろうか、私は居間の空気に調和し、自身の身が周囲にほのぼのと溶け込んでいる気がした。私はほっと安堵の笑みを浮かべた。

「智ちゃんね、」

すると従兄弟が急に話し掛けてきた。

「話を逸らそうとしてもだめだよ。」

嫌な話を聞きたくないという気持ちは自分も分かるのだ、と従兄弟は言うと、向こうを向いてぶつぶつ何やら言い始めた。仏さんになってもそうなのか、でも、この機会にはっきり言っておいた方がいいかな、でも、等、従兄弟は独り言ちていた。私は訳が分からず従兄弟のそんな姿を傍観するのみだった。

ふっと、従兄弟が静かになったので私が従兄弟に目をやると、従兄弟はこちらに背中を向けた儘だったが、目だけは黒い瞳をこちらに向けていた。何だろう?。私は思った。従兄弟は、私が従兄弟に注意を向けた事に気付くとくるりとこちらに向き直った。そしてにっこりと笑顔になった。

「止めようかとも思ったけれど、この機会にはっきり言っておくよ。」

こう前置きして従兄弟は語り出した。

    「智ちゃん、君は皆に好かれてない。」家では評判が悪いんだ。そしてそれは家だけに限らないんだ。上の伯父さんの家でもそうだ。智ちゃんのお父さんの、叔父さんだってそうなんだ。事によるとだけど、あの調子では君のおかあさんも…。そこ迄従兄弟が言った時だった、「その辺で止めておけ!」と、座敷から私の父の声が掛かった。

「お前ちょっとこっちに来ないか。」

これも私の父の声だった。誰を呼んでいるのだろう?、私は思った。従兄弟も誰を呼んでいるのだろうと訝った。



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